自らも難病を患い、父親を病院でみとった経験を持つ看護師の男性が、24時間対応の訪問看護ステーションを秋田市で立ち上げた。「病と付き合い続けるつらさや、不安を抱える家族に寄り添いたい」。当事者として、医療者として病や死と向き合ってきた経験から「断らない看護」を掲げ、誰もが安心して療養生活を送れる地域を目指す。
「体調は変わりないですか」。7月上旬、1人暮らしをする石田愛子さん(84)の自宅に、「SORA」代表の佐藤泰天さん(27)の姿があった。佐藤さんが血圧を測ると、石田さんは「右目が見えず、通院が大変だから助かる」と喜んだ。問診後は1時間ほど高校野球の話題で盛り上がった。佐藤さんは「何げない会話から普段の様子が分かるし、エアコンの有無など生活状況も見ている」と話す。
幼い頃からおなかを壊しがちだった佐藤さんは、12歳の時、消化管に慢性炎症や潰瘍を起こす指定難病「クローン病」と診断された。授業中にトイレに行ったり、同級生と同じ食事を食べられなかったり。「思春期は周りの目を気にしていた」と話す。
同じように難病と共に生きる患者を支えたいと医療を志し、看護学生になった2017年、食道がんで闘病していた父を亡くした。自宅を約3カ月離れ、病院で最期を迎えた父。「住み慣れた家で大好きなお酒を飲ませてあげたかった」との思いが消えなかった。
病室での面会が制限されたコロナ禍を経て、家族との触れ合いや、自分らしく療養生活を送ることの大切さへの思いは強まった。佐藤さんに共感した同世代の看護師2人と、今年4月にSORAを開業した。
利用者は糖尿病やがん患者、医療的ケア児などさまざま。開業から3カ月で1~99歳の約20人まで増えた。ケアの複雑さや対応力不足から別の施設で断られた患者からの相談も寄せられている。
佐藤さんが目指すのは「かかりつけの在宅医療がある社会」。一方、秋田での認知度はいまひとつで、訪問看護師の高齢化も進む。「助成制度が使えることなどを地道に伝え、若い看護師の育成にも力を入れたい」と秋田の未来を見据えた。