各紙の選挙序盤の情勢調査によると、自民党が単独過半数をうかがう勢いで、中道改革連合と維新が議席を減らすと見られている。公明党の堅い組織票は400万票程度とされ、289の小選挙区で割ると約1.4万票。これが自民から中道に流れるが、それでも高支持率を背景に高市・自民が議席数を伸ばしそうだ。
ジャーナリストの石戸諭氏は、情勢調査では自民優勢と出ている一方で、選挙の“現場”では中道に陰りが見え始めている点を指摘する。
(以下、石戸氏の寄稿)。
◆中道議席減の予測
「いよいよ撤退戦が始まったのかもしれない」
衆院選の公示直前、都内の選挙区を受け持つ創価学会員はこう漏らした。期待の若手として熱心に選挙運動に取り組んできた男性の言葉だけに重みがあった。同時に、その言葉に総選挙のポイントがあると感じた。新党・中道改革連合は、どの程度のインパクトを残せるのか? と。
学会員が選挙運動に熱心なのはよく知られている。1つの選挙区あたり1万~3万票とされる学会票は、四半世紀にわたる自公連立政権を支えてきた。忘れてならないのは、その票が自然発生的には生まれないという事実だ。
フレンドの頭文字を冠した「F票」は、学会運動員が友人に電話をかけるなどして掘り起こした票を指す。選挙区には「一人で100票を動かす古参会員」「地域ごとに1票単位で割り出す票読みの達人」などの伝説的な運動員がいた。彼らが本気で取り組み、生まれたのが公明党の組織票だ。
では、今回の選挙でもこうした動きは本格化するのか? 学会員に聞く限り、総じて動きは鈍い。解散直前、各地で学会が選挙についての会合を持ち、異例の方針が打ち出された。従来、運動員に報告を強く求めていたF票や期日前投票と当日投票の確約数といった重大指標の報告は見送られ、一部の幹部は「立憲が嫌だという人は自分で判断しても……」と話したという。つまり「自主投票もアリ」ということだ。旧公明議員は小選挙区から撤退し、比例上位で処遇されているため、これまでのような応援は必要がないという思惑も透けて見える。
自公連立政権では与党であることがプラスに働き、自民党支持層との間で巧みなバーターも成立した。だが、それによって自民党発の不祥事の煽りも食らうことになった。
◆撤退戦という言葉の真意とは?
“裏金議員”の代表格と目された萩生田光一・自民党幹事長代行が立つ東京24区は、同区に創価大学があることも背景に熱量が高いと聞く。だが、他の選挙区における学会票の行方は不透明だ。そもそも、度重なる選挙が学会員、特に2世以降の若年層の大きな負荷になっているという話は前々からあった。自公連立解消以前から、学会票のあり方は変わり始めていたのだ。
冒頭の言葉からは、国政から徐々に撤退しつつ、地方議員を抱える組織として公明党を存続させながら、信仰生活と教育に特化していく新たな姿も見えてくる。真冬に火ぶたが切られた選挙戦は、公明党という一大プロジェクトの終わりを告げるかもしれない。
<文/石戸諭>
【石戸 諭】
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)