【栃木強盗殺人事件】従来のトクリュウとは違う「幼稚で粗雑」な犯行?16歳少年ら『白い外車で無免許移動』なぜ 指示役夫婦とも顔合わせか…増加するトクリュウ犯罪、裏社会で何が【解説】

これまでの「トクリュウ」とは異なる特徴
栃木県上三川町で家族3人が死傷した強盗殺人事件は、社会に大きな衝撃を与えました。この事件で逮捕されたのは、16歳の少年たちと、乳児を抱える20代の夫婦……匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」による犯行とみられていますが、これまでのトクリュウが関与した強盗事件とは異なる特徴が浮かび上がっています。
いま、裏社会で何が起こっているのか。摘発件数の増加も見られるトクリュウによる犯行について、その手口や暴力団の関与、警察による対策の現状を、2人の専門家への取材に基づき解説します。
≪話を聞いた有識者≫

◎犯罪ジャーナリスト:石原行雄氏

◎元兵庫県警刑事部長:棚瀬誠氏
“実行役”は全員16歳…少年たちがなぜ
今回の事件では、富山英子さん(69)が20か所以上もの刺し傷や切り傷を負わされ、出血性ショックで死亡するという凄惨な結末を迎えました。
逮捕された実行役の4人は、全員が16歳。高校に通う歳の少年たちがなぜ、このような凶行に至ったのでしょうか。
従来の「トクリュウ」を覆す“横のつながり”
驚くべきは、彼らが全くの初対面ではなく、一部に「横のつながり」を持っていた点です。
これまでのトクリュウによる強盗事件では、SNSの「闇バイト」などを通じて集まった「お互いの素性も知らない者同士」が指示役の道具として使われるケースが主流と言われていました。
しかし、今回の事件では、以前同じ高校だった少年や知人関係の少年たちが誘い合わせる形で4人のグループを形成していました。
専門家が指摘する「幼稚で粗雑な犯行計画」
事件の構図としては、逮捕された横浜市に住む竹前海斗容疑者(28)と妻の美結容疑者(25)の夫婦が指示役とみられ、実行役の少年がSNSで闇バイトに応募してこの夫婦と知り合ったとされています。
さらに特異なのは、少年たちが現場へ向かう前に、この指示役夫婦と実際に顔を合わせをしていたとみられる点です。
犯罪ジャーナリストの石原行雄氏は、今回の事件について「計画が幼稚で粗雑」であると分析しています。
通常のトクリュウであれば、上層部の安全を確保するため、実行役は指示役の情報は知らされないものでした。しかし、今回は実行役の少年らと指示役の夫婦が「顔合わせ」を行っていて、さらに逮捕された少年たちから「夫婦に頼まれてやった」という供述が引き出されています。
リスク管理を無視した『無免許での高級外車移動』
また、実行役の少年の一人は無免許であるにもかかわらず、竹前容疑者側から渡されたとみられる白い高級外車を運転していたとされています。神奈川から栃木までは約150km、高速道路を使っても2時間半以上かかる道のりです。
途中で事故を起こせば、犯行に及ぶ前に警察にすべてが露呈するリスクがありました。さらに、白い高級車は移動中も現場付近でも非常に目立ちます。
こうした「無謀で、リスク管理を無視した犯行手口」は、これまでのトクリュウの犯行とは大きく異なる印象を受けます。
巧妙に多角化し、急増するトクリュウの脅威
トクリュウによる犯罪全体に目を移すと、犯罪件数は減少するどころか、むしろ増加しています。
警察庁のデータによると、トクリュウ型犯罪の摘発人数は一昨年(2024年)の1万105人から、去年(2025年)は1万2178人へと増加しています。
世間では「ルフィ事件」などの印象から、トクリュウ=強盗というイメージが強く定着していますが、その犯罪の手口は多角化しています。
現在では強盗だけでなく、特殊詐欺、悪質ホスト、違法カジノ、闇金融、さらには違法薬物の密売まで多岐にわたり、固定された組織を持たず犯罪ごとにSNSなどで実行犯を使い捨てるトクリュウの構造が使われています。
被害額が過去最高となった特殊詐欺の最新手口
特に深刻なのが、過去最高額を記録している特殊詐欺の被害です。
一昨年から去年にかけて被害額が激増し、去年(2025年)の被害総額は1414億円という巨額に達しました。石原氏によると、現在は「SNS型投資詐欺」や「ロマンス詐欺」、「警察官なりすまし詐欺」などが主流となっています。
「自動音声の電話」が入り口になる場合も…巧妙化する特殊詐欺の手口
その手口には「最初は信用させ、最後は大金を出させる」という共通点があり、日々巧妙化しています。
