中学生でもわかるイージス・アショア秋田配備計画の杜撰さ

Contents1 「貢物」としてのイージス・アショア配備2 紙に分度器物差しが悪いのではない3 元データが根本的に誤っていたイージス・アショア適地調査4 秋田の国家石油備蓄基地も実際の景色を見れば明らか5 中学生でも出来る地図調査6 都合の良い結果をつまみ食いした防衛官僚

◆「貢物」としてのイージス・アショア配備

前回は、秋田配備イージス・アショアに対して示された秋田県有権者の民意をご紹介し、論考しました。またイージス・アショア日本配備の真の意味は、安倍晋三氏の私的な社交すなわち「安倍社交」におけるトランプ氏への貢ぎ物であって、前代未聞の顰蹙ごとであった大相撲千秋楽の枡席買い占め*や、すってんころりんゴルフ**と全く同列であると指摘しました。

<*“トランプ氏、升席で観戦へ=大相撲千秋楽、安倍首相が提案:時事ドットコム” >

<**「トランプ氏、安倍首相が転ぶ瞬間を完全に見逃す」海外で報道2017/11/11 ハフポスト”>

このような個人の私的社交に献身せねばならない防衛官僚の心中を察するに、全くやる気も起きないことと思います。一方で自衛隊は、ますます役に立たないヘンテコ正面装備ばかり買い集められ、もはやカタログ自衛隊まっしぐらです。しわ寄せは自衛隊員に行くわけで、先が思いやられます。そして全く無意味な外国防衛専用装備に1兆円とも更にそれを超えるとも考えられるお金を支払い、人類史三番目四番目の核攻撃対象となる日本市民には、無残という言葉しかありません。

イージス・アショア秋田配備計画を中心にここ3か月間で露呈した防衛官僚の無様な数多くの失態は、その士気(morale;モラール)の崩壊ぶりを如実に表していると言えるでしょう。

なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。本サイト欄外には過去10回分のリンクもまとまっております。

◆紙に分度器物差しが悪いのではない

さて防衛省のイージス・アショア配備予定先自治体、市民への説明で、数多くの誤りが発覚し、秋田県では参院選の結果を動かすまでの影響がありました。その中で最大の批判を浴びたのは、分度器と定規を使い、紙の上で作図して誤った角度を割り出した(検算した)というものでした*。

<*防衛省報告書、グーグルアースプロと酷似 初歩的ミスか2019/06/08朝日新聞、高さ誇張された断面図、分度器で測る? イージスずさん調査2019/06/06秋田魁新報>

ミサイル防衛基地の配備場所決定に分度器とプリントアウトというアナログぶりがウケたのか、「分度器プリントアウト防衛省」と嘲笑されましたが、そこは関係ありません。

そもそも方位仰角距離は、砲術における弾道計算の基本中の基本で、もともとは三角関数とデバイダ(カラス口)、三角定規、分度器で行ってきたものです。そこに機械式計算機(日本で有名なのがタイガー計算機)が加わり、アナログコンピュータである射撃指揮装置が発達し、計算速度が要求されるジェト機・ミサイル時代となり、電子計算機へとつながっています。

実際本連載第9回執筆において私は、基本的に手計算を行い、逆三角関数については計算機を用いています。有効数値一桁二桁程度の粗い計算ならば、定規、デバイダ、手計算の方が場合によっては圧倒的に早いですし計算過程がブラックボックス化しませんので誤りを見つけることも容易です。ですからプリントアウト、分度器、手計算はおかしくはありません。但し、どのような計算手段をとるにしても検算ほかダブルチェック、トリプルチェックは欠かせません。

では何がいけなかったのでしょうか。

◆元データが根本的に誤っていたイージス・アショア適地調査

すでに報じられていますが、イージス・アショア適地調査において、防衛省ではGoogleEarth Proを用いて二点間の断面図を作り、それから仰角を求めていました。

問題は、一般に地図において断面図を表示する場合、垂直(高さ)の数値は水平(距離)より遙かに小さくなるために視覚化しやすくするために高さ方向を数倍から10倍誇張して表示することが殆どである点です。

例えば、東京都心から日本最高峰の富士山を見るとき、その距離は約100kmですが、富士山の標高は3776mですから、約4kmしかありません。ここで富士山から東京のお台場までの断面図を作ってみましょう。国土地理院が無料公開している地形図に断面図作成の機能がありますのでだれでも出来ます。

図を見れば明らかですが、縦軸横軸が同一縮尺ですと断面図はペッタンコになってしまい、起伏が殆ど分かりません。このため一般に縦軸を8倍前後に強調します。こうすると見えなかった多くの起伏が見えるようになります。視覚的にとてもわかりやすいのですが、例示したものでは縦軸は横軸の8倍強調されていることを忘れてはいけません。尤も、縦軸の単位はmで、横軸がkmですから、簡単に気がつくことです。

◆秋田の国家石油備蓄基地も実際の景色を見れば明らか

次に男鹿半島の秋田国家石油備蓄基地を例にとります。

これも図を見れば明らかですが、高さと距離が同一縮尺ですとペタンコで情報が見えません。数値情報は同じなのですが、視覚的にわかりやすくするためにこの場合も標準で高さ方向を8倍程度に誇張した図面が出力されますし、その方がわかりやすいです。

