「高市バブル」に陰りが見え始めた。各社の世論調査で内閣支持率は発足後最低を更新し、消費税減税をめぐる公約とのズレや保守層の失望も指摘されるようになっている。その一方で、官邸では財務省幹部人事の調整が難航し、官僚たちの間では「もうひとつの高市問題」にも注目が集まる。さらに首相自身の体調を不安視する声もささやかれるなか、高市政権に何が起きているのか。
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「ついに底が割れた」…高市バブル、崩壊か
「ついに底が割れた」
政界を取材する記者たちの間では内閣支持率の続落に驚く声が相次いでいる。時事通信が6月12~15日に実施した世論調査によれば、高市内閣の支持率は54.3%で前月比5.1ポイント減となった。
高支持率が政権の求心力となってきたが、政権発足後最低を更新し、不支持率は22.2%(前月比2.5ポイント増)と発足後最高になっている。
共同通信の調査(6月20、21日)でも支持率が初めて60%台を割り、発足以来最低の55.8%(5月調査時から5.5ポイント減)に下落している。
もちろん、支持率が下がったとはいえ50%を上回っているのだから「まだまだ高い」という評価もある。
他の調査で6割超を維持しているのも事実だ。ただ、昨秋の内閣発足後、女性初の宰相として異常とも言えるほどの人気を得ていた高市氏に対する国民の視線が変化してきているのは間違いない。
支持率下落の理由は「中傷動画疑惑」なのか
支持率下落の理由については、高市首相陣営による自民党総裁選での「中傷動画作成」疑惑をめぐって国会などで追及されていることが背景にあるとされている。
時事通信の調査では、関与を否定し続けている首相の説明に関して「納得できない」とする人は40.4%に上り、共同通信の調査でも49.7%が説明不十分と回答。野党からは首相の国会答弁に誤りがあり、「虚偽答弁」などと追及する声が向けられている。
ただ、筆者は“疑惑”のみで高水準をキープしていた内閣支持率の「底」が割れることはないと見る。やはり大きな要因は、公約が本当に達成されるのか疑わしいと見られているからではないか。
高市首相が率いる自民党は2月の衆院選で「飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します」と公約した。
「国民会議」はスタートしたが…
選挙後、野党にも呼び掛ける形で超党派の「国民会議」はスタートしたが、6月以降に議論されているのは「税率1%」に引き下げた上で中低所得者に現金給付する「実質ゼロ化」案だ。
高市首相は、消費税率をゼロにした場合のレジシステム改修について「必ずしも1年(税率変更に時間がかかる)ではないが、一定期間はかかる」との認識を示しており、政府・与党は飲食料品の消費税率を公約通りの「ゼロ」ではなく、「1%」とする案でとりまとめようとしてきた。
もちろん、税率が1%に下がれば生活が楽になる人は少なくない。だが、最近の物価上昇局面において「1%」分にあたる年約6000億円の現金給付を受けられる中低所得者はよいかもしれないが、残る国民は切り捨てるつもりなのか。
減税の財源についても赤字国債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直しで捻出するというが、補助金・租税特別措置カットによって打撃を受ける人々もいるはずだ。何より、今回の減税が将来の「増税」につながらない保証は全くない。
政府・与党は2027年4月から2年間限定で食料品の消費税率を1%に下げる案で調整しているが、そもそも飲食料品の値上げは一向にとまっていない。
首相就任後は靖国参拝を断念し、式典への閣僚派遣も見送り
史上最高値を更新する日経平均株価とは対照的に、国民生活は依然として好転していないのである。消費税率のゼロ化が「悲願」とまで言い切った首相は、減税は「給付付き税額控除を実施するまでの2年間」に限定すると言うが、リアルタイムで物価高騰に苦しむ人々に寄り添っているとは言い難い。
首相は自身の強固な支持層とされる保守派に向けて靖国神社参拝や「竹島の日」式典への閣僚出席などをめぐり威勢のいい言動を繰り返してきた。
だが、首相就任後は靖国参拝を断念し、式典への閣僚派遣も「堂々と大臣が出て行ったらいいじゃないですか」と語っていたにもかかわらず見送っている。こうした言行不一致は保守層からすれば期待も大きかった分、失望へと変わりつつあるように映る。
