13日投開票の沖縄県知事選の候補者に関する誤情報やデマがSNS上で拡散している。選挙戦は、政府・与党と協調する新人で、前那覇市副市長の古謝玄太候補(42)と、現職の玉城デニー候補(66)の事実上の一騎打ちの構図だ。各陣営はSNS情報のチェックとともに、否定や反論に追われている。(矢野恵祐、藤亮平)
「国益にかなう沖縄をつくる」。告示6日前の8月21日、X(旧ツイッター)に自民党などが推す古謝候補の顔写真とともにこんなスローガンが記載された画像が投稿された。陣営がこうしたメッセージを発信したことはなかったが、投稿は拡散され、「県民より国益か」などと古謝候補への批判が相次いだ。
民間団体「日本ファクトチェックセンター」によると、画像は生成AI(人工知能)で作成されたとみられる。陣営からの削除要請後、投稿者は「日本のためにこの人(古謝候補)がいいと思って勝手に作ってしまった」などと書き込んで謝罪。画像は削除されたが、拡散された画像がネット上に残り続けている。
選挙戦の争点の一つとなっている米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡っては、移設反対を掲げる玉城候補が移設を決めたとするうその投稿がXで拡散する。投稿には「すばらしい英断だという声もある」と述べる玉城候補の発言テロップ付きのニュース画像も添えられている。
移設を決定したのは1999年の自民党政権。画像は、2010年に民主党衆院議員だった玉城候補が、当時の民主党政権が模索した県外移設について言及したニュース映像から切り取られたものだった。
玉城候補が移設を決めたとするうその投稿は約224万回表示され、「とんでもないご都合主義」などと玉城候補を中傷するコメントが殺到した。
各陣営はSNSに神経をとがらせている。
古謝陣営の選対幹部は「火種が広がる前に打ち消すことが重要」とし、誤った投稿を見つけ次第、選対メンバーの各議員らが自身のアカウントで否定したり、削除を求めたりしている。幹部は「野放しにすれば虚偽情報の拡散に歯止めがかからなくなってしまう」と警戒する。
玉城陣営はXで12万人超のフォロワーがいる玉城候補のアカウントによる情報発信が「最も効果がある」とする。3月に辺野古沖で女子高生らが死亡した小型船転覆事故を巡り、移設に抗議する団体が船を運航していたことから、ネット上で移設反対の玉城候補に「共犯だ」などと中傷する投稿が相次いでおり、「悪質なものには踏み込んだ対策をしていく」としている。
知事選には古謝、玉城両候補のほか、無所属と諸派の新人4人も出馬している。
画像・動画の「AI利用」表示義務、来春から
選挙時のSNSの偽・誤情報対策を強化する改正公職選挙法と改正情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)は、来年春の統一地方選前の3月1日に施行される。
改正公選法では、生成AIを用いた画像や動画について、AI利用との表示を義務付ける。候補者に関する虚偽情報をネット上に流布し、選挙の公正を害することを禁止する。改正情プラ法では、SNS運営事業者に対し、偽・誤情報の拡散が選挙に与える悪影響を軽減する措置を義務化。措置の実施状況を年1回公表する。
ただ、今回の改正は憲法が保障する「表現の自由」への配慮からいずれも罰則がなく、実効性が課題となる。
「全国から注目」でXの投稿9割、県外から…東京が最多
沖縄県知事選を巡るXの投稿は、所在地が分かるアカウントでは県外からの発信が約9割を占める。
読売新聞が米メルトウォーター社のSNS分析ツールを使い、告示日の8月27日から9月8日の間にXに発信された「沖縄県知事選」の文言を含む投稿(リポストを含む)のうち、アカウントの所在地が分かる26・8万件を調べると、都道府県別の最多は東京の7・3万件(約27%)で、沖縄は2番目に多い3・4万件(約13%)にとどまった。
民間団体「日本ファクトチェックセンター」の古田大輔編集長は「沖縄は米軍基地など安全保障上の問題で全国から注目を集めやすく、偽・誤情報の拡散にもつながっている」とみる。
国際大の山口真一教授(社会情報学)は「他県の選挙に関心を持つことは健全なことだが、フェイク情報を流したり、誹謗(ひぼう)中傷を行ったりして、公正な選挙を害することがあってはならない」と警鐘を鳴らす。