◆国会PVが緊急街頭上映!
法政大学の上西充子教授が代表を務めている国会パブリックビューイング(以下、国会PV。Twitter IDは@kokkaiPV)が11月4日、新宿駅西口にて緊急該当上映を行った。
テーマはもちろん、萩生田光一文科相による「身の丈」発言で、一気に白日のもとに晒された、あまりに杜撰かつ高校生たちのことを考えない不公正極まりない「大学入試改革」に伴う「共通テスト」の問題である。
ゲストには、早くからこの問題を指摘し、文科省前抗議行動などを呼びかけていた元高校専任教員の田中真美(@mami_tanaka)氏。
上映開始前に、田中氏は次のように語った。
「幸いにして今回は『延期』になりました。しかし、『身の丈』発言に代表されるように、『場所』の不公平性などだけに焦点があたっている今の状態だと、一年間の間にベネッセなどが『全国の会場で行います』などの整備をしてしまえば押し切られてしまいます。大学入試改革の問題点は、地域や場所の不公平性だけじゃありません。国語・数学の記述式問題や、そもそもスピーキングのテストを導入することだけが英語力向上になるのかなど、抜本的な問題を抱えています。『延期』や『見送り』で終わりじゃないんです。『あの世送り』にするまで声を上げ続けなければいけない」
それでは国会PVではどのように「大学入試改革」の問題を取り上げたのか。改めて見ていこう。
◆「共通テスト」をめぐる2つの大きな論点
まず、モニタには「共通テスト」をめぐる2つの大きな論点が表示された。
1つは、民間英語検定試験(英検やGTECなど)を国立大学等の一次入試に組み込むというプランである。これは先日の国会で土壇場の見送りが決定し、今後1年かけて見直し、2024年実施を目指すということになった。
そして、問題はもう一つある。それは2020年度入試から実施されてしまう「国語と数学に記述式の問題を導入」するという点だ。
今現在、メディアで大きく取り上げられているのは前者の民間英語検定試験導入についてだ。これは、萩生田文科相の「身の丈」発言に端を発する「地理的格差」や「経済的格差」の問題が取り沙汰されたことが要因だ。
これについて、国会PVは10月30日の衆議院文部科学委員会の中から、この問題を早くから追及してきた国民民主党の城井崇(きいたかし)議員の質疑を紹介している。
城井議員:「そうした中で萩生田大臣から例の身の丈発言があったということであります。
先ほどこの文部科学委員会の冒頭で大臣から陳謝とともに発言の撤回の旨がございました。その発言のときに、自分の都合に合わせてという趣旨のご発言もあわせておっしゃいました。
このいわゆる身の丈発言が、なぜ受験生が怒り、なぜ教育政策に自分の人生が助けられたなという多くの方々が「何だ、あれは。貧しければ我慢しろということか」、こうしたことで怒りを覚えたのは何だったか、このことを大臣ぜひ理解をいただきたいというふうに思うんです。
教育の機会の均等や教育格差の是正が仕事の文部科学大臣から、身の丈に合った勝負をと言って、個人の努力ではままならない家庭の経済格差や地域格差による教育の格差の拡大を認め促す発言をされてしまいますと、こうした中身は、例えば教育を受ける権利を定めた憲法26条*には明確に違反をしますし、教育の機会均等を定めた教育基本法第3条**違反にもなります。言語道断であります。
問題は身の丈発言に示された大臣のこのずれた姿勢だけではありません。
大学入試に導入されそうになっている英語民間試験ですが経済的格差地理的格差といった個人の努力が及ばない現状に、自分の都合に合わせて、身の丈での対応を強いる。そして受験生側からすると従わざるを得ない入試になっている。いわば制度自体が「身の丈入試」になってしまっていることが、大きな問題なんです、大臣。
