中国が人工衛星「遥感(ヤオガン)」で日本の本土や近海などを監視しているのは、台湾有事などに際し、在日米軍基地から来援する米軍の動きを早期に探知するためとみられる。米国の接近や行動を阻む軍事戦略「A2AD(接近阻止・領域拒否)」の確立に向け、中国軍は宇宙からの監視能力を着実に増強させている模様だ。
米強襲揚陸艦が拠点を置く米海軍佐世保基地(長崎県)付近の上空についても分析したところ、2025年12月下旬の約1週間で遥感は1日平均約48回通過していた。午後5~7時の2時間で10基が通過した日もあった。米海軍横須賀基地(神奈川県)と同様に高い頻度で監視されており、分析に協力した宇宙工学の専門家は「米軍を太平洋で見落とすことがないようにする目的だろう」と指摘する。
中国軍は、伊豆諸島から米軍の拠点があるグアムを結ぶ「第2列島線」の内側への米軍の接近を阻止し、それでも、南西諸島からフィリピンに至る「第1列島線」の内側に進入しようとする米軍の行動を阻む軍事戦略「A2AD」の確立を進めているとされる。
第2列島線に近い横須賀基地や第1列島線への展開をにらむ佐世保基地の米軍の動きを早期に把握することは、中国軍にとって、台湾への侵攻に着手するタイミングを探る上で優先順位が高いとみられる。
元空将の荒木文博・スカパーJSAT社長補佐は、「遥感の大半は対象物が出すレーダーや通信などの電波を収集して発信源の位置を特定するタイプであり、米空母などの動静を監視している可能性が高い」と分析する。宇宙工学専門家も「遥感は、中国がA2ADを実現するための大規模センサーネットワークだ」と指摘する。
遥感は、中国軍が太平洋で米空母を迎撃する際の「目」の役割も担うとみられる。中国軍は太平洋に空母「遼寧」などを進出させ、米空母の迎撃を想定した訓練を行っており、遥感による監視体制と合わせ、台湾侵攻に向けた準備を着実に進めているとみられる。
日本は撮影1日1回 衛星11基
日本政府は、光学衛星とレーダー衛星など11基の情報収集衛星を運用し、「地球上の特定地点を1日1回以上撮影できる」(内閣官房)体制を取っている。これに加えて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や国内外の企業などの商用衛星の画像も購入し、日本周辺の警戒監視を行っている。
ただ、現在の体制では、艦艇など移動する目標には十分に対応できない。政府は、反撃能力を担う長射程ミサイルの運用に向け、多数の小型衛星を一体的に運用する「衛星コンステレーション」の導入を目指しており、2028年3月に本格運用を開始したい考えだ。
防衛省は来年度、宇宙空間の防衛能力向上に向け、航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に改称する。宇宙の監視を担う空自の宇宙作戦群(310人規模)は今年度中に宇宙作戦団(670人規模)に格上げし、来年度には宇宙作戦集団(880人規模)とする方針だ。