アニメ映画史に燦然と輝く不朽の名作「天空の城ラピュタ」(宮崎駿監督)が30日、日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」(後9時)で17回目の放送を迎える。凝り性な人々の集団と言うべき将棋界において、神谷広志八段(58)のラピュタ好きは別格として名高い。パズー、シータ、そしてムスカをも愛す28連勝男は「ラピュタは人生を変えてくれた。こんなに没頭できるものがあるんだと教えてくれました」と力説する。(構成・北野 新太)
リテ・ラトバリタ・ウルス…。劇中でも重要な役割を果たすラピュタ語の「困った時のおまじない」で「我を助けよ、光よ蘇れ」という意味です。対局で必敗の終盤に立たされた時、脳内で何度唱えたことか分かりません。3年くらい前でしょうか…1度だけ奇跡的な逆転勝ちを飾りました。ラピュタの力です。
出会いは1990年頃だったでしょうか。妻の提案で前作「風の谷のナウシカ」をビデオで見て感動して、おー、アニメって面白いんだなーと思って、ラピュタも借りて見てみたら…もう…。あれから何十回、いや何百回と文字通りテープが擦り切れるまで見てきました。「金曜ロードショー」でも必ず見ることにしています。見る度に小さな発見があるのが楽しい。ケータイを持っていないので「バルス祭り(★)」には参加しませんけど…。
好きな理由を一言では語れませんが、あえて言うなれば「女の子を守るために男の子が生きる姿、心意気が見事に描かれている冒険活劇だから」です。他の宮崎作品に時折見られるメッセージ性などの難解さがなく、楽しい活劇であり、少年と少女の成長を見守る物語でもある。女の子を守るための行動は、やがて世界を救う冒険になる…あぁ…。かつて少年だった男ならば誰しも思うはずです。「あんな冒険がしたかった」と…。あのような数日間の冒険ができたなら「バルス」で死んでもいいです。いや、バルスで死ねたら本望ですよ。
好きなシーンについて語ることは好きなセリフを挙げることと同義。時の流れとともに好みは変わりますが、最近はパズーがドーラに頼む場面ですね。「おばさん、僕を仲間に入れてくれないか? シータを…助けたいんだ。<中略>そうさ…僕がバカじゃなくて力があれば守ってあげられたんだ…」。少年とはいえ、男のプライドを捨てないと言えないセリフ。あの言葉に「恋」を見るのです。
もちろんパズーとシータが大好きですが、ジブリ史上最強の悪党と言うべきムスカも好きなんです。幼い頃に自らの目的を自覚し、政府の特務機関に入り、あの一度の機会を狙った。深謀遠慮の努力を重ねないとできないことです。パズーとシータは言ってみれば巻き込まれただけですから…。あとは機関士さん、ポムじいさん、モトロ(じっちゃん)。年配の男たちが魅力的に描かれている点も見逃せません。
欠点? 考えたことなかったな…。あるんでしょうけど信者には見えない。しかし、ずっと抱いたままの疑問はあります。
まず「ムスカの拳銃の弾はなぜ切れたのか」です。弾切れして薬きょうを入れ替えるシーンがあるのですが、何度数えてもムスカは5発しか撃っていない。リボルバーの弾は6発のはず…。謎の1発の存在が妙に気になるんです。もうひとつは「パズーはドーラから金貨をもらったのか」。ドーラはゴリアテを最初に発見した乗組員に金貨10枚をあげると約束し、実際に見つけたのはパズー。遠慮して言い出せなかったのなら、なんてもったいない…。
ちなみにいちばん食べたいのはパズーの「目玉焼きパン」です。あと、そーだ。遠のいていくラピュタをパズーとシータと一緒に見つめるシーンは何度も見ても目頭が熱くなります。
私は将棋指しです。盤上に冒険心を抱いて生きてきました。ずっと、将棋しか見えなかった。数百手の詰将棋を何時間もかけて解くことが私にとっての冒険でした。最近はちょっと年を取ってきて大変ですけど…。
誰も指さない手を対局で指すことが僕の冒険。棋士を引退するまで冒険を続けたいと思っています。(談)
◆「天空の城ラピュタ」
鉱山の町に生きる少年パズーの頭上の空から少女シータが舞い降りてきた。2人はムスカ大佐率いる政府特務機関と空賊ドーラ一家からの逃避行を開始する。彼らの狙う「飛行石」を持つシータはムスカに捕らえられるが、パズーはドーラ一家と手を組んで救出に成功。かつて王国として繁栄し、天空に浮かぶ城「ラピュタ」を目指す旅を共に始めるが…。原作・脚本・監督=宮崎駿、音楽・久石譲。主題歌「君をのせて」(歌・井上あずみ)。1986年8月2日公開。
◆バルス祭り 「金曜ロードSHOW!」での「ラピュタ」放送中、クライマックスシーンで滅びの言葉「バルス」が発せられる瞬間、視聴者が「バルス」とツイートする現象。2009年放送回から見られ、1秒間のツイート数が2万を超えて世界記録を樹立するなど毎回話題になっている。
◆神谷 広志(かみや・ひろし)1961年4月21日、静岡県浜松市生まれ。58歳。故・廣津久雄九段門下。小4で将棋を始める。75年、棋士養成機関「奨励会」入会。81年、四段(棋士)昇段。強豪集団「昭和55年組」の1人。86―87年度、塚田泰明六段(現九段)の22連勝を大幅に更新する歴代最多28連勝の新記録を樹立(2017年、藤井聡太四段〈現七段〉が29連勝で更新)。棋風はオールラウンダー。現在、竜王戦5組、順位戦C級2組。東野圭吾氏の直木賞受賞作「容疑者Xの献身」も大好き。