高さ方向の縮尺は自由に変えられますので、お好みの仰角にすることは可能です。図面での仰角を15°にしたいのなら高さ方向を4倍程度に誇張すれば良いでしょう。

いずれにせよ、これは適地評価の元となるデータが誤ったものであって適地評価そのものが全く無意味となります。

またGoogle Street Viewで秋田石油備蓄基地から最大仰角となる本山方向を見てもペタンコの山が地平線上に張り付いているだけで、とても見かけ仰角が15°を超えることはないと一目で分かります*。

<*google street viewによる秋田国家石油備蓄基地からみた西北西方向>

もちろん直近に超高層建築が建設されるなどの事態もあり得ますから、最終的には実地調査、測量を行わねばなりませんが、その前の図面調査の段階で秋田国家石油備蓄基地からは全方位に仰角10°をこえる遮蔽物がないという結論は出せます。

ではどうすれば良かったのでしょうか。

実は、中学生でも出来るのです。

◆中学生でも出来る地図調査

日本は、戦後検閲と言論統制がなくなりましたが、その中で最大の恩恵を受けているのが地図です。小泉政権時代に一時、テロ対策で地形図に送電線を載せないなどといった事実上の検閲が行われましたが、今ではそれも撤廃され、だれでも何処でも手頃な値段で地形図が購入できますし、Webでは無償公開されています。

そして、地図を読む(読図)教育は、小学校から始まっており、中学生ならば、等高線を読むことも出来るように教育されています。

実は国土全体の詳細な地図が公開されている国は意外と少なく、国土地理院地形図のような優秀な地図をいつでもだれでも何処ででも無償か手頃な値段で閲覧、入手できるのは日本が高らかに誇り得る点です。

かつて旧ソ連邦では、赤軍兵士、下士官は故意に読図教育がなされず、読図が出来るのは士官以上でした*。これは逃亡や反乱を抑止するためとのことです。

<*V.スヴォーロフ『ザ・ソ連軍(正)(続)』原書房1983年ほか>

当然ですが防衛官僚が読図できないなどあってはならないことです。そしてある地点からの見かけ上の最大仰角を知りたければ、距離と高度が分かれば良いだけです*。

<*正確には、地球は球体なのである程度離れると水平線に隠れてしまう。20km以遠だとその効果が現れてくるが、今回は無関係。>

秋田国家石油備蓄基地の場合、男山山頂まで9km、男山は標高715mですのであとは作図して角度を分度器で測れば終わりです。ここまでなら中学生でも出来ます。

すこし高級な逆関数を使うにしても関数電卓があればおしまいです。ここでは、カシオ計算機が公開しているKe!sanというサイトの中で直角三角形の要素を算出するものを使ってみましょう。

距離9000m、高さ715mの直角三角形の場合、仰角は4.5°となります。ここで高さを4倍にした数値(2860m)を入れると17.6°になります。

◆都合の良い結果をつまみ食いした防衛官僚

ここまででイージス・アショア適地調査において問題となった誤った報告と結論の原因は、中学生にでもできる初歩的な図面調査すら誤っていたことといえます。そして誤りを発見するためのチェック、ダブルチェックを全く怠っていたと言うことが挙げられます

もちろん買うものが千円程度のプラモデルならば笑って済まされることです。しかし買うものは一基あたり数千億円とも5千億円とも、それ以上するとも予想されるものです。なんと第二世代の大型商用原子炉の建設費より高いのです。そのような買い物をする際に、事前実地調査すらしておらず、それどころか中学生にも出来る読図調査すら外国製のブラックボックスに任せて怠っていたわけですから、全くあり得ないことです。

地形図は一枚427円で、それを読めばおおかた済む話です。

これは明らかに、秋田市新屋以外の候補地を恣意的に振り落とすために行ったと考えるほかありません。秋田市新屋は、北朝鮮、中国からのハワイ向けICBMの迎撃、探知・追跡に最適の場所であり、ウラジオストックなどのロシアの極東部を監視するには最適の場所です。また外国防衛専用の基地のために秋田国家石油備蓄基地を潰すなど経産省が許さないでしょう。経産省は防衛省より圧倒的に格上で、しかも安倍政権は経産省と財務省の支持でなり立っている政権ですから、この二大省庁の利益が最大となります。

沖縄でもそうですが、いい加減な調査をして適当な報告と虚偽の説明で事業を進め、既成事実化を図り、どんなに大きな問題が起きても既成事実と国防(実際には合衆国の利益)を盾に事業を推し進め巨大なツケを残す。

これは、とてもまともな国家機関ではありません。安倍自公政権9年足らず、日本は墜ちるところまで堕ちてしまっています。

秋田では、それが露見し、一時躓きましたが、事が合衆国防衛と合衆国軍産複合体のお金儲けのための安倍社交からの貢ぎ物です。秋田県の市民が気を緩めれば、日本の防衛には何の役にも立たない先制核攻撃の的が秋田県庁から2500mの距離(50ktの核の場合、ほぼ致死)に建設されるでしょう。

さて、ここまで3回にわたって秋田イージス・アショア計画の問題点を指摘してきました。一方、今年に入って北朝鮮(D.P.R.K.)は、短距離弾道弾(SRBM)の試射を繰り返しています。

このSRBMは、射程から考えて日本にはあまり関係ないと思われがちですが、これは旧ソ連からロシアに続いて開発されてきた、きわめて優秀な最新鋭ミサイルで、試射そのものが日本に影響を及ぼすことはありませんが、その存在は日本の弾道弾防衛システムを無効化する可能性のあるたいへんにやっかいなものです。

実のところ、このミサイルが配備されれば萩配備イージスアショアは事実上無力化されると考えて良いでしょう。このことを次回から数回に分けて論じてゆこうと思います。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア11

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中