山形女医殺害 鑑定留置9月まで延長 動機はいまだ不明のまま

山形県東根市で眼科医、矢口智恵美さん=当時(50)=が自宅マンションで殺害された事件から3カ月以上が経過した。殺人と住居侵入容疑で山形大学人文社会科学部4年、加藤紘貴(ひろき)容疑者(24)が逮捕されたが、責任能力の有無などを調べるための鑑定留置中。留置期間は当初予定より1カ月延長され、事件の真相はいまだ明らかになっていない。(柏崎幸三)
評判のいい医師
事件は5月19日夕、福島県内に住む矢口さんの弟が矢口さん方を訪ね、倒れている矢口さんを見つけ110番通報して発覚。部屋には大量の血痕が残っており、矢口さんの頭部は深く損傷していた。
矢口さん方からは血の付いたゴルフのパターが発見され、これが凶器とみられている。パターは矢口さんのものだった。
矢口さんは、山形県東根市の北村山公立病院に勤務後、平成19年8月に同県村山市に矢口眼科クリニックを開業(現在は閉院)。手術の腕がよく、丁寧な診療から患者からの信頼は厚かった。
矢口さんが遺体となって見つかった前日の18日にもクリニックに出勤。その日夜はスタッフの歓迎会に出席して帰宅した。同日午後10時45分には、クリニックのスタッフと電話で会話したことが分かっている。
防犯カメラで浮上
逮捕された加藤容疑者が捜査線上に浮かんだのは、周辺の複数の防犯カメラの映像。加藤容疑者とみられる不審者が18日夜から19日未明にかけて、現場から約500メートル離れた別のアパートのドアを開けようとする様子や、矢口さん方マンションの2階、3階の複数の部屋の前で立ち止まり、ドアを開けようとする様子が映っていた。
防犯カメラの映像などをもとに県警は山形市内の加藤容疑者の自宅などを捜索。自宅近くに捨てられた加藤容疑者の靴に付着していた血痕のDNA型が矢口さんのDNA型と合致したことなどから、6月12日に逮捕した。
東根市と山形市は約30キロも離れている。これまでの捜査で矢口さんと加藤容疑者の接点は浮かんでおらず、県警は加藤容疑者がドアを開けようと手当たり次第にドアノブを回すなか、無施錠だった矢口さん方に当たった可能性が高いとみている。捜査幹部は「侵入したのは偶然だったのかもしれない」と話す。
おとなしい顔も
加藤容疑者は新潟県出身で27年に山形大学に入学。大学から約150メートル離れた山形市内のマンションで1人暮らしをしていた。
周囲の人から聞こえてくるのは、凶悪事件を起こしそうにもない加藤容疑者の顔。大学で同じサークルだった男性会社員(26)は「周囲に溶け込んでいた」と話した。
だが30年10月、「一身上の都合」を理由に半年間休学。今年4月に復学し、矢口さん殺害事件翌日の5月20日も大学で講義を受けていた。大学でもトラブルを起こしたことはなく、指導教員のいるゼミの講義には、ほぼ毎回出席する“優等生”だったという。
延長された鑑定留置
山形地検は6月21日、加藤容疑者の刑事責任能力の有無を調べるため、山形簡裁に鑑定留置を請求し、2カ月の留置が認められた。さらに地検は8月20日、さらに1カ月延長を請求し、9月26日までとなった。
延長した理由について地検の水上嘉寛次席検事は8月26日、延期は医師の鑑定計画のためと説明した上で「容疑者に問題があるわけではない」と述べた。
加藤容疑者は鑑定留置前の調べで、「覚えていない」との供述を繰り返していたという。鑑定留置中は原則取り調べが行われないため、詳しい動機などは分からないままだ。
山形市から離れた東根市まで行き、手当たり次第に無施錠の家を探したのは単なる物盗りのためだったのか。偶然居合わせた矢口さんに顔を見られた驚きで、加藤容疑者が突発的に犯行に及んだのであれば、患者に慕われた医師、矢口さんの死はあまりにも悲しい結末だろう。