さきの時事通信の調査では、税率を0%とすべきか1%にすべきかを尋ねたところ、40.7%が「0%」を選んだ。「1%」を選んだのは29.4%にとどまっている。自民支持層でも「0%」が33.5%、「1%」が36.9%となっている。
官僚たちが注目する「もうひとつの高市問題」
国家のトップリーダーが「悲願」とまで言って国民の信を問うたのだから、国民全員に1%分の給付がなければ「実質ゼロ」なんだから良いでしょう、とは言えないはずだ。
実は今、官僚たちの間で「もうひとつの高市問題」が注目されている。それは予算編成や税財源などで首相サイドと協議する財務省の幹部人事がことごとく停滞していることだ。
通常ならば夏に実施されるものだが、高市首相サイドは「財務省案」にストップをかけ、自らの意向に沿った人事で進めたい考えをにじませているという。
たとえば、2024年夏に財務事務次官に就いた新川浩嗣氏は就任から2年を迎えるが、後任の次官人事は調整がついていない。
財務省としては予算編成を担う主計局長の宇波弘貴氏を次期事務次官としたいといわれるが、これに官邸サイドが難色を示しているとか。代わりに、宇波氏の2年後輩にあたる官房長の坂本基氏を推す声が出ているという。
1991年入省組の坂本氏は秘書課長や社会保障・税一体改革調整室長などを務めた人物で、大臣官房総括審議官を経て2024年7月に官房長となった。
入省同期には、高市首相の最側近である尾崎正直官房副長官らがいる。首相の財務省嫌いは有名で、米国のように政権が新しくなれば官僚たちの人事も激変するのが当たり前という声もあるだろう。
首相の健康状態を不安視する向きも
ただ、こうした幹部人事の調整難航は財務省だけの問題にとどまらない。なぜならば、「最強官庁」といわれる財務省の課長級以上の職員に対しては、それぞれの省庁に「担当」がいるためだ。
A課長と親しい人物、B審議官と旧友の職員などをカウンターパートとして他省庁は配置する傾向がある。つまり、財務省の幹部人事がまとまらなければ、各省庁の人事にも影響が生じることになる。
消費税の減税をめぐる与野党協議や官僚人事の調整難航などで疲労が蓄積しているのだろうか。高市首相は3月、衆院予算委員会の質疑終了後に激しい疲労を訴え、外交日程を急遽キャンセルした。木原稔官房長官は記者会見で「風邪の疑い」と説明したが、首相の健康状態を不安視する向きもある。
首相は難病「関節リウマチ」を患っていると公表し、2月には精密検査を受けた。4月に首相と面会した自民党の甘利明元幹事長の説明によれば、首相は「睡眠をもうちょっと取りたい」と漏らしたという。
宰相が激務によって睡眠時間を削られることは想像に難くない。熱心な勉強家としての評価もある高市氏は、内閣府特命担当大臣や総務相時代から睡眠不足のため、フラフラになりながら国会答弁などの準備を重ねていたとされる。
揺らぐ政権の足元
2月の衆院選で自民党は圧倒的な議席数を確保したものの、参院では与党で過半数に満たない。来年春の統一地方選をにらめば、直近の地方選で自民系候補が苦戦を強いられていることも気がかりだ。
自民党内には、政権基盤を安定させるため国民民主党も連立与党に取り込むべきだとの声も根強い。ただ、首相サイドには同党に対する不信感も残っており、まずは日本維新の会との連立関係を優先していくという。
与野党に異論がある中、衆院運営委員会が6月26日に定数削減法案を政治改革特別委員会、副首都法案を地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会に付託したのは、首相の意向に沿ってのことだろう。
ただ、これには国民民主党からも「自ら静謐な環境を壊してしまう暴挙」との反発が出ている。もう1つの首相の悲願である憲法改正に向けたスケジュールを考えても、同党との距離が生じるのは痛手のはずだ。
とはいえ、高市内閣として初めてとなる成長戦略や「骨太の方針」の策定は例年よりも1カ月ほど遅れ、あえて付言すれば新味も欠いている。
消費税のゼロ化や靖国参拝にとどまらず、看板に掲げる「責任ある積極財政」が意味をなさないことになれば国民の失望は一気に増すことだろう。いよいよ、高市政権の足元が揺らいできそうである。
文/竹橋大吉 写真/shutterstock