例えば、最初の接触が「自動音声の電話」であるケースが増えています。世論調査のような雰囲気を装うことで、被害者に公的なものと思い込ませる手口です。
また、警察官を名乗る男とのビデオ通話中に偽のURLを踏ませ、本物そっくりの「警視庁ホームページ」に誘導する手口もあります。そこで自身の事件番号を入力させると、偽の「逮捕状」が表示され、完全に信じ込んでしまった被害者から「無関係を証明するための手続き」の名目で大金を騙し取るのです。
暴力団の衰退と「儲からないヤクザ」の現実
このようにトクリュウが拡大を続ける背景には、暴力団の衰退という現実があります。
1992年の暴力団対策法(暴対法)施行時は全国に約9万1000人いた暴力団員は、一昨年(2024年)には1万8000人まで激減しました。
現在の法規制下では、暴力団員になるとアパートを借りることも、携帯電話の契約をすることも、自分名義の銀行口座を作ることもできません。裏社会の人間たちの本音としても、「ヤクザはもう割に合わない」「儲からない」という認識が広がっているようです。
暴力団の資金とノウハウがトクリュウへ?
石原行雄氏は、「トクリュウは暴力団の苦肉の策である」と指摘します。
規制強化によって表立って活動できなくなった裏社会が“素人”を使わざるを得なくなった現状がある、ということです。
しかし、犯罪の素人が資産家を狙うためには、どこの誰が資産を持っているのかという「闇名簿」や、犯罪の「ノウハウ」、および稼いだお金を洗浄する「マネーロンダリング(資金洗浄)」の仕組みが必要不可欠です。これらは暴力団の関与や組織的な後ろ盾がなければ容易に用意できるものではありません。
そのため、トクリュウの主犯格や中枢には、警察の摘発を逃れるために姿を変えた暴力団員が関与している可能性もあるということです。
警察の取り締まり強化で現状変わるか
この深刻な事態に対し、警察当局も本格的なトクリュウ対策に乗り出しています。
まず、警察庁は全国の情報を一括して集約する「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」を発足させました。さらに、前線部隊として全国から約200人の精鋭捜査員を集結させた「匿流ターゲット取締りチーム(通称・T3)」を新設。末端の実行犯を捕まえるだけの“トカゲの尻尾切り”に終わらせず、グループの中核人物や首謀者の検挙を図る体制を整えています。
仮装身分捜査で「リクルーティング難易度上がった」
なかでも抑止力として大きな効果を発揮しているのが、去年(2025年)1月から本格運用が始まった「おとり捜査」の一種である「仮装身分捜査」です。捜査員が架空の一般人を装ってSNSの闇バイトに応募し、組織の内部へと潜入・接触を図る手法です。
これにより裏社会の人間たちは、「応募してきたのは警察官かもしれない」という強い警戒感を抱くようになり、リクルーティング(実行犯集め)が難しくなっているとされています。
犯罪ジャーナリストの石原氏は、「地道な捜査を積み重ねれば上層部の摘発は可能。どんどんトクリュウが弱体化に向かっていることは間違いないのではないか。暴力団を含めて、かなり追い込んでいる表れではないか」という見立てを示しています。
若年層への発信と、これからの時代に求められる防犯意識
元兵庫県警刑事部長の棚瀬誠氏は、今後の課題として「道具」として使い捨てられる若年層への情報発信を挙げています。
メディアが闇バイトの危険性を訴えても、今回逮捕された16歳の少年たちのような若い世代にその警告が届かなければ意味がありません。裏社会の道具にされないために、いかに犯罪が「割に合わない」ことかを啓発していく必要があるということです。
カメラは抑止力にならず…防犯意識の転換を
また、いま私たちが強く認識しなければならないのは、「家に防犯カメラを設置しているから安心」「しっかりと施錠しているから大丈夫」という、これまでの旧来の防犯意識では、もはやこれらの犯罪を防ぎきれない可能性が高いという事実です。
今回の栃木の事件においても、被害に遭った住宅には複数の防犯カメラが備わっていたことが報じられています。しかし、計画の粗雑さゆえに捕まることすら恐れない、あるいはブレーキの利かない若者が短絡的に暴走するトクリュウの強盗犯に対しては、カメラの存在が従来の「抑止力」として十分に機能しなくなっている恐れもあります。
犯罪の手口が日々「雑で凶悪に」、そして「巧妙に」変化しているとするならば、「狙われないために自宅に余計な資産を置かない」「怪しい接触には徹底して警戒する」といったマインドそのものの転換が、防犯対策の本質といえるかもしれません。