「じゃがりこ」が350億円の“お化け”商品に成長したワケ “いじられ”力と独自製法がカギ

1995年に発売されたカルビーのスナック菓子「じゃがりこ」の売り上げが右肩上がりで増えている。2013年頃には300億円(出荷ベース)を突破。18年には約350億円で推移している。ラインアップも拡大を続け、お湯を注いで食べるタイプや、素材をポテトからコーンにしたタイプなども登場している。10月17~20日限定でオープンした「じゃがりこミュージアム」(東京都渋谷区)には、過去に発売されたじゃがりこが133品並んだ。20年には誕生してから25周年を迎える。

スーパーやコンビニがプライベートブランドを次々と発売する一方、菓子メーカーの有名ブランドが生産規模を縮小せざるを得ないケースも散見されるようになってきた。そんな状況で、なぜ、じゃがりこは成長を続けられるのだろうか。じゃがりこのブランドマネジャーである松井淳氏(マーケティング本部 商品2部 1課)に話を聞いた。

ラインアップがここ数年で増加
じゃがりこのラインアップは大きく分けて「ベーシック」「Lサイズ(容量がベーシックの1.2倍)」「bits(ミニサイズ)」「じゃが湯りこ(お湯を注いでポテトサラダにできる)」「期間限定商品」「素材替え(原料に枝豆やコーンを使用)」「おみやげ商品(地域限定バージョン)」がある。

ベーシックには「サラダ」「チーズ」「じゃがバター」「たらこバター」の4種類がある。約7センチのスティック状ポテトが40本前後入っており、容量は60グラム前後となっている。

カルビーの「ポテトチップス」は、原料となるジャガイモを薄くスライスしてフライしたものだが、じゃがりこは製造工程が複雑で、できるまでに時間がかかるのが特徴だ。まず、ジャガイモを蒸して裏ごしする。裏ごししたポテトに味付けをしてからスティック状に成形し、乾燥させる。その後、フライにしてカップケースに入れて完成だ。原料投入から商品になるまで2時間半かかるという。

商品としてのじゃがりこの特徴はいくつかある。サクサクとした独自の食感があること、携帯に便利なカップに入っていること、スティック状なのでつまみやすいこと、そして手が汚れにくいことだ。

じゃがりこが誕生した経緯
戦後、広島で創業したカルビーは1964年に「かっぱえびせん」を発売して以降、ほぼ10年ごとに大型商品を生み出して成長してきた。現在の看板商品であるポテトチップスが1975年、シリアルの「フルーツグラノーラ」(現在はフルグラ)が91年、じゃがりこが95年、皮つきじゃがいもスティックの「じゃがビー」が2006年といった具合だ。

じゃがりこの開発がスタートしたのは1992年。松井氏は「当時、当社の商品は袋菓子が中心でした。ガムやチョコレートのように、外でも気軽に食べられるような商品を開発する狙いがありました」と説明する。

そこで、若手中心のプロジェクトチームが発足した。3年間の試行錯誤を経て、生地に味を練りこんだスティックタイプの商品を生み出した。また、カップに入れた商品というのはカルビーにとっては初めての試みだった。ポテトチップスのように味が付いたパウダーをポテトにまぶしていないので、手が汚れにくいという特徴があった。

ちなみに、揚げたスティック状のポテトをカップに入れる商品としては、森永製菓が1978年に「ポテロング」を発売している。この分野でカルビーは後発なのだ。

17歳の女子高生を狙う
ポテトチップスが男子中高生や子どもがいる30~40代の主婦をターゲットにしていたのに対し、じゃがりこは女子高生向けに開発された。当時、女子高生の間では「プリクラ」や「ルーズソックス」などが流行しており、社会への発信力が強い存在だった。じゃがりこが入っているカップは、女子高生がバッグに入れて持ち運びしやすいようなサイズにしている。また、女子高生にササる商品をつくることで、将来のユーザーになってもらう狙いもあった。じゃがりこの現在のメインユーザーは、30~40代の主婦層とファミリー層だ。子どものころに馴染んだお菓子を、大人になっても家族と一緒に食べている。

「コミュニケーションのターゲットが女子高生というのは、今も昔も変わりません。若々しい元気なブランドイメージを保つ目的があります。かつて、大人のユーザーに向けて、野菜を練りこんだ体にやさしい商品や、おつまみになるような商品を出したこともありました。ですが、今は若い人に向けた商品開発をしています。若い層から他の年代にも広がるようにするためです」(松井氏)

