熊本地震が発生した28日、イオンモール熊本では地震発生の約80分後に大規模な爆発が起きました。なぜ、揺れの直後ではなく、時間が経過してから爆発に至ったのか。そして、なぜこれほどの規模の爆発が起きたのか。元東京消防庁・警防部長の佐藤康雄氏の解説です。 28日午後4時27分ごろに地震が発生し、その約80分後の午後5時50分ごろ、イオンモール熊本で大規模な爆発が発生しました。 イオンの吉田社長は29日に会見を開き、「ガス爆発の可能性が高い」と説明しました。同施設では都市ガスではなくLPガスを使用しており、供給タンクおよび飲食店内にそれぞれ遮断弁が設置されていたといいます。また、爆発が起きたのは飲食店エリアではなく、南側中央部付近であったことも明らかにされています。 佐藤氏は、この「80分というタイムラグ」がLPガス漏れによる爆発を強く示唆していると指摘し「もし地震が起きてすぐに爆発するということだと、ガスはそこまで溜まる時間がないので、ガス以外だろうと思います」と述べました。 つまり、爆発までに時間がかかったこと自体が、漏れたガスが館内に徐々に蓄積していったプロセスを物語っている、というのが佐藤氏の見立てです。 今回の事故を理解するうえで、LPガスの特性を押さえておく必要があります。LPガスと都市ガスの主な違いは以下の通りです。・原料:LPガスは液化石油ガス(LPG)、都市ガスは液化天然ガス(LNG)・発熱量:LPガスは1mあたり約2万4000kcalと大きく、都市ガスは約1万1000kcalと小さい・重さ:LPガスは空気より重く、都市ガスは空気より軽い この「空気より重い」という特性が、今回の事故において重要な意味を持ちます。 佐藤氏は、LPガスについて「軽いガスと比べて、溜まる場所が違う」と分析します。LPガスは低い場所(床下や建物の下部)に滞留しやすく、広大な商業施設の構造においては、漏れていても気づきにくい状況が生じやすいといいます。 また、LPガスも都市ガスも本来は無色・無臭ですが、漏れた際にすぐ気づけるよう人工的に匂いが付けられています。それでも佐藤氏は、「一般家庭で漏れることを想定していて、これだけ広いところで漏れて、床下等の隙間に溜まっていると、なかなかその匂いに気づかないこともあるのでは」と述べ、大型施設という環境における匂いによる感知の限界を指摘しました。 イオンモール熊本の敷地内にはLPガスの大型タンクが設置されており、そこから供給管を通じて館内にガスが届けられる構造になっています。 また、爆発が起きたのはフードコートエリアではなく、テナントが入るエリアであったことも確認されています。佐藤氏は「主配管と枝配管は施設全体に広がっており、何らかのきっかけで引火・爆発した可能性がある」と分析します。 さらに、館内の広域へのガスの拡散については、猛暑による密閉環境が影響した可能性にも言及しました。「当然窓を閉め切って冷房をかけていますから、その冷房のダクトが館内に巡らされているので、場合によってはそのダクトの中を伝わってあちこちにガスが拡散したことも考えられる」という見解を示しました。 遮断弁は本来、地震が発生した際に作動してガスを自動的に止める役割を担っています。では、なぜ今回はガスが漏れ出したのか。佐藤氏は爆発の原因として考えられるシナリオを次の3つに整理しました。 遮断弁は電磁弁であり、電気的な信号によって閉まる仕組みになっています。佐藤氏は「地震の影響かもしれませんが、遮断弁そのものが故障してしまって作動しなかったかどうか」という可能性を挙げました。ただし、タンクのそばにある遮断弁は被害を受けていない可能性があり、「調べてみれば作動したかどうかというのはすぐに分かるかと思います」とも述べています。 遮断弁は地震計と連動しており、設定された震度以上の揺れを感知して初めて作動します。佐藤氏は「通常は震度5強ぐらいで被害が生じると言われているので、仮に震度5強で設定していたとしても、震度5弱程度の地震が発生した場合、配管のほうは損傷したけれども、遮断弁はまだ作動する強さになっていないのでそのまま開きっぱなしになっていた」という可能性を説明しました。今回のイオンモール付近の詳細な震度は、この時点ではまだ発表されていないといいます。 遮断弁が正常に作動してガスの供給が止まった場合でも、配管の内部にはガスが残留しています。そのガスが、地震による配管のずれから漏れ出した可能性です。ただし佐藤氏は「3番については量的にはかなり限られますので、あれだけの施設が破壊されるにはそれなりのエネルギーが要る。可能性としては1ないし2が大きいかと考えています」と述べ、原因の優先度を示しました。 これらの3つのシナリオは、今後の現地調査によって絞り込まれていく見通しです。佐藤氏は「現物はある程度残っていると思うので、目処はつく」と述べています。 今回の爆発では、約80メートル離れた場所にあったトラックが大きな衝撃を受け、約180メートル離れた場所にまで外壁の破片が飛び散ったとみられます。ガードレールも大きく折れ曲がっています。 佐藤氏はこの破壊規模について「爆轟(ばくごう)に近い」と評しました。爆轟とは、マッハ(音速)を超える強力な衝撃波を伴う激しい爆発のことです。 なぜプロパンガスでそのような爆発が起きたのか。佐藤氏はその背景を次のように解説しました。 「爆轟が起こるのは、水素やヘリウムのように非常に小さな分子が酸素とすぐ結びつきやすいためです。プロパンガスは炭素がいくつも連なった分子なので、酸素と結びつくのに順番が必要で、時間がかかる。表現的にはメラメラと燃えるような燃え方なので、なかなか爆轟にはなりにくい」 それでも今回これだけの破壊力が生まれた背景として、佐藤氏は建物の構造的特性に注目しました。「爆発というのは、頑丈なものに閉じ込めて、それが破裂するほど圧力が強くなる。ALC(軽量コンクリートパネル)で覆われていた、つまりかなり頑丈な作りになっていたということは、爆発した瞬間はぐっと溜め込んでおいて、それが耐えきれなくなって瞬間的にすっ飛んだという形ですと、衝撃力が非常に強くなります」 さらに夏場の密閉環境が、ガスの拡散と内圧の上昇に寄与したとも分析します。頑丈な壁材と密閉度の高さ、それに大量に蓄積したガスという複数の要素が重なり合い、「爆轟に近い」激しい爆発が引き起こされた可能性があるというのが佐藤氏の見解です。 今回の爆発は、一般的に「防災の拠点」と位置づけられる大型商業施設で起きました。 現在の調査では、遮断弁が実際に作動したかどうかも含め、多くの事実関係が未確定のまま残っています。佐藤氏は「遮断弁が作動したときにはガス会社でないと対応できない。直接信号が行っている可能性もあるが、まだその確認はできていない」と述べています。 地震は「いつ、どこで起きるかわからない」という現実があります。LPガスを使用する大型施設において、地震時の遮断システムがどのような条件下で機能し、どのような条件下で機能しないのかを明確にすることが、今後の防災対策において不可欠です。 佐藤氏が挙げた3つの原因シナリオを軸に、遮断弁の作動状況、配管のずれの有無、そして館内へのガス拡散の経路を含む詳細な原因究明が急がれます。同様の構造を持つ施設が全国に存在することを踏まえれば、この調査の結果は単一の事故の教訓にとどまらない広がりを持っています。(『newsおかえり』7月30日放送分より)