この「身の丈入試」も、憲法や教育基本法に照らしても沿わない内容であることは、明らかであります。
大臣は記者会見で、都合に合わせて適切な機会を捉え、二回の試験を全力で頑張ってもらいたいとの思いだった、こんなふうにおっしゃっています。
ただ、先ほど大臣もくしくも おっしゃいましたように、都合に合わせるも何も、受験開始の今5カ月前です5カ月前になっても、各民間試験をいつどこで何人が受けられるかさえ未定の状況です。
国の共通テストなのに、希望する全員が、希望する地域で必ず試験を受けられる状況ではありません。大臣、現時点で確定できていないですね。お答えください」
<*憲法26条:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する>
<**教育基本法第3条:国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない>
萩生田大臣:「先ほど私自身の問題意識も申し上げましたけれども、試験団体の皆さんには 11月1日付までに可能な限りの開示をそれを提示していただきたいということを申し上げている期限が、まだ11月1日ですから、その報告を待ちたいと思います」
城井議員:「そもそも、実施要領は2年前までに示すというのがルールだったんじゃないですか。ここが守られていなくて、11月1日には。実施の5カ月前ですよ。約束が違うんじゃないですか
そうやって文部科学省も実施団体も、実施する場所や内容や日時なども含めて、延ばして延ばして延ばして延ばしてきているのが現状じゃないですか」
なんと、実施要領を2年前に示すのがルールだったにも関わらず、実施5ヶ月前の段階で会場も日程も決まっていないという混乱必至の状況なのだ。
◆「身の丈」にあった受験を強いられるとどうなるのか?
また、「身の丈」にあった受験とは何か、自身の体験を元に質疑を行ったのは立憲民主党の初鹿明博議員だ。
初鹿明博議員:「そして経済的な問題をもう一回聞きますけれども、安倍総理は所信表明で何と言っているかといったら、「子どもたちの誰もが家庭の経済状況に関わらず自らの夢に向かって 頑張ることができる、そうした社会を創り上げます」と言っているんですけれども、全く逆に行っているじゃないですか。
やはりこれは、追加の費用がかかる。それが地域によっては、宿泊とかを伴って一回受けるのに五万円ぐらいかかる。二回受けるということになったら十万円になるわけですよ。
これは一回でやめておこうかな。そういう家庭が出てくることも、容易に想像できますよね。
私ね、大臣の身の丈発言のニュースを見て、自分のことを 思い出しましたよ。中学校三年生のときに三者面談をやったんですよね。うちは経済的に豊かじゃありませんでした。「都立のどこを受けるの」「ここを受けますよ」と。先生が「じゃ、滑りどめの私立はと」言いかけたところを、うちの母親はそれを遮って、「お金がないので、私立は受けさせませんから。落ちるようだったら、働かせます」と。ばっさり言いましたね。「ああそうなんだ」と私もびっくりしましたけれども。「ああそうなんだ」と思いました。身の丈に合うというのは、そういうことなんですよ。
今、みんな身の丈に合うように受けているんですよ。残念ながら。それを少しでも負担をなくしていこうというのが、政府のやるべきことじゃないですか。それを新たな負担がふえることをなぜやるのか。
そして最初に言ったように、それが意味あることだったらいいけれども、全く意味ないわけですよ。スピーキングの能力なんて、はかれないんですから。こんなばかげたことは、絶対にやるべきじゃないと思いますよ」
◆離島や僻地の学生は?
