安倍晋三元首相を銃撃し、殺害した罪などに問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判で、奈良地裁では18日、検察側が無期懲役を求刑し、結審しました。
山上被告は、裁判長から最後に何か言いたいことはあるかと問われると「ありません」と答え、証言台に立つことなく法廷をあとにしました。
検察側は論告で、「被告人の生い立ちで不遇な点があることは否定しないが、生い立ちに被害者は無関係。量刑の大枠を変更するものではない」とし、「犯行は短絡的かつ自己中心的で人命軽視もはなはだしい。宗教2世が凶悪犯罪に陥りやすい傾向はない」などと指摘し、山上被告に対して無期懲役を求刑しました。
これに対して、弁護側は最終弁論で「旧統一教会との出会い、それが地獄の始まりだった。被告が宗教虐待の被害者であることを考えなければいけない。悲惨な生活の経験は犯行に一直線に結びつく。被告の生い立ちは核心部分で背景事情ではなく、最も重要視されるべき事情である」などととして「量刑としてはあまりに重すぎる。懲役20年までにとどめるべき」と主張しました。
10月に始まった裁判は18日に結審し、判決は1月21日に言い渡されます
山上徹也被告は2022年7月、奈良市で応援演説中だった安倍晋三元首相を手製のパイプ銃で撃ち、殺害した罪などに問われています。10月28日の初公判で山上被告は、「全て事実です」と話し、母親の旧統一教会への多額の献金が与えた影響が大きな争点となっています。
これまでの裁判で弁護側は、旧統一教会に対する母親の献金をきっかけに、兄が自死に至り、自身も進学をあきらめるなど、家庭崩壊ともいえる状況に陥っていたことを強調。家庭環境と事件にはつながりがあるとして、量刑を決める上で、「十分に考慮されるべき」と主張しました。
一方、検察側は「不遇な生い立ちを抱えながら犯罪に及ばず生きている者も多くいる」と強調したうえで、「不遇な生い立ちが刑罰を軽くするものではなく被害者(安倍元首相)は何ら関係ない」と指摘しました。
もう1つの争点は、法定刑の上限が無期懲役となっている銃刀法の「発射罪」が成立するかどうかです。
検察側は、手製銃が銃刀法上の区分である「拳銃等」にあたると主張する一方で、弁護側は法律が想定していないものであるとして、発射罪は成立しないと主張しています。
これまでの裁判では、山上被告は、安倍氏を狙った理由について「安倍元首相は、旧統一教会と政治との関わりの中心にいる方。他の政治家では意味が弱いと思った」と述べたほか、「銃の製造そのものにもかなり費用や時間がかかり経済的に追い詰められていて(襲撃を)やめてしまうと何のためにしているのか、思いとどまることはなかった」と語りました。
一方で「安倍さんを襲撃対象とすることにあなたは納得できていましたか」と問われると、「あくまでも統一教会が対象ですから教会に賛意を示す最も著名な人は意味はないとは思わないが、本筋ではないと思っていた」と述べ、韓鶴子総裁らが本来の襲撃対象だったと明かしました。
5回にわたる被告人質問の最後には、山上被告から遺族に対する謝罪の言葉が述べられました。
弁護側から、「ひとりの命が失われました。安倍昭恵さんなどに言葉はありますか?」と聞かれると、山上被告は「まず昭恵さんをはじめとして、家族には何の恨みもありませんので、殺害をしたことで、非常に3年半つらい思いをされたことは間違いないと思います」としたうえで、「(肉親が)亡くなるのは経験していましたので、弁解の余地はない。非常に申し訳ない」と語りました。