【深掘り解説】えん罪被害防ぐ“最後の砦” 再審制度は本当に変わるのか? 「検察の抗告禁止」にも抜け道が・・・? 第三者の検証を閉ざす“新たな壁”も【若狭勝弁護士解説】

逮捕から58年を経て無罪を勝ち取った袴田事件をきっかけに、日本の「再審制度」がいま、見直されようとしています。 しかし、その改正案には課題があるとされていて、「抜け道」や「後退」と指摘する声も。 元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士が、再審制度の改正案の「光と影」を解説します。 再審制度は「有罪が確定した刑事裁判をやり直す制度」で、えん罪救済の「最後の砦」ともいわれています。 この制度が見直される大きなきっかけとなったのが「袴田事件」でした。 1966年に逮捕された袴田巌さんは、1980年に死刑が確定した後、2024年、再審でようやく無罪となりました。逮捕から58年、死刑判決から44年という長い年月が経過していました。 この点について若狭勝弁護士は、「えん罪被害者が最終的に再審無罪になるまでに、あまりにも時間がかかりすぎるので、人権侵害も甚だしいというのが法改正のきっかけ」だと指摘します。 「袴田事件」では、2014年に一度、静岡地裁が再審開始を決定したにもかかわらず、検察の不服申立てにより、そこから無罪判決まで約10年もかかっていて、この検察の不服申し立てが審理の長期化を招いているのではないかという問題を浮き彫りにしました。 若狭弁護士は、えん罪は「人権侵害だけでなく、真犯人が野放しになるといった問題もはらんでいる」と強調しました。 審理が長期化する最大の要因は、検察による不服申立て(抗告)の仕組みにあります。 地方裁判所が再審開始を決定しても、検察が「即時抗告」すれば高等裁判所へ、さらに高等裁判所が最新を認めても検察が「特別抗告」すれば最高裁判所へと審理が持ち越され、この一連の手続きが何年も続くことになります。 改正案では、この検察の抗告を「原則禁止」とすることが盛り込まれました。 一方で、「十分な根拠がある場合は例外」ということも盛り込まれています。 若狭弁護士はこの規定が「抜け道」になる危険性を指摘しています。若狭弁護士「例外に当たるかどうかの判断を検察自身が行う仕組みになっているため、原則と例外が逆転してしまうおそれがある」 対策として若狭弁護士は、「裁判員裁判のように第三者(専門家)を入れる」など、中立的な機関の関与を提案しています。 一方で、自民党が当初求めていた「抗告の全面禁止」は、地方裁判所が再審開始の判断に極度に慎重になり、かえって審理が長引く可能性や、本当に有罪の人物が無罪になるリスクも生まれると指摘しています。 「抗告は高裁への1回限り、審理期間は1年以内」といったバランスの取れた制度設計の重要性を訴えました。若狭弁護士「地裁が再審開始を決定し、その後高裁と最高裁で『再審開始決定は正しい』とすれば、検察の方は『再審無罪になるだろう』ということで、徹底的に争う気持ちが当然薄れます。しかし、不服申し立てを認めないと、高裁と最高裁の追認というプロセスが省略されるため、再審裁判が始まったときに、検察が『簡単に再審無罪にはできない』と思って、徹底的に掘り下げて証拠を出してきます。結果的に再審の裁判が、今までよりも時間がかかってしまうということは考えられます」 改正案では、これまで義務ではなかった検察側の「証拠開示」が義務化されるという前進が見られます。若狭弁護士も「これは当たり前の話」と評価しました。 しかしその一方で、開示された証拠を弁護団以外の支援者やメディアなど「第三者に開示してはいけない」という「目的外使用の禁止」規定が新たに盛り込まれました。この点について若狭弁護士は「あまりにも行き過ぎだ」と強く批判します。 袴田事件では、検察が開示した「血痕付き衣類」の証拠写真について、報道機関や専門家が独自に検証などを行い、検察の主張の矛盾を科学的に証明したことが無罪への大きな後押しとなりました。 改正案がこのまま成立すれば、こうした第三者による検証の道が閉ざされ、かえって真相解明が遠のく危険性があります。若狭弁護士は、「必要な範囲で」第三者への開示を認めるべきだと主張しました。 最後に若狭弁護士は、今回の見直しが刑事司法の根幹に関わるため、「もっと国民的な議論を高めるべきだ」と訴えました。特に、「裁判員裁判」で有罪となった事件の再審について言及。「一般市民の目で有罪だと判断されたものを、プロの裁判官3人だけで覆すことの是非」など、これまでとは異なる新たな論点が生まれることを指摘し、慎重な制度設計の必要性を改めて強調しました。(『newsおかえり』5月14日放送)