続いて、再び城井議員の質疑を紹介し、経済的な格差ではなく地理的な格差について言及する。
地理的な格差については、離島の学生には費用補助の概算要求をしているが、へき地については交通費・宿泊費の配慮予定なしで、あくまでも居住地に近い試験会場を設置することが重要だと萩生田大臣は答弁している。
この地理的な問題について与党側の議員の質疑も紹介している。今回の国会PVでは、与党側の質疑も紹介されているのが特徴だ。こうして野党側の質疑と与党側の質疑が並べられると、与党側議員の質疑がいかに大臣が都合のいい回答を発言できるか、巧妙に誘導できるように練られているのがよくわかる。
国会PVで紹介されていた自民党の馳浩議員の質疑は次のとおりだ。
馳浩議員:「今回の大学入試英語民間試験導入成績提供システム、これを円滑に進める上で、実際に想定されると思うんですが、各都道府県の公共施設とりわけ公立の高校、この場所の提供や 採点者監督者含めて、やはり教職員の協力を仰ぐことが 妥当ではないかと思われます。安定的なですね、民間試験といえども公益性がありますから、安定的な運営を 図る上でより一層、公立高校や公共施設 また高校の教職員、そして教職員の協力を 求める場合には、これは兼業規定にひっかかりますから、このことも含めてやはり、より一層文科省としても、条件整備にやっぱり力を入れる必要があると思いますし、私なりに提案いたしますが いかがでしょうか」
この質疑に対して、萩生田大臣は次のように答弁する。
萩生田大臣:「できるだけ受験生のみなさんのお近くで受験ができる環境をつくっていくことは、必要だと思っておりまして、既に文科省としては 国立大学の利用ですとか、あるいは各自治体に公共施設の 提供のお願いをしております。
今、ご提案のあった高校の 校舎につきましても、都道府県によっては既にそういう 取り組みをしていただいているところもありますので、よく状況を見ながら、こちらから必要な要請をしていきたいなと思っております。
また高校を使う上で 例えば試験監督ですとか、あるいはさまざまなサポートで、そういったことになれている人たちに参加していただくことも 必要なんだと思っております。
文科省から先生方を前提にお願いをするということは今のところ考えていませんけれども、しかし希望してやっていただける先生方は、兼業ができるような仕組みというものは、しっかり確保していきたい、こう思っております」
「今のところ考えていない」と言いつつ、将来的にその方向に進む気満々と言った感じの答弁である。
しかし、この公立高校の場所のみならず、採点者・監督者まで含めて教職員の協力を仰ぐという点は2つの問題点を孕む。
◆公立高校協力要請の問題点
この問題点に切り込んだのは前出の城井議員だ。
城井議員:「高校を借りる公開会場の場合、高校教員が試験監督責任者にはならないというふうに文部科学省から説明を私も受けました。
ただ、今日の前半の委員会質疑のやりとりでもございましたが、高校教員が責任者ではないが試験監督をやる場合があるということでありました。
そもそも、兼業禁止であります。その場合の賃金はどうなるのか。教員の責任が重過ぎる上に、公平性が担保されません。
大臣答弁では「希望者には」ということでございましたが、学校側からすると、生徒のためを考えると断れないというのが人情だと思います。事実上の強制に当たるのではないでしょうか。
大臣、この高校教員が試験監督にかかわるというのは、疑義があると思いますが、この点いかがお考えですか。
萩生田大臣:「高校入試英語成績提供システムの参加資格に関して、高校の例えば英語の教員の先生が、指導上負担が増加するようなことがあってはならないと思いますし、また試験会場を設置したときに、例えば地元の都道府県の教育委員会や何かとよく相談をしていただいて、先ほど私「希望すればと」申し上げました。働き方改革が叫ばれている中で、確かに先生の心情を考えると断りづらいということもあるかもしれない。
しかし、別段責任者は民間の方から出してもらうわけですから、運営する上で、学校になれた先生方が立ち会っていただく、その希望者がいるとすれば、そこはぜひお手伝いをしていただくことは、よろしいんじゃないかと思います。
兼業の届出を出していただいて、きちんと手続を踏んやっていただくので、「やりたくない。そんな日に出てき、 試験の手伝いをするつもりは全くない」という先生方に対して強要するようなことがあってはならないと思いますので、そこは徹底してまいりたいと思います」
