倒壊した自宅の前でピース 新聞掲載写真を加工・拡散された被災男性、ネットで中傷被害

最大震度7を観測した7月の熊本地震で被害を受けた男性が、勝手に加工された写真をインターネット上に流布される二重被害に苦しんでいる。新聞社の取材を受け、唇をかみしめる表情を捉えた写真がネット記事に掲載された後、何者かによってピースサインをして笑ったような表情に加工された画像がSNSで拡散。本人だけでなく被災地全体を冒(ぼうとく)するようなコメントもある。
自宅倒壊、弟は生き埋めに
二重被害を受けたのは、最大震度7を観測した熊本県氷川町に住む男性(72)。「二度と同じことが起きないようにしたい」と産経新聞の取材に応じた。
男性は、母(96)と弟(69)の3人暮らし。スーパーで買い物中に地震が発生した。急いで帰宅すると、木造2階建ての1階部分が完全につぶれていた。
近所の人から弟が中にいると聞き、男性は必死に呼びかけた。「どこさえー」。中は暗く姿は見えなかったが、玄関前の廊下あたりから「ここ」と返事があった。
隙間は20センチほど。消防や警察に通報したがつながらなかった。「自分たちしか助けられない」。男性がリフトを借りてきてがれきを持ち上げると、周囲の人がチェーンソーで木材を切り隙間に立てて空間を作ってくれた。弟の右腕はタンスのようなもので挟まれ骨折し大きく変色していたが、4時間がかりで何とか救出できた。
警察に被害届
その後、男性には多くの取材依頼があり「現状を伝えて支援につなげられれば」との思いで積極的に引き受けた。
「おっちゃん、こんなのが出てるよ」。取材から数日後、近所の人から1枚の写真が載ったSNSの投稿を見せられた。写っていたのは、倒壊した自宅の前で笑顔でピースサインをする自分の姿。毎日新聞に掲載された写真が何者かによって加工されていた。人工知能(AI)を使ったとみられ、自分自身でも信じてしまうようなリアルさに衝撃を受けた。
投稿にはこんな文章も添えられていた。《もっとたくさん被害出たらいいのにな》《熊本のやつらタダで飯食ってるんじゃねーよ》。度を越した言葉に耐えかね、警察に被害届を出した。
亡くなった知人、地域を背負って戦う
男性はさらなる二次被害を生むのを恐れ、取材を断るようになった。
だが、地震で亡くなった知人の葬式で心が変わった。近くに住み、散歩時などによく言葉を交わす間柄だった。遺影を前に、投稿に書かれた言葉を思いだし、「好きで死にたい人なんかいない」と怒りが込み上げてきた。「自分ひとりの問題ではなく地域が侮辱されている。なんとか逮捕できないか」。地域を背負って戦う覚悟を決めた。
男性は「災害にあった人や地域を傷つける行為が今後は起きないようにしたい」と力を込める。そして、犯人にはこう問いただしたいという。
「あなたはここに来て、この惨状を見ても同じことができますか?」
(長谷川毬子)

毎日新聞社は11日、産経新聞の取材に対し「問題の画像は毎日新聞デジタルに掲載された写真を改変したものである可能性が極めて高いことを確認した。当社の著作権を侵害する行為である上、被災者の尊厳を傷つけるものだ。法的措置も視野に対応を検討している」との見解を明らかにした。