大手回転すしチェーンで相次ぐ「食い逃げ」被害 狙われたセルフレジ、性善説のジレンマ

昨秋、神戸市内の回転すしチェーン店で、セルフレジでの会計を済まさずに食い逃げする事件が相次いだ。人手不足の影響で設置が広まるセルフレジ。一方で、客が自分で操作して代金を精算するため、支払ったように装う手口による未清算も相次ぐ。回転すしチェーン店ではセルフレジの仕組みを悪用し、店員の目を盗んで無銭飲食を繰り返していた。効率性や利便性の裏側に潜む犯罪リスクにはどのような対策が有効なのか。業界側の最新事情を取材した。
「会計」せず立ち去る
関係者によると、昨年9月、神戸市内の大手回転すしチェーン店に、Tシャツ、短パン姿の30代くらいの男が手ぶらで現れた。
男は入り口近くのカウンター席に陣取り、タッチパネルを使って注文。レーンで運ばれたすしやアルコール類を散々飲み食いした揚げ句、セルフレジを素通り。約8千円の代金を払わず、何食わぬ顔で立ち去った。
男は約1週間後にもこの店を訪れ、同様の手口で約6千円分を飲み食いし、立ち去った。店員が気づいたときには男の姿はなく、食器類とレシートだけがカウンターに残されていたという。
同店は兵庫県警に被害届を提出。県警が詐欺事件として捜査している。
確認しづらい事情
なぜここまで大胆な無銭飲食ができたのか―。
店内はカウンターとテーブル席が交互に配置された100席近くがあり、セルフオーダー、セルフレジを採用。入店時に座席番号の記載された案内札が発券され、自動アナウンスで席へと案内される。
その席上のタッチパネルを操作し一皿百数十円ほどの握りずしなどを注文。食べ終わった際にパネルで「会計」ボタンを押し、入り口のレジで案内札の二次元(QR)コードを読み込ませ精算する方式を採っている。
店内では、店員1人~数人程度が接客を含めた案内などに対応し、レジ前には店員がいないこともある。タッチパネルで会計を知らせない限り客が食べ終えたかどうか判別しづらい。今回はこうした店側の仕組みにつけこんだ格好だ。
神戸市内では別のすしチェーン店でも同様の被害が確認されているといい、県警が捜査を進めている。
フルセルフレジほど多い被害
一般社団法人「全国スーパーマーケット協会」が国内スーパーの運営会社に実施した調査によると、セルフレジ設置率は令和2年は15・8%にとどまったが、7年は41・7%にもアップした。
セルフレジには、商品スキャンから精算まで客が操作する「フルセルフレジ」、スキャンなどの一部作業を店員が行い、支払いを客自身がする「セミセルフレジ」、商品選びから支払いまで客が行う「券売機型」などがある。
全国万引犯罪防止機構(東京都)が小売業者265社を対象に実施した6年のアンケートによると、セルフレジを導入した社のうち25%が万引被害が増えたと回答。また、セルフレジを導入する大手ドラッグストアと大手スーパー5社へのアンケートでは、同年1年間の万引被害が計2千件にも上ったという。
同機構の担当者は、店員がレジ作業を担当する店舗より、フルセルフレジになるほど「被害が多くなる傾向が強まる」という。一方、ある捜査関係者は、セルフレジは悪意なく会計を済まさずにうっかりと退店するケースがあり、事件かどうかの判別がしにくい面があるとも指摘する。
最新の対策は…狙われやすい日本の性善説
こうした状況を受け、防犯対策を施した最新のセルフレジも開発されている。
東芝テック(東京)は、「フルセルフレジ不正検知システム」をリリース。手元を監視するレジ上部のカメラが、バーコードをスキャンせずに商品を袋詰めする不正を検知すると、瞬時に店員へ知らせる。
セルフレジを開発、販売する寺岡精工(東京)は、精肉や総菜など重量が変化するパック商品の「スキャン飛ばし」対策が施されたセルフレジシステム「はかりセルフ」を製品化。同レジのシステムでは重量をデータ化して個別番号「パックID」を各商品につけ、登録された商品の重量と買い物袋台に搭載された計量器の重量に相違がないかを確認し不正を防ぐ。
防犯対策に詳しい総合防犯設備士委員会の高尾祐之委員長(ヒビキセキュリティ社長)は「セルフレジは日本人の性善説を利用して運用されている」とし、「世の中には一定数犯罪思考をもつ人もいるという現実を想定して防犯システムを考え、犯罪のチャンスを作らないことが重要だ」と警鐘する。
その上で、高尾氏は、「入りにくい」「見えやすい」「やりにくい」の3つのキーワードをもとに商品棚を低くして死角をなくしたり、高額商品をレジ横に置いたりするなどの対策が有効だと指摘。「防犯カメラの設置といった設備を整えるだけでなく、環境づくりにも力をいれてほしい」と話している。(浦柚月)