「持続可能なゲームメディア」の未来像とは 電ファミニコゲーマー・平編集長を直撃

今夏、ゲームファンの間にあるニュースが走った。ゲーム情報サイト「電ファミニコゲーマー」が運営元であるドワンゴから独立。そのメディア部門が編集長である平信一(TAITAI)氏率いる新会社で新スタートを切ると報じられたからだ。日本でも指折りのゲーム報道媒体の1つとして親しまれてきた同サイトだが、Webメディアとしてどうマネタイズできるかを模索している。「4Gamer.net」副編集長などを務めゲームニュースの一線に身を置き続けてきた平氏に、描くメディアの未来像について直撃した。

ドワンゴ傘下を離れた経緯
――2016年に「電撃」「ファミ通」「niconico」「4Gamer.net」の4メディア・企業から情報提供を受けるゲーム情報のキュレーションサイトとしてスタートした電ファミニコゲーマー(電ファミ)ですが、メディア事業部門がドワンゴ傘下を離れ平さんの新会社「マレ」運営になりました。まずは経緯を教えてください。

平: 直接の原因はドワンゴの事業整理です。事業立て直しのために不採算部門を見直すことになり、電ファミもその対象になりました。他の(整理対象の)事業は3月いっぱいでなくなりましたが、うちは6月まで予算を持ってもらい、その間に引受先を探すことになったのです。何社か興味を持ってくれたところもありましたが決まり切らず、その一方で「事業引き受けまではいかないがお金を出して協力できる」という会社が出てきたので、まずは僕の個人出資で引き受けようとなったのです。

――独立した直接の原因は運営会社の経営問題ですが、平さんはそれとは別にこうしたWebメディアのビジネスモデルに対する問題意識も多く発信してきました。電ファミについても、今回の新スタートを機に異なるマネタイズ方法の模索に取り組んでいます。オンラインやリアルイベントで読者を集めサロンを形成する「ユーザー協賛」の手法を試していますね。なぜそんな考えに至ったのでしょうか?

平: 今のWebメディアのあり様という物は、結局ビジネスモデルに引きずられ、依存してしまっていると思います。例えば、なぜ(取材せずWebから拾ってきた情報を集めた)「まとめブログ」的なサイトが流行るかと言うと、WebメディアのビジネスモデルがPV(記事のクリック数)に比例してお金がもうかるからです。

僕らが思う「良い記事」はPVと比例するかというと、残念ながらそうじゃない。例えば、経済系の雑誌などでは「10万人のビジネスマンに読まれる記事」が良い記事ですが、ネット上で10万人にちゃんと読まれてもたかだか「10万PV」ですよね。それより猫や水着の女性の写真の方が簡単に100万PVも取れる。

ネットメディアの1つの問題点というのは、記事が「広告」という仕組みによって、PVのみで価値が決定されてしまうところなのです。同じPVの記事が“等価の価値”なのか、という。これこそが、Webの世界で突きつけられている課題です。

新聞社といった既存メディアがそうでないところで踏みとどまれているのは、今までの(紙媒体などの)ビジネスモデルが強固で、そこで得られる一次情報や体制を流用して(Webサイトを)運用しているから。母体の強さで成り立っているわけです。でも、一次情報を作っている新聞社の体制が100%Webに切り替わったら、運営は難しくなっているだろうと思います。

広告モデルのみに依存しない
――電ファミはゲーム史に名を残した名作ゲームのクリエイターに、製作時のエピソードを聞いて、まとめていく看板企画「ゲームの企画書」をはじめ、ゲーム業界や著名タイトルについてじっくりインタビューをしたり分析を重ねたりした記事が売りです。ただ、ゲームメディアに限らずWebメディアの多くは、それこそ一次情報を取材するテレビ・新聞などの報道を「切り貼り」した程度の、まとめサイト的なモノが大勢を占めているようにも思えます。

平: 僕も「手間暇かけて作る記事がちゃんとリターンするかは、Webという構造の中では不可能だろう」という問題意識を持っています。PVだけ考えれば、「取材しない」方が効率的ですよね。

ゲーム業界の話で言えば、E3(米ロサンゼルスで毎年開催される世界最大のゲーム見本市)などの取材はせず、海外で配信される(Webで流れる)情報をストリーミングして得た方が楽で早い。取材しに行く意味は何ですか? となる。極端に言えば、「(情報を)パクってコピペした方が良い」となってしまいます。

ただ、一方で僕が「まとめサイト」を完全否定する気になれないのは、あれはあれで動きの早さや感度の良さがあるからです。(雑誌などの)旧媒体にそういう感度があるかと言うと、無いですね。そうやって一次情報のソースをあてにして、二次情報を効率的に「作る」のが、昨今の(ネットメディア業界の)勝ちパターンだったんです。

でも、それは(旧来のメディアの)一次情報をあてにしていますよね。一次情報が完全に消えた世界で彼らはどうなるのか? とも思います。

――電ファミはあくまで「ゲームを作る人の情熱を伝えたい」と掲げ、「広告モデルのみに依存しない」とも表明しています。具体的にはどういったマネタイズを構想していますか?

