【横山 光昭】年金大崩壊時代だから「年金には絶対入らない」という人がハマる悲劇 iDecoにも入れない…

「老後の生活資金として2000万円ほどあったほうがよい」という報告書が話題となって2ヵ月余りが経ちました。
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この間、日本全国で「年金だけでは老後生活はできない」という報道があふれかえりました。いまだにそうした報道は散見されます。このような報道が多くなると、自分で老後資金を作ることが必要ならば年金保険料を納める必要はない、という極端な考えをする人も出てきます。
年金が賦課方式(現役世代で出し合って年金の支払いを支える方式)であることを考えると、「少子化だから自分たちが年金をもらうようになるとあまり多くの金額はもらえないだろう」と考えてしまうことも無理はないかもしれません。
最近では年金の財政検証結果が発表されて、将来的に年金の給付水準が2割、3割減る可能性があるということが示されました。これもまたショッキングな内容で「年金不信」がふたたび高まりそうです。

一方で、現在はお金を貯めにくい時代です。人生100年時代といわれるほど長寿化もしていますから、将来自分が年金をもらえる権利を作っておくことは、老後生活の設計においては非常に大切なことであるということは改めて認識しておくべきでしょう。
じつは、治癒しないけがをして仕事や生活に支障が出た時にもらえる「障害年金」、配偶者がなくなった時にもらえる「遺族年金」も、年金保険料を支払っていなくてはもらえません。
年金保険料を納めるということは、私たちの生活の万が一に備えた保険料を納めることと、ほとんど変わりがないのです。年金制度は、批判もあるでしょうが、やはり加入しておくべきものだと思います。
そもそも今回の報告書が出される前から、「年金だけでは老後暮らしていけない」ということは多くの人に認識されていたと思います。
そのために、コツコツと貯める方法を継続して、しっかり資金作りをしたいと考える人が私のところに家計相談に来て、貯蓄の計画を立てたり、投資にチャレンジすべく、基礎を学んだりという姿を何人も見ています。
一方で、「年金なんてもらえないかもしれないから、納める必要はない」と考えて、年金保険料を払っていないという人も多くいました。じつはそうやって年金を無視し続けた人たちが今、とても困っています。
個人事業主に雇われていたNさん(47歳)もその一人です。

Nさんは「給料からは所得税と雇用保険料がひかれていましたが、社会保険料は引かれていませんでした。給与明細の意味もわかっていませんでしたから、そこには何ら不思議に感じず、受け取ったお金を使い切る生活をしていました」と言います。
つまり、Nさんは社会保険には何も加入せず、国民健康保険に加入することも、国民年金に加入することもなくこれまで過ごしてきたのです。
就職したころはバブルが終わったばかりのころ。自営業者には「年金なんてもらえるかどうかわからないから、払わなくていい」という人も多かったですし、必ず入らなくてはいけないものであるという意識もありませんでした。ただ、Nさんが先輩たちの話を聞いているうちに、自分の職場には本来あるはずの健康保険も、年金制度もないことがわかりました。
Nさんはとりあえず健康保険には入ってみたものの、年金保険料は高額ですし、健康保険料と合わせて払うと生活が苦しくなると感じます。やはり国民年金には入らず、無視することを選択されたようです。年金を払うより貯金したほうがいいと思ったのです。
当時の銀行金利は2%、郵便局の金利は3%を超えていました。下手に運用するよりもお金を増やしやすい環境であったため、預貯金で貯めていくことが最高であると考えていたのです。そのため、払うよりも貯めていこうと考え、自宅に年金保険料の徴収をする人が何度訪ねてきても無視を決め、支払いは全くしていませんでした。
時が流れ、預貯金金利が下がってくると、年齢のせいもあるのか、「年金がいくらもらえるのか、それで暮らせるのか、老後資金はいくらいるのか」というような話を多く聞くようになりました。
銀行の預貯金は全く増えません。今ある預貯金は1200万円ほどです。あと十数年で多少貯めていけるとは思いますが、少し増えたところで、年金で暮らし始めるであろう65歳以降の20年、30年を生きていく資金には少ないと感じます。
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例えばあと10年ほどで預貯金が1500万円になったとして、30年生きるつもりで計算すると、1か月の生活費にできる金額は4万2000円弱。到底暮らしていける金額ではありません。
年金はやはり入っておいた方がよかったのかな、と思いましたが、受給資格には25年の資格期間が必要でした。自分は到底その期間を満たすことはできないと考え、加入をあきらめることにしました。

2017年、私的年金制度の一つの「iDeCo(個人型確定拠出年金)」が話題になりました。もともと加入できる条件はそろっていたのですが、そういった制度について情報がなく、知りませんでした。
iDeCoに加入すると預貯金のような元本確保型を利用しても、運用をしても掛け金は全額所得控除となるので、税金が安くなります。また、運用益は非課税ですし、年金制度なので受け取るときも税控除が効きます。非常に魅力的に感じ、申込をしようとしたところ、利用できるのは「公的年金加入者」で、かつ年金保険料をきちんと支払っている人だけだとわかりました。
年金に入っていないと、年金がもらえないだけではなく、税優遇の利いた年金づくり制度も利用できないとガッカリしました。ですがiDeCoが話題になってまもなく、年金の受給資格が「資格期間10年」に短縮されました。
加入するとiDeCoが始められますし、何とか国民年金の資格期間10年もクリアできます。もし、10年分より多く年金が欲しいと思えば、60歳以降、70歳まで年金保険料を払うことができる「任意加入制度」も使えることを知りました。
このような経過を辿り、Nさんはようやく国民年金に加入し、iDeCoも始めることにしました。もらえる年金額を少しでも増やせたことは、Nさんの将来のくらしを安定させることに繋がることでしょう。
Nさんが老後の生活をなんとかするために必要なことは、収入を増やす、支出をコントロールする、運用するの3つです。運用することは、iDeCoでなんとか始められそうなので、あとは支出を削減できるようにコントロールすること、長く収入を得続けることができれば、より老後の生活は安心でしょう。

年金については、受給額が減るとか、もらえなくなってしまうなどという懸念ごとが後を絶ちませんが、金額が減ったとしても年金制度はなくなる心配はないと考えます。ですが、年金だけで暮らすということは難しいだろう、そういう覚悟は必要です。これは将来的に年金をもらう方だけではなく、今、もしくはこの数年で年金をもらう人にもいえることです。
多額な資金は、すぐに作り出すことはできません。老後が見えてから焦るのではなく、気が付いた時からコツコツと、準備を進めて欲しいと思います。その準備とは、貯めること、増やすことだけではなく、生活のサイズを小さくする、生活費を少なくするということも含みます。
今回の老後は2000万円不足するであろうという報告は、老後に向けて準備すべき目安が提示されたと考えるべきです。その上で、「自分の場合はいくら必要か」を考え、備えていくことが大切なことです。