多くの学校で夏休みが明ける9月1日の前後は、過去の統計データから若者の自殺が最も多い時期とされる。
つらい思いを抱える若者に手を差し伸べ、少しでも自殺を減らそうと、関係者の取り組みが広がっている。
■始業式翌日
「あれがSOSだったのかもしれない。何があるのか聞けばよかった。悔やんでも悔やみきれません」
3年前の8月25日、いじめを訴える遺書を残し、列車に飛び込んだ青森市の中学2年葛西りまさん(当時13歳)の父、剛さん(41)は、夏休み中のりまさんの様子を振り返った。
りまさんは中1の頃からいじめを受けた。両親に悩みを打ち明けることもあったが、中2の夏休み前には落ち着いたように見えた。8月には地域の祭りで踊り、プールや海にも出かけ、2学期が始まる1週間ほど前、「このまま夏休みが終わらなければいいのに」とつぶやいたという。
夏休みが明け、始業式から帰宅後、両親が学校での様子を尋ねると「楽しかったよ」と答えた。自殺したのは、その翌日。始業式の日、学校で「死ね」などの暴言を浴びていたという。
剛さんは「心配をかけたくないと親を気遣う優しい子だった。『悪口を言われたか?』など、子供がイエス、ノーで答えられる具体的な問いかけが必要だったかもしれない」と自責の念を抱える。
■「相談の仕方」教育
1972~2013年の自殺を分析した内閣府の調査によると、18歳以下の自殺者は夏休み明け前後に急増する傾向がある。42年間の累計では、9月1日が最多で131人、翌2日が94人、8月31日は92人。
今年7月公表の「自殺対策白書」では、未成年者の自殺は599人で2年連続で増加し、人口10万人当たりの自殺死亡率は「2・8人」と過去最悪だった。
そこで、悩んだ時の相談の仕方や、ストレス発散法などとして注目されているのが「SOSの出し方教育」だ。国の自殺総合対策大綱でも推進が掲げられ、文部科学省と厚生労働省は教材例をまとめ、ホームページで公開している。
SOSの出し方などの出前授業を行う北海道教育大学教職大学院院長の井門正美教授は、「色々なことがつらく、楽しくないと感じたり、心の調子が悪くなったりすることは誰にでもあり、それは助けを求めているサイン。信頼できる大人や公的な相談窓口に話すことが、解決の一歩になる」としている。
夏休み明けに「学校に行きたくない」という子供を受け入れる取り組みも進む。
NPO法人「フリースクール全国ネットワーク」(東京)など3団体は、「#学校ムリでもここあるよ」と題した特設サイトを開設し、子供が安心できる居場所や相談先など約170か所を掲載。いじめ撲滅を訴える一般社団法人「てとり」(同)は26日から、巨人や米大リーグで活躍した松井秀喜さんら著名人6人のメッセージ動画を公開。松井さんは「弱い者をいじめるのはダサい」などと訴えている。
てとり代表理事の谷山大三郎さん(36)は「トップアスリートからの呼びかけで、いじめられている本人や周りの人が少しでも相談しやすい環境を作っていきたい」と話している。
いじめの被害者と加害者の双方の経験を持つ教育研究者の山崎聡一郎さん(25)が今月、いじめや虐待から身を守るための法律を解説した「こども六法」を出した。
山崎さんは小学校高学年の時、いじめられている友達をかばったため、自分が標的になり、下校中に蹴られて転び手首を骨折。中学校時代には、いじめの加害者にもなったという。
本では、いじめなどの事例をあげながら、刑法や少年法、憲法など七つの法律に照らし合わせ、けがをさせなくても「暴行罪」に問われることなどをイラスト付きで解説。山崎さんは「いじめる側には、加害の意識がない場合もある。被害を受けた子供が、苦痛を感じた行為は法律違反だと声を上げ、自分を救うきっかけになれば」と話している。