婚活アプリで「独身」とウソ、「貞操権を侵害」と交際男性に賠償命令…大阪地裁「女性に判断の機会失わせる行為」

独身しかいないはずの婚活マッチングアプリで出会った男性には妻子がいた。その事実を交際解消後に知った女性は、性的関係を持つ相手を自ら決定できる「貞操権」の侵害を司法に訴えた。慰謝料など334万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は独身偽装による貞操権の侵害を認め、男性に55万円の支払いを命じた。(林信登)
訴訟資料や女性への取材によると、脱毛サロンで働いていた大阪府内の女性(30歳代)は2019年3月、出会いの機会を求めて「独身限定」をうたう大手婚活マッチングアプリに登録。まもなく、年下の男性から「いいね」が届き、ラインや電話でやり取りをするようになった。
5月に初めて食事し、女性の自宅で性的関係を持った。女性は読売新聞の取材に「2か月ほどやり取りを続ける中で好意を持つようになった」と話した。コロナ禍に加え、音楽活動で多忙な男性とは会う機会が限られたが、その後も関係は続いた。しかし、20年11月に会ったのを最後に徐々に疎遠になって自然消滅した。
女性が男性の「うそ」に気付いたのは、22年9月だった。男性の活動に関するウェブサイトに幼稚園児ほどの年齢の子どもの写真があり、説明を求めると、「伝えとかなあかんかったよね申し訳ないです」とラインで連絡があった。女性は23年10月、貞操権の侵害を主張して大阪地裁に提訴した。
貞操権は法律上の規定はないが、自分の生き方を自由に決められる自己決定権の領域に位置づけられる。相手にだまされたり、脅迫されたりして性的関係を持った場合に侵害が認められるケースがある。
2人が利用していたアプリは、規約で未婚者だけが登録可能と定められていた。
女性は訴訟で、「アプリに登録していること自体、当初から未婚者であると偽る意思を有していたことは明白だ」と主張。「既婚者であることを認識できれば、肉体関係は結ばず、交際も継続しなかった」と訴えた。
これに対し、男性側は既婚者だったことを認めた上で、女性とデートもしておらず、性交渉だけの関係で、女性もそのことを了解していたと主張。「貞操権を侵害しておらず、自由な色恋の範ちゅう」と反論した。
10月21日の判決で、寺田幸平裁判官は、交際相手を探す人にとって相手の婚姻の有無は「性的関係を伴う交際をするかどうかを判断する重要な情報」と言及。2人が交際関係にあったことを認め、「(男性の独身偽装は)女性にそうした判断の機会を失わせる行為だ」とし、貞操権の侵害を認定した。一方、結婚が前提の関係ではなかったことなども踏まえ、男性の賠償額を55万円とした。
訴訟では、女性が一連のトラブルをSNSの有名配信者を通じて公表したことについても審理された。不貞関係の暴露で社会的評価が低下し、名誉が傷つけられたとして男性が女性に慰謝料など約450万円を求めて反訴したためで、判決は女性にも34万円の賠償を命じた。
女性は判決後、取材に「男性のうそが認定されて安心した」と語り、男性側は「何もお答えできない」と述べた。双方とも控訴せず、判決は確定した。
「アプリで出会い」最多の25%
マッチングアプリは累計会員数が2000万人を超えるものもあり、出会いの手段として定着している。
昨年のこども家庭庁の調査によると、直近5年間に結婚した40歳未満の2000人のうち、アプリでの出会いが最多の25・1%で、職場や仕事関係(20・5%)を上回った。
ただ、昨秋の別の民間調査では、アプリを利用したことがある男女1064人の7割以上が「トラブルがあった」と回答。マルチ商法の勧誘や投資詐欺のほか、パートナーの存在を隠される行為も目立った。
アプリ事業者は対策に乗り出している。
大手事業者が加盟する「恋愛・結婚マッチングアプリ協会」(東京)は今年6月、マイナンバーカードを活用した本人確認の推進に向け、デジタル庁と協定を締結。一部のアプリは、利用者が 登録時にカードを読み取り、戸籍情報から独身と確認 できた場合、プロフィル欄で「独身証明」と明記している。独身偽装が疑われる利用者に対し、公的な独身証明書の提出を求める場合もある。
同協会は「真剣に出会いを求める利用者の気持ちにつけ込む行為は断じて容認できない」としている。