平: うまくいくかどうかは分かりませんが、電ファミを運営するマレという会社の向かう方向としては、メディアの運営だけでなく「企画会社」を考えています。「発信力の強いオウンドメディアを持っている企画会社」として立ち振る舞うようになるのかな、と。

ここで期待されるのは面白い、ネットに響くような記事や企画を作ることだと思います。電ファミがクオリティーの高い記事を掲載していけば、自分たちのブランドを高められるというメリットができる。

一方で、いわゆる「PV保証(広告のクライアント企業に、どれくらいたくさんのPVが確保できるか保証すること)」をどうする、といったモデルではなくなります。記事1つ作るのにも(手間が掛かるため)費用対効果は悪くなる。むしろ、(広告ビジネスより)企画制作の能力を伸ばしていく方が前向きだと思っています。

IPを作るところに力を使っていきたい
――広告ではなく企画の方に軸足を移した方がビジネスとしての可能性があるということですね。

例えば、“ショーケース”としてのインタビュー記事がまずあります。その上で「僕らが貴社のオウンドメディアというような形で(記事発信を)やりますよ」とか、ゲーム業界の見識を買われて「(クライアント企業への)コンサルタントやプロジェクトをやりますよ」といったイメージです。

純粋なメディアの仕事だけというより、IP(キャラクターやストーリーといった知的財産)などを作っていくところにも自分たちの力を使っていきたいのです。メディアや編集者であることを生かした仕事ですね。それは企画のプロデュースかもしれない。他にも海外のゲーム企業が日本にアプローチする際の案内人役や、その逆で海外に(日本のゲーム会社が)アプローチする際の手助けもできるかもしれない。

――ちなみに、有料記事という選択肢は無かったのでしょうか?

平: 今は「投げ銭」のようなこともやっていますが……。ネット記事にいちいちお金を払ってもらえるかというと、そのハードルを(読者に)越えさせるのは難しい。

例えば、月額課金はビジネス系のサイトなど「お金の出しやすい」ジャンルなら成立すると思いますが、他ジャンルではしにくい。特にゲーム業界では懐疑的ですね。また、クローズド(会員限定)の記事にした際、取材を受けてくれた人へのデメリットになってしまうのも何か違うと感じます。うちで取材を受けてくれる人には、(自分の情報を)広く発信したいと考えているクリエイターが多い。その発信力が失われてしまうと、それはそれで(メディアとしての意義が)根本から揺らぐ話だと思うのです。

「メディアとして広告を請け負いたくない」というわけではありませんが、理想はメディア事業(=広告など)収入が2~3割で、残りは企画系のビジネスや「サロン」でやりたい。バランスが取れればいいな、と。

――サロンとは、平さんが、漫画界の重鎮である『週刊少年ジャンプ』元編集長(白泉社現会長)の鳥嶋和彦さんらの支援を受けて取り組んでいる電ファミのコミュニティー「世界征服大作戦」ですね。オンラインサロンは専門メディアが生き残る1つの方策ともよく言われます。

平: 鳥嶋さんたちとお付き合いする中で、業界をまたいだ取り組みをしたいなと3年くらい前から話をしていました。電ファミの独立にあたり、サロンのような形をやってみようと思ったのです。

課題も多々あるオンラインサロン
――現在、世界征服大作戦は電ファミの「ファンクラブ」という形で、月額の会費に合わせ有名業界人とのチャットや、鳥嶋さんのようなコンテンツ業界の大物を呼んだオフラインのイベント参加ができる仕組みです。オンラインサロンは取り組むメディアが多い半面、課題も多いそうですね。

平: まず、(当初は)ターゲットが分かりづらかったかなと思っています。読者に向いた取り組みなのか、業界人向けなのかフワッとしていました。当面はゲームやアニメといった業界に寄り切ってしまおうと考えています。

例えば、鳥嶋さんの漫画講座をやってみるなど、一般向けというよりはプロ仕様でやろうと思っています。「広く浅く」よりは「深く刺さる」ように。何かの勉強会でもいいのですが、深く特定の人に刺さることで、その影響や知り合った人同士の縁で、何かのプロジェクトが始まるといったイメージ。僕や鳥嶋さんのやりたかったのはそういうことです。

サロンそのもの(が生み出す)かは分かりませんが、電ファミやマレのイベントをきっかけに新しいサービスやIPが生まれればいいな、と思っています。

――ただ、鳥嶋さんのような著名人の知見を発信するだけなら、記事や動画コンテンツでいい気もします。わざわざイベントにするメリットとは?

平: (著名人の仕事場の)取材見学などは、皆さんが想像するより何倍も価値があって無茶苦茶面白いのに、そのすごさがなかなか伝わらないんですよね。記事を読むだけでは得られないし、現場に足を運んで実際に見る情報量は記事よりも多いのです。

人間とは五感で物事を感じる生き物です。テキストで読む際の情報が10だとすると、直接目の前で理解すれば、(質問などで)納得するまで情報を「落とし込める」ので、その量は何倍にもなると僕は思っています。自分もこれまで取材してきた中で、人と話して直接質問する際に(得られる)情報量の多さを体感してきました。それを味わってほしいですね。(服部良祐、今野大一)