安倍晋三・元首相の銃撃事件の公判は、山上徹也被告(45)(殺人罪などで起訴)の宗教2世としての不遇な生い立ちを巡り、高い関心を集めた。読売新聞が21日の判決を前に、X(旧ツイッター)の投稿を分析したところ、同情論が根強い一方、「暴力の容認になる」と被告への共感に警鐘を鳴らす声も多かった。
SNS分析ツール「ソーシャルインサイト」を利用した。初公判(昨年10月28日)から結審(12月18日)までの52日間で、「安倍元首相銃撃事件」などの語句を含むXの投稿は約7600件(リポストを除く)。初公判前の同じ日数では約3200件で2・3倍に増えた。
山上被告は被告人質問で、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に1億円の献金を行ったことで家庭が崩壊したため、教団への恨みを募らせ、教団に近いと考えていた安倍氏を狙ったと説明した。
公判中の投稿のうち、被告の境遇に同情を示したり、教団の活動や政治との関係を批判したりする「境遇・教団関連」は約700件。「同情を禁じ得ない」「自民党と教団のつながりを暴いた」「宗教2世を救い出した」などだった。
被告を批判し、厳しい刑を求める「暴力批判・厳刑関連」は約800件で、境遇・教団関連を上回った。
「英雄にする風潮はおかしい」「家庭環境が悲惨だったとして関係のない安倍氏を銃殺しても仕方がないとはならない」「とんでもない家族がいる家庭は至る所にある。それでも皆、懸命に生きている」などの指摘があった。審理が進むにつれ、「テロ」と断じる表現も目立った。
1日の投稿数で最も多かったのは、境遇関連では妹の証人尋問があった11月19日(97件)、暴力批判関連は結審した12月18日(96件)だった。
公判では、被告が親族らから金銭的な援助を受け、大学受験の機会があったことや、献金の一部は教団から返金され被告が月13万円を受け取っていたこと、手製銃の材料を購入するため借金をして経済的に困窮していたことが明らかになった。
成蹊大の伊藤昌亮教授(メディア社会学)はXの投稿について「公判を通じ、被告の人生の全部が教団によって破壊されたわけではないとわかり、『被告は一方的な被害者ではない』という見方が強くなっている」と指摘。伊藤教授は被告が投稿したXを分析しており、「事件は教団の問題を起点に、被告が就職氷河期を過ごしたことなど、様々な要因が絡んでいる。感情的な共感や反感ではなく、宗教2世の境遇や教団の問題も含め、冷静に考える必要がある」と語る。
「別の狙撃犯いる」主張、公判中も
事件後にSNSで広まった「別の狙撃犯がいる」などの誤った言説は、公判中も飛び交い、Xの分析では約800件だった。
SNS上で「不可解」とされ、真犯人説の主張につながっているのは、〈1〉安倍氏に命中した弾丸2発のうち1発が見つかっていない〈2〉首に命中し、右肩付近で見つかった弾丸について、高所から狙撃した場合の弾道で、被告は路上にいた――などだ。
〈1〉に関し、遺体を司法解剖した奈良県立医科大の粕田(かすだ)承吾教授が10月の証人尋問で、救命措置中に血液を吸引した際、一緒に吸い込まれた可能性に言及した。〈2〉についても、粕田教授は、安倍氏が演説中で右腕を上げていたことから、被告が発射した弾丸で矛盾はないと説明した。こうした証言や、取り調べられた証拠を踏まえ、真犯人説が「デマ」であることを強調する投稿もあった。