いかがだろうか? 教員の労働問題というのが第一の問題ではある。萩生田大臣もそこに焦点をあてた答弁を行っている。しかし、萩生田大臣は、「やりたくない、そんな日に出てきて試験の手伝いをするつもりは全くないという先生方」などと、ありえない想定の教師を仮定して、反対者の印象をネガティブな方向に巧妙に誘導している。これは典型的な藁人形論法だ。
そして、萩生田大臣が意図的なのか、スルーしたのが「公平性」の問題だ。
これには、自身が教壇に立った高校がセンター試験の会場になったことがあるという田中氏も次のようにコメントした。
「公立高校が大学の試験会場になる場合、前日は午前中で生徒が全部教室を掃除し、机もきれいにして、掲示物は全部剥がし、私物も全部持ち帰って空にするんです。通常の都立高校入試の場合は、教員が会場設営をしますけど、センター試験の場合はそこからは『大学』と腕章をした方々に建物全体を明け渡すんです。高校の教員は一切そこから、仕事があろうがなかろうが、退出させられます。試験前日の午後から、2日間のセンター試験が終わるまでは一切立ち入れません。もちろん生徒もです。外部の人間だとか、受験生じゃない生徒がチョロチョロするというだけでも公正性が保たれないという基準で行われているんです。共通テストなんだからそうしてやるのが普通でしょう。高校の先生を使ってやる場合、もし仮に自分の教え子の試験を担当することになったら、公正にやっても公正にやったのかなと見られてしまいます」
◆民間英語検定試験をめぐる5つの問題
さらに、国会PVの動画では、城井議員が挙げた、民間英語検定試験をめぐる5つの問題を紹介した。その5つの問題とは以下の通りである。
1:制度設計の欠陥
・異なる試験を無理やり比較している
・合否判定に使わなくても受けなきゃいけない
2:試験の内容と運営の欠陥
・不公正の可能性
・採点の質の担保も不十分
・学習指導要領ともかけ離れている
3:受験生の負担
・費用負担が増加
・試験日程の配慮なし
・受験会場の格差
4:マイナスの効果
・リーディングなど、他の部分の成績が落ちる可能性
5:制度導入のプロセスで利害関係者が制度設計に関与
5番目の点については、驚くべきことに制度導入で利害関係者が制度設計に関与していることは指摘されているにも関わらず議事録が非公開だという。
これらの問題点が指摘されているにも関わらず、11月1日の記者会見で萩生田大臣は自身の責任を問われて驚くべきことにこう言い放ったのである。
「過去を振り返って、どの時点でどの判断に誤りがあったか、間違いがあったかをここで私が申し上げることに何の生産性もない」
は? 答弁するのが仕事の大臣が何を言ってるのか? 耳を疑う発言である。
◆英語民間試験導入だけじゃない!国語・数学の記述式問題導入の問題点
ひとまず延期が決まった英語の民間試験導入だけが問題なのではない。
もう一つ、国語と数学の記述式問題導入も大きな問題を孕んでいる。この問題点は、現役高校生が大学入試改革の中止を求める文科省前行動で指摘し、メディアでも大きく取り上げられ話題になった。(参照:筑駒生、大学入学共通テスト中止を訴える 「ぼくたちに入試を受けさせてください」|AERA )
問題点は3つある。
(1)質の高い採点者の確保
(2)採点のブレ/自己採点の難しさ
(3)採点のブレを減らすための解答形式の縛り
→思考力・判断力は問えるのか?
である。
50万人が受けるテストで「記述式」を導入した場合、50万人分の答案を1万人程度の人員で二次試験までの2週間程度の間に果たして公正で質の良い評価ができるのか?
このようにどう考えても受験生に負担だけを強い、公正性を毀損し、利益相反が明らかだという多くの問題を孕む「共通テスト」。
今日、再び衆議院文部科学委員会で参考人質疑が行われる予定で、
・「GTEC(ジーテック)」を実施するベネッセコーポレーション
・延期を要望する全国高等学校長協会
・実施を要望する日本私立中学高等学校連合会の代表者
・反対してきた京都工芸繊維大の羽藤由美教授
が招致される。
「延期」で終わりではない。一部の大人たちの「甘い汁」のために、若い芽を摘んでしまうかのようなこの異常な大学入試改革。引き続き、国民は注視して行くべきなのは言うまでもない。
<文/HBO編集部>