「山も救助隊員の命もなめている」―世界的なアルピニスト・野口健氏が憤りをぶつけるのが、日本の山々で続発している“2度遭難”(1度の登山で2度の救助を要請すること)です。なぜ“2度遭難”が起きるのか?遭難救助の不都合な真実を考えます。
7月10日、富士山も山開きを迎え、本格的な登山シーズンが到来しました。そんな中…。
『山で死ぬな』
衝撃的な呼びかけを公式Xに投稿したのは、長野県警察・山岳遭難救助隊です。
<長野県警察・山岳遭難救助隊 公式X>
『突然のお電話…と、ご遺族に悲しいお知らせをする…あと何件すればいいのでしょうか。電話越しにも伝わるご遺族の悲しみ。次は、あなたのご家族かも知れません。山岳遭難は事前に防ぐことができます。リスクの高い行動を、あなたが止めてください』
槍ヶ岳や穂高連峰、白馬岳など、山好きが押し寄せる長野県は、多くの山岳遭難に向き合い続ける場所でもあります。2025年の遭難者数は、3位の山梨県が219人、2位の北海道が250人、1位の長野県が392人と、国内でも断トツの多さでした。
そんな中で、長野県警・山岳遭難救助隊は日々、遭難者の救助に命懸けで当たっています。しかし最近、深刻な問題に悩まされているといいます。
それが、1度救助された登山者がそのまま山を下りず、再び救助を求めることになる“2度遭難”です。
6月30日、標高2932mの白馬岳(猿倉ルート)で、東京都の男性(68)が疲労で行動不能となり、救助されました。男性は付近の山小屋へ収容されましたが、救助隊と共に下山はせず、休みを取って2日後に下山しました。ところが、その途中に疲労で行動不能になり、再び救助されました。
このニュースに反応したのが登山家・野口健氏です。
<野口健氏のXより>
『「果たして助ける必要があるのだろうか?」と首を傾げてしまう。山を、救助隊員を「舐めていないかい?」と憤りを感じる』※原文ママ
男性の“2度遭難”から10日後の7月12日、同じ白馬岳(猿倉ルート)で、再び“2度遭難”が起きました。
疲労で行動不能となり救助されたのは、マレーシアの女性2人とシンガポールの女性1人です。実はこのうちの2人は滑落と転倒で負傷していましたが、痛みを我慢して報告しなかったため、付近の山小屋へ収容されました。しかし、その翌日に「痛みで下山できない」と通報し、ヘリで救助されました。
一方、“1回の登山で2度の救助”ではないものの、『山菜採り』で“2度遭難”を引き起こしたケースもあります。
2023年6月、長野・笠ヶ岳の山中で救助隊が発見したのは、地面に座り込む高齢男性です。
(救助隊)
「ケガはないですか?」
(遭難者)
「ないです。ただ、一日やっていて、こんな所に来たもんだから、ちょっと足が…」
レスキュー隊員が、ヘリコプターに引き上げる準備に入ります。
(救助隊)
「“これ”持って行けないから、置いて行くね」
(遭難者)
「これだけ、ダメかい?今日、家族にやらなきゃいけねんだ」
(救助隊)
「ダメ。持って行く余裕ないから」
救助隊が「持って行けない」と言ったのは、ネマガリダケという山菜です。初夏に採れる希少なタケノコで、長野県北部ではサバ缶と一緒に煮込む『たけのこ汁』が郷土料理となっています。
(救助隊)
「悪いけど、持って行けない」
(遭難者)
「うーん、何でそんなにダメになっちゃうんだい?重いということか?」
(救助隊)
「(ヘリから)落ちちゃうのでダメ」
なんとも緊張感に欠けた遭難者ですが…。
(救助隊)
「救助されているという立場も、ちょっと考えてもらっていい?」
(遭難者)
「はい、2度目だから」
(救助隊)
「2度目なら、なおさらだよ!」
なんと、救助されるのは、今回で2回目だというのです。
これらの事案に対して、世界的登山家・野口健氏は苦言を呈します。
(登山家・野口健氏)
「レスキューを呼ぶ=大変、ということ。そこが、まず前提なんです。レスキューされた人は、その日のうちにレスキュー隊員と共に、できれば(里まで)下りたほうがいいですよね」
野口氏は、安易に救いを求める登山者には“気付いてほしいことがある”と言います。
(野口氏)
「レスキューの人たちの命についても、なめていると僕は思います。命を懸けて、自分を捜しに来てくれているんだということを、すごく自覚しなきゃいけないと思う」
“2度遭難”が相次ぐ理由について、長野県警は「技量に見合っていない山に登っている」と指摘しています。
そもそも、近年は遭難が急増しています。警察庁による『山岳遭難者等の推移』を見ると、死者・行方不明者数は横ばいで、負傷者もやや増えていますが、遭難者が3623人(2025年)と急増していることがわかります。
また、年代を見てみると、山岳遭難者の年齢(2025年)は60代と70代が多く、約半数が60歳以上となっています。
遭難が急増している理由について、野口氏は『インバウンドの増加』や『電波が良くなり、スマホで簡単に救助を呼べるタクシー感覚の人もいる』としていて、「救助も命懸けだと想像してほしい」と指摘しています。
(読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」2026年7月31日放送)