九州北部の記録的な大雨で広範囲にわたって冠水した佐賀県武雄市では、民家や農地のほか、地元製造業などにも深刻な浸水被害が出ている。全国に出荷する甘納豆メーカー「光武(みつたけ)製菓」は、本社兼工場が水につかり、生産停止に追い込まれた。従業員は被災から連日で片付け作業に当たり、早期復旧を目指している。
「午前8時過ぎ、工場内に浸水すると同時に停電し、真っ暗になった。まさかここまで水がくるとは」。8月28日未明から同市北方町大崎にある工場で勤務していた、製造現場担当の古賀豊主任(30)は、当時を振り返る。同社の防犯カメラの映像には、早朝に激しい雨が降り、工場前の水位が見る間に上昇する様子が記録されていた。
古賀さんのワンボックスカーも駐車場で水没するなど一帯は冠水。社員は2階に避難した。水道も止まり、社内にあったスポーツドリンクや食料を分け合ってしのぎ、同日午後9時ごろ、ボートで救助された。
2012年から稼働する現在の本社兼工場は、浸水に備えて建設時に1メートルかさ上げしていた。しかし、1階は床上約50センチまで浸水し、一部の機械は水の影響で破損した。水浸しとなって廃棄する豆は甘納豆に加工中のものを含め少なくとも10トン以上に上る見込みだ。
光武信一郎社長(44)によると、同社は県内唯一の甘納豆メーカー。季節限定でチューブ入りドリンクも手がけ、売上高は約8億円。主力商品の甘納豆の生産再開には、3週間ほどかかる見通しで、被害額は5000万円以上とみている。
光武社長は「従業員が無事で良かった。防災対策を見直すきっかけとし、全国で親しんでもらっているお客様のため、一日も早く復旧したい」と前を向いた。【佐野格】