福井県の杉本達治前知事(63)のセクシュアルハラスメントを認定した特別調査委員による調査報告書は、被害に遭った女性職員らが感じた恐怖や苦痛について詳細に言及した。県政トップの機嫌を損ねぬように本意ではない対応を取らざるを得ないなど、組織の中で尊厳を傷付けられてきた実態が明らかになった。
報告書に並んだ怒りや苦しみの数々
報告書によると、杉本氏は約1000通の性的なメッセージを複数の女性職員に送っていた。それだけでなく、太ももを触るなどの身体的接触も3件が確認された。
調査は河合健司氏(第二東京弁護士会)ら3人の弁護士が担当した。聞き取りに、当時の記憶を思い出して涙を流しながら証言する職員もいたという。
「謝罪は一切受けたくない」「受けた精神的苦痛は一生忘れることができない」「福井から出て行ってほしい」
報告書には、杉本氏の言動に対する怒りや苦しみを表した言葉がいくつも並んだ。
被害者はいずれも、杉本氏と業務上のやりとりをしていた際、性的なメッセージを突然送られた。驚いた直後、杉本氏の機嫌を損なえば自分の仕事を失うのではという「社会的・経済的不利益」が頭をよぎったという。
ある被害者は「親子ほども年の違う杉本氏と性的な関係を持つことを想像して、気持ちが悪くなった。相手は人事権を持っているトップ。気に入るような対応をしないと、続けたい仕事がなくなってしまうのではないかという恐怖感もあった」と証言した。
被害者に執拗(しつよう)に連絡を続けていた杉本氏。中には業務よりも自身の機嫌を優先してほしいという趣旨のメッセージを受けた職員もおり、「知事のストレス発散の道具ではない。遊び相手でもない。自己の尊厳が非常に傷つけられた」と訴えた。
メッセージはセクハラに当たるのでやめるよう、忠告した被害者もいた。それでも杉本氏は謝罪をした後、再び性的な文言を送っていた。こうした状況に、自分に何らかの非があるのではと悩んだり、誰にも相談できずに疲弊して仕事を辞めることを考えたりするケースもあったと報告書は指摘した。
ある職員は当時の心境をこう語った。「私は痛みを感じないサンドバッグではない。杉本氏には想像力や人の心を思いやる力が欠如している。一人で悩み、孤独だった」
ハラスメント相談体制の充実を
報告書は被害者らの現状にも言及した。今も苦痛や屈辱感に耐え、心身に大きな負担を負っていると指摘。不利益を受けることを考えて過去に被害を訴えられなかっただけでなく、今後も交流サイト(SNS)などで中傷や個人の特定がされないか不安を抱いているとした。
被害者らは「昔はもっとひどいセクハラがあったが乗り越えてきた」という被害を矮小(わいしょう)化するような同僚などの声も耳にしたという。こうした状況を踏まえて特別調査委員は、県にハラスメントの相談体制を充実させるほか、被害者のメンタルケアの必要性を訴えた。
報告書の公表を受けて鷲頭美央副知事は記者会見で「救えなかったことが大変悔しい。実効性のある再発防止策と組織改革に全力で取り組む」と、沈痛な面持ちで語った。【萱原健一、島袋太輔、林みづき】