イベント中止も「返金不可」 被害起きても「自己責任」…トラブル多発〝強欲規約〟に注意

予約後は一切キャンセル不可、返金はしません-。イベントなどのチケットを巡り、業者側のこうした利用規約が原因でトラブルになるケースが後を絶たない。購入者が一方的に不利益を受けるような規定は消費者契約法上無効だが、実際の返金にはつながらず、泣き寝入りを強いられることもある。被害救済に取り組む弁護士は「主催者が過去に問題を起こしていないか調べた上で、契約の判断をしてほしい」と警鐘を鳴らす。
強風は「天災」?
「イベントが中止になったのに、代金の返還を拒否された」
消費生活センターにこんな苦情が寄せられたのは令和3年12月下旬のことだった。その月の17~19日に大阪市住之江区の会場で予定されていた夜空にLEDのランタンを飛ばすクリスマスイベント。強風を理由に一部日程が中止されていた。
主催者は神戸市のイベント運営会社で、全国各地で同様のイベントを開催している。同社がチケット代金の返還に応じなかったのは、購入者が同意した規約に「天災、感染症拡大、その他の非常事態による中止は返金しない」という定めがあったからだ。強風は「天災」もしくは「非常事態」にあたるというのが会社側の主張だった。
このため、当事者に代わって特定適格消費者団体である「消費者支援機構関西」が会社側を相手取り、代金返還義務の確認訴訟を大阪地裁に提起。今年11月の地裁判決は規約の「天災」に強風は例示されておらず、また非常事態にも該当しないとして、会社側に代金相当額の支払い義務があると認めた。
運営会社は団体から提訴された後、規約を一部変更。「中止までに生じた費用などに相当する額の返金を受けられない」と規定した。しかし、団体側は、費用負担のリスクを消費者側に全面的に押し付けるものだとして改定後の内容も消費者契約法に違反すると主張。差し止めを求めて大阪地裁に再び提訴し、現在も係争中だ。
一切返金不可といった規約は、消費者契約法上の「不当な契約条項」に当たる可能性がある。消費者庁によると①消費者の利益を一方的に害する②契約解除の際に平均的損害を超えて代金を徴収する-といった内容はこの不当条項に該当し、無効とされる。
不当条項、訴訟通じ改善も
これまでに各地の団体が起こした訴訟を通じ、裁判所が無効と判断したり、内容が改善されたりした事例も多い。
「期限までに入校辞退の申し出をしなければ授業料は一切返金しない」。九州地方のある大学受験予備校は、年間授業料を前納していた入学者に対し、中途退学時の学費返還は原則行わないとする規定を設けていた。
しかし大分地裁は平成26年、適格消費者団体が起こした訴訟の判決で、中途退学者がいたとしても「別の人の入学を受け入れるといった対応が可能で、前納した全額分の損害は受けない」と指摘。平均的損害を超える条項だとして、無効と認定した。
別の訴訟では、大阪市の旅行業者がイベント参加者に「生命・身体や財産に対して被害が生じた場合は、(業者の)故意や過失による場合を除き全て自己責任とする」とした同意書の提出を求めたことを巡り、兵庫県の団体が同意書の一部差し止めなどを請求。30年に神戸地裁で和解が成立し、業者側の免責事項が削除された。
ほかにも、不動産の賃貸借契約を巡り、修繕費用やクリーニング代を賃借人に過剰に請求したり、賃借人の破産などを理由に一方的に契約解除したりする規約も問題視され、各地の団体が起こした訴訟で改善された。
消費者支援機構関西の専門委員で、ランタンのイベント運営会社に対する訴訟の原告側代理人を務める松尾善紀弁護士は、不当な契約条項への対応について「契約時に規約の内容に不満があっても、事業者に訂正させるのは事実上困難」としつつ、不審に思った場合は「過去に行政処分を受けていないかなど、事前に評判を調べて判断すべきだ」と訴える。(喜田あゆみ)