公正証書作成「裏付け資料の確認徹底を」、法務省が全国の公証人に通知…凍結口座への不当な強制執行問題

公正証書を悪用し、詐欺の被害回復のために凍結された口座から不正に資金を引き出す問題が相次いだことを受け、法務省が全国の公証人に対し、証書作成時には裏付け資料の確認を徹底するよう通知したことがわかった。同省などの調査で、証書作成を巡る不審な依頼が全国で新たに23件確認されたことも判明。再発防止のため、全公証人に注意喚起する必要があると判断した。(小田克朗)
通知は2025年12月19日付で、日本公証人連合会などを通じて発出した。一連の問題では、コンサルティング会社「スタッシュキャッシュ」(東京)が、凍結口座の名義人に金を貸したとするウソの内容の公正証書を東京都内の公証人に作成させ、その直後、証書を基に口座に強制執行をかけていたことが判明。少なくとも10通の公正証書が作られ、23~24年、詐欺の被害金などが入った口座から計約4億円が引き出されたとみられる。
同社の実質的経営者らは25年7月以降、詐欺容疑などで逮捕・起訴され、東京地裁の公判で「貸し付けはなかった」と説明した。関係者によると、同社側は公証人に対し、「貸付金を損失として計上するために公正証書が必要だ」などと説明し、偽造した契約書類などを提示。公証人は説明を信じて証書を作成したが、警察の照会を受け、同社側により詳しい資料を求めると連絡が途絶えたという。
問題発覚を受け、同省が同連合会とともにスタッシュ社と類似したケースを調べたところ、東京、埼玉、千葉など全国の公証人から、証書作成依頼の過程で不審点があったとする情報が計23件寄せられた。公証人が裏付け資料の提出を求めると連絡が取れなくなるなどし、いずれも証書作成には至らなかった。複数の依頼者がおり、スタッシュ社が摘発された後の依頼も含まれているという。
こうした経緯を踏まえ、法務省は、今後も犯罪収益を狙った不正な事案が起きかねないとみて、証書の作成には慎重を期すよう全国の公証人に通知した。貸し借りの事実を裏付ける資料を提出させたり、短期間での強制執行が必要な事情を確認したりすることなどを促している。証書作成時の調査方法について同省が通知を出すのは異例だ。
法務省民事局の担当者は取材に「公正証書の不正利用をできる限り防ぐ観点から、注意喚起を行った。今後も関係機関と連携して適切に対応していく」と話している。
◆公正証書=元裁判官や元検察官らが務める公証人が金銭の貸し借りなどを当事者に確認し、その内容を法的に証明する書面。「返済できなければ強制執行に服する」といった記載があるなど、条件を満たせば判決と同様に強制執行の根拠となる。公証人は法相が任命する公務員で、全国の公証役場285か所に計503人(2025年12月現在)いる。