ノルマ未達で「辞めちまえ」 NHK地域スタッフのブラックな現場

【NHKの今を探る】#5

仮想敵にケンカを売って都合のいい状況を演出するのは、政治の常套手段。安倍しかり、トランプしかりだ。そんな政治の世界に殴り込みをかけるNHKから国民を守る党(N国)の立花孝志党首は、「(NHKの)受信料は踏み倒します」と強気だ。これがバカげているともいえなくて……。

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NHKの受信料収入は昨年度、7122億円と過去最高を記録。2004年にNHKプロデューサーの制作費巨額着服事件発覚後、05年には受信料の支払率は69%にまで低下したが、81%まで回復している。NHKが督促状などで徴収を強化したのに加え、未払い者に裁判を起こすのも相次いだ。

そんな流れで出された判決の余波で、支払う契約者が増加。意外にもその判決が、立花氏が強気である根拠になっているという。弁護士の山口宏氏が言う。

「NHKは11年に受信契約を拒否した男性を提訴しました。争点は、テレビを持つだけで受信契約を結ぶことが、憲法が保障する契約の自由に反するかどうか。6年後の12月、最高裁が受信料制度は合憲と判断し、裁判は終結しましたが、問題はその中身。テレビを所有することで契約は成立するのですが、受信料の支払いについては、NHKが個々に民事訴訟を起こして確定判決を取る必要があることも示されたのです」

地上波のみなら、月額1310円。NHKとしては、年間1万5000円程度のカネを取り立てるのに、裁判を起こすのは割が合わない。そこが立花氏の“突破口”で、自ら「可及的速やかに私を訴えてほしい。その場合は8割払う」と語っている。

「支払率との兼ね合いで2割払わないようですが、契約に基づく支払い義務があるので、法的には通りません。ただし、契約者が世帯主の夫ではなく、仕事も資産もない専業主婦の妻なら話は別。差し押さえができないので、NHKが取り立てるのは難しい」

■地域スタッフからも非難の声

NHKの収入は受信料で9割をカバー。10割に近づけるのが悲願だけにNHKにとって徴収強化戦略は当然だが、実は徴収の現場を支える地域スタッフからも非難の声が上がっている。

「踏み倒し発言」を受けて政府が「契約者の支払い義務」を答弁書にまとめてから6日後の今月21日、地域スタッフ約50人が所属する「全日本放送受信料労働組合」が不当労働行為の救済を東京都労働委員会に申し立てている。地域スタッフは、NHKとの業務委託契約で、HPによれば、NHK職員が委託契約後は丁寧にサポートすると書かれているが、現実は違う。

「ノルマは、『地上・衛星放送の契約』や『長期滞納者からの徴収』『住所や口座変更』など複数の項目ごとに一方的に決められます。しかし、マンションはオートロック化が進み、訪問契約そのものが難しい。ノルマは半分程度が限界です。一つの項目でもノルマを下回ると、担当エリアの分割や削減、委託契約の解約を予告する『特別指導』を受けます。電話の指導で『辞めちまえ』と、ののしられたこともあります」(関東地方の地域スタッフの男性)

異常なノルマ営業が浮き彫りになった「かんぽ」と同じ構図だ。地方の地域スタッフは、バイクで回るところが多いが、ガソリン代や修繕費は自己負担だという。

「各スタッフはタブレット端末に訪問や契約件数を入力します。それで常にチェックされるので、休んでいるヒマはありません」(同スタッフ)

NHK本体の職員の平均年収は1099万円。地域スタッフの月収25万~40万円とは、大きな開きがある。「地域スタッフにとっては“NHK”とは“日本薄謝協会”です」(山口氏)

身内から批判されるのも無理はないか。