コロナ禍の心理的負担と医師叱責で精神疾患、看護師自殺に労災認定…救急車見るだけで頭痛や動悸

大津赤十字病院(大津市)の女性看護師(当時41歳)が2021年に自殺したのは、新型コロナウイルス感染の危険性が高い業務に従事する中、医師の叱責(しっせき)で精神疾患を発症したのが原因だとして、大津労働基準監督署が労災認定していたことがわかった。コロナ禍を経て新たな労災認定基準となった「感染リスク」が適用された。(上万俊弥)
医師の叱責を巡り、遺族は18日、同病院を運営する日本赤十字社に慰謝料など約1億円の損害賠償を求め、大津地裁に提訴した。
労災審査の書面によると、同病院は新型コロナ患者の対応にあたっていた。内科勤務だった女性は21年3月8日、PCR検査を受ける患者を救急外来の処置室に搬送した際、男性医師から、消毒が不十分な手でカーテンに触れたなどとしてとがめられた。同4月18日に自宅で自殺した。
遺族は労災を申請したが、23年2月に退けられ、再度の審査を求めた。一方、国は同9月、労災認定基準に「感染症などの病気や事故の危険性が高い業務」を追加。同労基署は24年に労災と認定した。
労災審査書面では、新型コロナが重篤な症状をもたらす可能性があり、発熱者とそれ以外の来院者の分離措置が講じられていたと指摘。頻繁に変更される感染対策の情報不足で現場の業務に支障が出ていたことも踏まえ、「業務の遂行は一定の心理的負担を伴うものだった」とした。
男性医師についても「業務指導の範囲内だが、叱責の程度は強かった」と言及。心理的負担と医師の叱責を総合して女性の負荷は強かったと結論付け、労災と認めた。
地裁に提訴した遺族は女性の夫と子どもら。訴状では、男性医師が謝罪し続ける女性に対し、患者や同僚の前で10~20分間、「汚い」「お前がコロナを広げるんや」「内科の患者はもう診ないぞ」などとどなり続けたと主張。女性が死亡前に同僚らとのLINEで、眠れなくなり、日赤のマークや救急車を見るだけで頭痛や動悸(どうき)がすると伝え、「まるで細菌扱い」と吐露したとしている。
09年以降に男性医師が複数の看護師に叱責を繰り返し、病院側も把握していたとし、病院の安全配慮義務違反を訴えている。
夫は取材に「妻の苦しみを思うと、今も胸が張り裂ける思いです。組織の体質や管理体制の問題を明らかにし、再発防止につなげたい」とコメントした。
大津赤十字病院は提訴後の取材に「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。
厚生労働省によると、今回と同様、感染リスクについて定めた新基準に従い労災認定されたのは23、24年度で計4件。
医療関係者、コロナ禍でより強いストレス
今回の労災は、新型コロナ対応の心理的負担と、医師の叱責によって認定された。
厚生労働省のアンケート調査(2022年度)では、感染拡大の前後で、環境の変化による不安やストレスが「増加した」と回答した職業別の割合は、「医療・福祉」が56%で最も高かった。
労働問題に詳しい常見陽平・千葉商科大准教授(労働社会学)は「医療現場は、医師と看護師に上下関係が生まれやすく、命を扱う緊張感も相まって、あらゆるハラスメントが起きやすい」と指摘。「医療機関は、コロナ禍という非常事態ではより強いストレスがかかると認識した上で、ハラスメント研修を行ったり、人手を増やしたりするなど、できる限りの予防策を取る必要がある」と語る。