SNSなどでの発信もほとんどなく、公式ホームページがときどき更新されるだけの岩屋毅防衛相が、ネット民の関心を集めている。それは、防衛大臣として心許ない、というネガティブな理由からだが、なぜそこまで注目されるのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、どこか構ってしまいたくなる岩屋防衛相が批判を浴び続ける理由を考えた。
* * * まだまだ盛り上がりが続くネットの韓国関連話題では、世耕弘成経産相と河野太郎外相が韓国に対して冷徹とも言える態度を取り続けることが高く評価されている。その一方、閣僚の中で一身に批判を浴びているのが岩屋毅防衛相だ。
元々新入閣組として、失言を連発した桜田義孝前五輪相とともに資質が不安視されていたが、韓国によるGSOMIA破棄及び北朝鮮によるミサイル連続発射という重大局面に「この大臣で大丈夫なのか?」と思われているのだ。河野氏に関する話題が出たら「無能岩屋は少しこいつを見習え」と書かれてしまう。
きっかけは、2018年12月の韓国海軍による自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題時の弱腰対応である。韓国が次々と繰り出す「“日本が悪い”論法」「“日本が出した証拠は捏造”論法」的居直り戦術に屈したように見えたのだ。
以後、韓国関連の話題が出ると「岩屋ちゃん腰抜けやからほっときゃ今回も有耶無耶でフィニッシュやで!」「岩屋がひ弱だから付け上がる」などと書かれるようになった。
それにもかかわらず、韓国の鄭景斗国防相と6月に会談した際に満面の笑みで握手する写真が報じられた。さらに、この件は産経新聞の報道によると、防衛省幹部が「会っても建設的な議論にならない」と言ったものの、岩屋氏は「それでもぜひお目にかかりたい」と秋波を送ったのだという。この時はノンフィクション作家の門田隆将氏が自身のブログでレーダー照射問題発生直後と同様に『もう一度言う「岩屋防衛相を罷免せよ」』と主張した。
身内である自民党からも、元航空自衛官である宇都隆史参院議員が岩屋氏に対し、動画で「怒りに身が震えている」と述べた。
GSOMIAの件でも岩屋氏は「延長に期待している。日米韓の連携にも資する」と韓国を慮ったような発言をしたが、これもバッシングの対象だ。さらには、辺野古の土砂投入や軟弱地盤問題では、野党からも批判されフルボッコ状態である。
諸外国との関係において3つの柱は外交・経済・安全保障だが、韓国に批判的なネット民からすればこの3つが足並みを揃えていないように見えるのだろう。「世耕、河野はやるべきことをやっているんだから、岩屋も同じようにやれ!」という苛立ちが感じられる。だからこそ、小野寺五典氏の防衛相復帰を求める声も出ているのだ。
とはいっても、よくよく考えると岩屋氏は8回、桜田氏は7回の当選を誇るにもかかわらず、今回が初入閣だ。地元の名士として「先生! 先生!」なんて言われ、「ガハハハハ、今宵は愉快よのぉ!」なんてやるほどの器は持っているのだろうが、野党や記者の厳しい追及に適切な答えをするのは難しかったのでは。いや、2人とも性格が良さそうなのは分かる。
ましてや各国のエリート大臣を相手にするのはそれ以上に困難な仕事だ。さらには、当面の相手は韓国だが、相手は何しろ兵役を経験したこともある人物である。ナメられないか心配になり、どこか子供を見守る親のような気持ちにさせる不思議な大臣である。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2019年9月13日号