九州北部を襲った記録的な大雨から一夜明けた29日、佐賀県大町町の順天堂病院は冠水による孤立状態が続いた。水が徐々に引き始めた同県武雄市では、住民たちが自宅の片付けに追われていた。
病院の一帯はダムのように水に漬かり、患者や職員約200人は取り残されたまま。近くの鉄工所から流出した油を含んだ水も流入し、周囲には異臭が漂っていた。
海上自衛隊が午前7時ごろから、ゴムボートで応援の看護師を病院に送るなど救助活動を開始。国土交通省九州地方整備局も、1分間に10~30トンを排水できるポンプ車9台を稼働させてオイルフェンスで仕切られた部分から水を抜き取った。薬剤師の男性(71)は「先週から病院近くの薬局で働き始めた。何か手伝うことがあればと思って来たが、そんな事態ではなかった」と病院を見つめた。
住宅の多くが一時孤立状態となった武雄市北方町では、田んぼや道路に水が残る。同町芦原の会社員松尾浩樹さん(58)は、シャベルで縁側の土砂を取り除いていた。自宅前の道は茶色い水で覆われ、深さは大人の膝下くらい。道路と田んぼの境も分からない。
勤務先の工場は土砂崩れで変電設備が損壊し、操業再開のめどが立たないという。今の場所に家を建てて22年。「これほどの雨は経験がない。また大雨なら、もうかなわん。やんでほしか」。黒雲で覆われた空を見つめてつぶやいた。
佐賀市中心部では、店主らが営業再開の準備に追われた。同市白山2丁目の「白山ドリア・クリム」では、従業員総出で朝から家具を運び出し、床にたまった水をかき出した。店長の神代貴子さん(43)は「掃除や消毒などやることは多いが、きれいに掃除して新たな気持ちでお客さまを迎えたい」と話した。