画像や動画だけじゃない “拡散”のフェイクとは
選挙期間中のSNSには、いつも以上に多くの情報が飛び交う。候補者の発信、応援の声、批判や疑問――その中に、人工的に“作られた”広がりが紛れ込んでいることをご存じだろうか。
オンライン言論空間の分析を手がける「ジャパン・ネクサス・インテリジェンス(JNI)」の竜口七彩ヘッドアナリストは、今回の衆議院選挙に際して、不審な動きをする複数のアカウントを検知した。
「SNSでのリポストやリプライが作られている」――私たちが日々目にする「バズり」が、必ずしも自然発生的なものではない可能性があるというのだ。
「7つのアカウントが同じ文章を投稿」――協調的活動の痕跡
竜口氏が注目したのは高市総理を中傷したとある投稿。7つの異なるアカウントが全く同じ文章で返信していて、いずれも高市総理を批判するものだった。
返信のタイミングも不可解だ。1月14日の投稿に対し、2アカウントは6日後に、残る5アカウントは13日後に一斉に返信している。アイコン画像も複数のアカウント間で共通しており、プロフィールにも類似した特徴が見られた。
竜口氏は、これを「何かしらの意図をもって協調的に活動しているのではないか」と分析する。
また、この高市総理を中傷する投稿をしたアカウント自体にも不自然な点がある。これまで中国語や英語で発信していたのが、去年12月から突然日本語の投稿が増えたのだ。
「バズっているから正しい」は危険――“3つの偽”に警戒を
JNIヘッドアナリスト・竜口七彩さん 「ものによってはリポストやリプライがすべてこういった形で作られている。バズっているからといってすぐに情報に飛びつくのではなく、“作られている”ケースもあると知っておいた方がいい」
SNSと向き合う上で、偽情報には「3つの偽」があると竜口氏は警鐘を鳴らす。
▼一つ目は「コンテンツの偽」 文章の改変や、生成AIを使ったフェイク画像・動画など。 検索エンジンやAIツールでのファクトチェックが有効で、ユーザー自身で一次データを確認して、情報の正確性を見極めていくことが重要。
▼二つ目が「拡散の偽」 今回検知されたような、協調的な投稿やリポストによる“作られた拡散”。 中にはツールを使った機械的な活動もみられるため、いいね数やリポスト数に踊らされないことが重要。
▼三つ目は「文脈の偽」 例えば、過去の記事を現在の出来事であるかのように引用し、誤解を招く手法。 2023年の福島第一原発の処理水放出の際には、2012年の福島の放射線量を報じた記事を2023年に引用し、あたかも最近の放射線量と見せかけた事例があった。
JNIヘッドアナリスト・竜口七彩さん 「投稿を目にした時に、誰かに言いたくなる衝動や何かしらの不安や恐怖を感じてしまった時はかなり黄色信号。自分の感情を揺れ動かされるようなコンテンツほど、“3つの偽”を意識して情報に向き合っていただいた方がいい」
総理批判に集中する不審アカウント――背後にある狙いとは
不審なアカウントはほかにも。
2010年のアカウント開設以降ほとんど活動が確認されなかったのが今年に入ってから高市総理を批判する投稿を大量にリポストするケースや、同じハッシュタグや文章を使った政権批判の投稿が衆院選の公示日(1月27日)以降に急増したケースもある。
JNIヘッドアナリスト・竜口七彩さん 「怒りや不安に響くようなコンテンツはより多くの人たちに見られやすい。よく検知されるものは日本の総理大臣や政権に対する批判が多い傾向がある」
批判的なコンテンツを拡散する狙いについて、竜口氏は次のように分析する。
JNIヘッドアナリスト・竜口七彩さん 「自身の信条や思想に則った状態で活動する人や、最近はSNS上でコンテンツを収益化できるのでお金を儲けるために拡散する人もいる。海外でも検知されているような選挙介入や影響力工作と言われるものでいえば、日本国内の分断を煽ったり国内を不安定にする目的も考えられる」
海外アカウントが日本語で政権批判――選挙介入の可能性は?
「外国勢力による選挙介入」をめぐっては、去年7月の参院選でも介入が疑われる事例が報告された。今回の衆院選でも前述のとおり不審なアカウント活動が検知されているが、JNIの髙森雅和代表は現時点では「影響は限定的」としつつも、警戒の必要性を訴える。
JNI・髙森雅和代表 「分断を煽って混乱させて、ひいては国力を下げていくっていうことが海外でもよく報告されている。ヨーロッパやアメリカで起きているものが日本で絶対に起きないとは言えないと思うので、こういった動きを注視・警戒している」
私たちに求められる“情報との向き合い方”
情報が氾濫する時代に、私たちはどう情報と向き合えばいいのか。髙森氏は、選挙や災害時には偽情報が増える傾向があると指摘した上で、こう呼びかける。
JNI・髙森雅和代表 「SNSには自分の異なる意見をあおるような強い言説や、怒り・憎しみを煽るコンテンツがあふれている。過激なコンテンツほど、裏側の意図を持った人たちが発信してるっていう可能性があるんだということを知っておくだけで、『このままで良いのかな』とか『もう一個の情報見てみよう』」という行動に繋がる」
急激に閲覧数が増えている投稿、過激な言葉で感情を揺さぶる投稿――そうしたものに出会ったとき、一度立ち止まる習慣を持つこと。そして、“作られた広がり”である可能性を念頭に置きながら情報を吟味すること。完全に見破ることは難しい。だからこそ、「こういう事例があるっていうことを知っておくだけで心構えが違ってくる」と髙森氏は語る。
私たち一人ひとりに、今、新たな“情報リテラシー”が求められている。