ロマンス詐欺でウソの投資話を持ちかけられ大金をだまし取られるなど、オンラインでの詐欺被害が拡大しています。バンキシャ!が取材でたどり着いたのは、詐欺師の闇マーケット。ネット上で日本人の免許証などが売買される実態とは。【真相報道バンキシャ!】
かおりさん(仮名・60代)
「私みたいな貧乏な人をターゲットにするわけはないって思っていた」
こう語るのは、2025年10月、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害にあったという、かおりさん(仮名・60代)。
かおりさん
「マッチングアプリを(娘と)一緒にやったのがきっかけです」
20年以上前に離婚し、「新しい出会いがあれば」と始めたのが、マッチングアプリだった。そこで出会った人物とやり取りをするうち、あることを持ちかけられた。
「一緒にトレードして…楽に利益を得られるようにするね」
バンキシャ!
「楽に利益を得られるように…」
それは、ウソの投資話。かおりさんは言われるがまま、金をつぎこみ、2000万円以上をだまし取られたという。
かおりさん
「もう取り返したい、とにかく取り返したい」
警察庁によると、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は、2025年(10月末時点)、1370億円を超え、すでに2024年を上回るペースで急増している。なぜこれほどまでに増えているのか。
バンキシャ!が取材すると、詐欺師のための“闇マーケット”の存在が明らかになった。売られていたのは、日本の「運転免許証」、「健康保険証」。その売人を直撃すると…
売人
「詐欺のすべてを教えてやるよ」
2000万円以上をだまし取られたという、かおりさん。その手口は、どのようなものだったのか。
かおりさんによれば、始まりは2025年9月末、マッチングアプリで神奈川県に住むという、「あきひろ」と名乗る人物に知り合ったことだった。
かおりさん(仮名・60代)
「最初はお金の話は全然出てなくて、どうやって暮らしているのか、どういうところに勤めているのか(やり取りした)」
「あきひろ」から送られてきた写真。64歳、職業は建築デザイナーだという。
連絡を取り始めて数日後には…
あきひろ
「私たち共通点いっぱいあるね」
「もし一緒に残りの人生を過ごせるパートナーになれたら、きっと後半の人生めっちゃ幸せになるよね~」
かおりさん
「そうなれたらうれしい。でも、皆さん正直会ってみないとわからないと言います。だから早く会いたいですね~」
やり取りを重ね、思いを募らせていった。
しかし、1週間ほどが経ったある日。「あきひろ」から不可解なメッセージが届いたという。これが、実際のメッセージ。
あきひろ
「もう一緒に人生を過ごすパートナーだと思ってるよ」
「一緒にトレードして…楽に利益を得られるようにするね」
将来を見据えて「一緒に投資をして資産を増やそう」という内容だった。
次に送られてきたのは、投資サイトのリンク。かおりさんは、指示通りにアクセスし、登録したという。すぐに、指定の口座に金を振り込むと…。
はじめは620ドル、日本円で9万3000円だった残高が、わずか30分で、12万3000円に。3万円の利益が出たと表示されていた。これで信じ込んでしまったというかおりさん。
父の資産600万円にも手を出し、振り込んでしまったという。
投資サイト上の残高は増え続け、6700万円を超えていた。
かおりさん
「お金が増えているうれしさ、そこからどんどんのめり込んじゃうっていう感じですかね」
しかしその後、全額を引き出そうと手続きをすると、投資サイトから、こんなメッセージが送られてきた。
「貴方はすでに普通口座引き出し資金レベルの上限を超えています、口座をVIPレベルにアップグレードする必要があります」
全額を引き出すためには、1000万円が必要だという。
その金も、消費者金融と親族から借り、支払ったというかおりさん。不審に思った親族から、「詐欺ではないか?」と指摘され、「あきひろ」に連絡。
しかし、「あきひろ」からの返信は途絶えた。結局、かおりさんは2000万円以上をだまし取られてしまったのだ。
かおりさん
「本当…バカだなって思います」
いま、オンライン詐欺は世界各国で起きていて、特にこの5年間で被害が急増しているという。背景に何があるのか―。
詐欺の実態を国際的に調査する専門家に聞いた。
国際的な詐欺を調査『Elliptic』 トム・ロビンソン氏
「テレグラムの中で運営されているオンラインの市場があるんです」
「詐欺師の活動に必要なものすべてが売られています」
詐欺師のための“闇マーケット”が存在するという。調査を進めると、“闇マーケット”のひとつに、たどり着くことができた。一見普通のチャットに見えるが、中を見てみると、ほとんどが、中国語。
「毎日売り切れます」
そこで売られていたのは―
バンキシャ!
「いろんな名前の運転免許証の画像が投稿されています」
日本の「運転免許証」。他にも「健康保険証」に「マイナンバーカード」も。こうした“身分証”が、1枚1000円前後で売られていた。どれも、本物そっくりに見える。
専門家によると、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」内で運営されている“闇マーケット”。
売人は、免許証のような“身分証”や、銀行口座などを出品。それを詐欺師が購入し、詐欺に使うというのだ。
では、売人とは、どのような人物なのか。バンキシャ!は、そのひとりに接触を試みた。
バンキシャ!
「出ない…」
しかし、数分後、電話のコール。
「かかってきたので取ります」
売人
「ニーハオ」
詐欺師が使う道具をオンライン上で取引する“闇マーケット”。聞こえてきたのは中国語。
客を装い、やり取りを始める。
バンキシャ!
「運転免許証や保険証の値段はいくらですか?」
売人
「何に使うのか、教えてください」
バンキシャ!
「ああ、わかりました、使い道ですね」
売人
「仕事はなんだ?詐欺か?どんな詐欺だ?」
こちらを“初心者”とみた売人は、こんな提案をしてきた。
「詐欺のすべてを教えてやる」
売人
「詐欺に必要なものは1万ドル。成功したら(手に入れた金の)15%をもらう」
この売人の場合、“身分証”や銀行口座など、詐欺で必要なものをセットで販売。
詐欺師は、1万ドル=日本円で約150万円で購入し、だまし取った金額の15%を手数料として支払うという。
バンキシャ!
「日本人を狙った詐欺師はいましたか?」
売人
「たくさん(ノウハウを)教えてきたよ」
バンキシャ!
「それで詐欺は成功している?」
売人
「もちろん、だから続けられるんだ」
ここでバンキシャ!は、日本のメディアの取材だと明かした。
バンキシャ!
「悪いことをしていると思いますか?」
売人
「特に問題ない、金のために売っている人は大勢いる」
「取材するなら金がかかるぞ、タダでは受けない。金を使いたくないなら終わりだ」
バンキシャ!
「切られましたね…」
“闇マーケット”の裏で、増え続けるオンライン詐欺被害。
ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合によると、詐欺師のための“闇マーケット”には、カンボジアを拠点とする企業などが関わっているという。
(2025年12月14日放送「真相報道バンキシャ!」より)