「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(トクリュウ))」が関与したとみられる強盗や窃盗事件が各地で相次ぐなか、警視庁が今月、資産情報を入手して事件を計画する「案件屋」と呼ばれる容疑者を初めて摘発した。警察当局は、案件屋が複数のグループに多額の現金や金塊がありそうな場所の情報を流しているとみて警戒している。(礒村遼平、林麟太郎)
「タタキ、ルパン案件 結構あります」「金庫や金塊狙うのが多いです」。警視庁に6月、窃盗容疑で逮捕された男が使っていた秘匿性の高い通信アプリには、こんなメッセージが残されていた。タタキは強盗、ルパンは窃盗を意味する。
男は昨年12月、東京都立川市のアパートから現金約930万円が盗まれた事件に関与したとされる。メッセージを送ったのは、今月3日、男の共犯として逮捕された職業不詳の男(26)だった。
捜査関係者によると、26歳の男は昨年11月、SNSで「闇バイト」を探していた男と知り合った。男に対し、現場の建物の外観写真や部屋の見取り図を送り、「リビング入って左の部屋」などと現金のありかも伝えていたという。
警視庁は、26歳の男が事件の計画を練る案件屋で、関西などで起きた複数の強盗や窃盗事件に関わったとみて、「標的」の情報を得た経緯を調べている。
匿流による最近の事件で目立つのが、同じ住宅や業者が繰り返し狙われる構図だ。新宿区の貴金属買い取り業者の事務所や周辺では、2月と5月に強盗未遂、強盗予備事件が相次いだ。今月9日には、さいたま市の住宅への強盗予備容疑で男3人が逮捕されたが、この住宅は2月以降に複数回、窃盗被害などに遭っていた。
警視庁は今年2月以降、都内で匿流が関与する強盗、窃盗事件を12件摘発し、延べ50人以上を逮捕した。全容を解明するため、容疑者らのスマートフォンの解析を進めている。
解析で見えてきたのは、秘匿性の高い通信アプリを通じ、細分化された役割の間で情報や案件がやり取りされている実態だ。
まず、金品の所在に関する情報を入手する「情報元」がいる。その情報を仕入れるのが案件屋だ。事件の計画は案件屋から「仲介役」を通じて「指示役」へ。指示役に集められた「実行役」が現場で金品の強奪や窃盗、見張り役などを担う。
一部の実行役を除いて互いの関係は希薄で、上下関係もないことが多い。栃木県上三川(かみのかわ)町で5月に起きた強盗殺人事件も、警察は案件屋が関与したとみている。
今後は組織の全体像に迫れるかが鍵になる。都内で起きたある事件では、案件屋が情報を1件100万円で買っていた形跡が確認された。案件屋は情報にかかった資金回収のため、複数のグループに案件を持ちかける傾向があるという。捜査幹部は「押収品の解析や容疑者の供述などから、首謀者や案件屋の特定につなげ、組織の実態を解明したい」と語った。
資産情報「友人にも明かさないで」
被害を防ぐ手立てはあるのか。警視庁幹部は「自分の資産などの情報は、たとえ友人であっても、他人に明かさないことが大切だ」と指摘する。案件屋が手にする「標的情報」には、人づてに広まったとみられるものがあるからだ。
自宅や事務所などの防犯対策も改めて見直したい。防犯カメラや人の動きに反応するセンサーライトの設置など、複数の対策を取ることが有効とされる。
警察は栃木県上三川町の強盗殺人事件を受け、犯罪の下見グループへの対応を強化している。警察庁は5月、強盗や窃盗の恐れが強い場合は、緊急通報装置の貸し出しなども行うよう都道府県警に求めた。警視庁幹部は「不審な人物や車両を見つけたら、110番してほしい」と話す。