じゃがりこは、お客から「楽しい」と思ってもらえるようなパッケージやネーミングを工夫している。例えば「じゃがりこ」という商品名は、開発担当者の友人である「りかこさん」と関係がある。りかこさんがおいしそうに食べる様子を見て「じゃがいも+りかこ→じゃがりかこ→じゃがりこ」とした。イメージキャラクターのキリンは「食べだしたらキリンがない。」というキャッチフレーズから生まれた。また、発売から10年後には商品のバーコードにキリンなどのユニークなイラストを盛り込む「デザインバーコード」を考案した。

マネされにくい製法
ある時期まで圧倒的なブランド力を誇っていた菓子が、スーパーやコンビニで似たようなプライベートブランドの商品が登場することで、売り上げがじりじりと落ちるケースが散見される。また、競合からも新商品が日々発売されている。競争が激しい中で、じゃがりこはなぜ生き残ってきたのか。

松井氏は「他社にマネできない商品だからではないか」と分析している。過去に、じゃがりこそっくりな商品が何度か登場したことはあった。しかし、サクサクとした食感などを模倣できず、じゃがりこを脅かす存在にはならなかったという。

じゃがりこの製造工程は企業秘密になっており、外部に公開していない。製造ラインが複雑で、工程が1つでも狂うと違う食感になるという。本気でマネをしようとすると、初期の設備投資がかさむので、それが参入障壁にもなっている。「現在、当社で新商品を開発する場合、じゃがりこほど製造に手間をかけるという判断はしにくいのではないでしょうか」と松井氏は語る。

じゃがりこは定期的に期間限定商品を投入しているが、試作にも時間がかかる。ポテトチップスならポテトにまぶす味を変えればいいが、じゃがりこの場合は100パターンの試作をしようとすれば、250時間かかる計算になる。

ファンが勝手に盛り上がるのでブランドが老化しない
どんな有名商品もユーザーとのコミュニケーションを怠ると、ブランドが“老化”してしまうリスクがある。じゃがりこも、一本調子で成長を続けてきたわけではなく、売り上げが苦戦する時期もある。しかし、その度にファンが新しい食べ方や楽しみ方をSNSなどにアップし、ユーザー間で“勝手に”盛り上がることがあるという。どういうことなのか。

象徴的なものとしては「じゃがりこタワー」が挙げられる。これは、誕生日などのサプライズ演出のために、じゃがりこのカップを何重にも積み上げるものだ。マーケティング担当者が2015年より前のSNSの投稿を分析すると、このタワーの写真が多数投稿されていることが判明した。カルビーでは「単価が安くて気軽に購入できる」「積み上げやすい形状になっている」「商品のバリエーションが豊富で個性を出せる」といった点が女子高生に受け入れられている要因だと分析。ユーザー発のブームを後追いする形で、16年にタワーの制作方法などを紹介した「じゃがりこタワーケーキ応援サイト」を立ち上げた。

ユーザー発で盛り上がる“不思議”な現象
また、Twitterで人気の料理研究家が、フランス版マッシュポテトである「アリゴ」を、じゃがりことチーズを混ぜてつくるレシピを公開したところ、リツイートが17万回されて、55万のユーザーから「いいね」されたことがあった。また、人気YouTuberがすぐに反応し、アリゴを実際につくる様子を投稿したところ300万回再生されたという。

このほかにも、お客が「じゃがりこの日」を勝手につくり、お店のじゃがりこを買い占めようと呼びかけたことがあった。お店もそのイベントに乗る形で「今日はじゃがりこの日」と銘打ち、売り場を展開したという。カルビーはもともと、小売りチェーンから「ポッキーの日のように、じゃがりこの日をつくって」と要請されていたこともあり、2016年に10月23日を「じゃがりこの日」に制定した。

このように、じゃがりこにはユーザーから“いじられ”やすい特徴がある。松井氏も「当社がしかけたわけではないのに、ユーザーの方々が自発的に盛り上げてくださることがあります。なぜ、ここまで話題が広がるのか、不思議に思うこともあります」と語る。

ユーザーとのつながりを重視
カルビーは、ユーザーとのつながりを強固なものにするため、07年から会員制のファンサイト「じゃがり校」を開設している。じゃがり校に入学するには、会員登録を行い、毎年実施される入学試験を受ける必要がある。合格すると、新商品の味・コンセプトなどを決める「新商品開発プロジェクト」に参加できる仕組みだ。毎年新入生が入学してくるので、新しい視点で商品開発ができる。カルビーには「堅あげポテト応援部」というファンサイトがあるが、コンテンツの数ではじゃがり校が圧倒している。

じゃがりこの成長を可能にしたのは、マネされにくい独自の製造技術と、ファンから“いじられ”やすい商品属性にあるようだ。

【お詫びと訂正:2019年10月30日午前6時の初出で、「シリアルの『グラノーラ』が88年」と記載いたしましたが、誤りでした。正しくは、「シリアルの『フルーツグラノーラ』(現在はフルグラ)」でした。10月30日午後1時、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします】