街は「生き物」である。時代が変われば、良くも悪くもなるし、高級住宅街も例外ではない。一方でこれまで馴染みのなかった街が人気になることもある。現地を見て回り、住民の声を拾った。
「いい住宅地」の条件とは何か。その一つのバロメーターとなるのが街としての活気だ。
「活気があるとは、すなわち住む人の出入りがあることを意味します。街の『新陳代謝』ができているかどうかが重要なポイントとなる。新しい住民が増えれば、不動産も動くし、消費も生まれます。それが街を活性化し、元気にするのです」
こう語るのは、不動産事業プロデューサーでオラガ総研の牧野知弘氏だ。
たとえば、大田区の田園調布3丁目や世田谷区の成城6丁目は、長らく庶民の憧れの高級住宅地だった。しかし、近年、これらの街に陰りが見えている。
「西部『山の手』と言われる世田谷や大田区の高級住宅街は、昔から地位の高い地域ですが、最近は住民の高齢化が著しく、街自体の魅力が薄れています。何億という相続税に頭を抱える世帯も少なくありません。そもそも若い人は、そこに住むことにステータスを感じなくなっている。
一方で、豊洲や勝どきなど湾岸部はタワーマンションが次々とできて、子育て世代が移り住んでいますが、それだけではいい住宅地とは呼べません。もともとの住民と新たに入ってくる人とのバランスが重要なんです」(牧野氏)
では、いま東京23区で住みやすくて、人気がある住宅地はどこなのか。
そこで、今回本誌は国土交通省が毎年発表している「公示価格」に従い、ここ10年間で地価の上昇率が高かった住宅地(商業用地は除く)を町丁目ごとにリストアップ(詳細は最終ページの表を参照)。なぜ、そこが新しい「いい住宅地」として注目されているか、実際に歩いてみた。
JR山手線の鶯谷、東京メトロ日比谷線の入谷・三ノ輪と、3駅が最寄りとなる台東区根岸。入谷駅を出て、左右にビルが並ぶ昭和通り沿いを北へと2~3分歩くと、根岸柳通りに差しかかる。路地を一本入ると、民家や昔ながらの商店が軒を連ねる。そのまま柳通りを進み、金杉通りとぶつかる交差点を越えた右手一帯が、根岸4丁目となる。
このあたりは、かつて料亭、待合茶屋、芸者置屋があったいわゆる「三業地」で、花街として栄えていた。近くには朝顔市で名高い入谷鬼子母神(真源寺)など寺も多く、典型的な下町の風情だ。
飲食店も豊富で近所には大正14年創業の洋食屋「香味屋」や、知る人ぞ知る焼き肉の名店「鶯谷園」などがある。
約肉の老舗「鶯谷園」(写真/ google ストリートビュー)
地元の子供たちが通う区立根岸小学校は明治7年に開校し、145年の歴史を持つ伝統校である。最近では珍しくなった学帽、制服の着用が義務付けられていて、作家の池波正太郎や有吉佐和子ら文化人も多く学んだ。
「昭和の爆笑王」と呼ばれ親しまれた落語家の初代・林家三平も同校の卒業生。鶯谷駅近くの根岸2丁目にあった林家三平邸は現在、博物館として開放されている。「子供の頃、三平師匠の噺をタダで聞いて笑っていた」と近所の住民は語る。
そんな下町がなぜ、いま注目を集めているのか。
この地で50年以上飲食店を営んできた舛田昭二さん(74歳)に話を聞いた。’17年におでん屋を改装し、現在は実娘の綾子さんとともに古民家カフェを経営している。
「この界隈は東京大空襲の際、爆弾の直撃を免れ、比較的被害の少なかった場所なんです。焼け残った土台に家を建て直してきたので、高い建物が少ない。だから見上げれば、どこからでも空が見えるんです。風通しもいいし、ギラギラしたネオンとは無縁で夜は静か。こういった環境を求めて、最近は若い人だけでなく、海外の人まで集まるようになってきました」
戦火を逃れたであろう木造建築が残る住宅街には、比較的新しい一戸建ても散見される。根岸4丁目近辺の坪単価は180万円と、この10年間で約12%上昇しているが、まだまだ都心に比べれば割安で、移り住んで来る若いファミリーも多いという。
娘の綾子さんが語る。
「日暮里や上野、浅草、蔵前など、子供とお出かけするのも、買い物もすべて自転車で15分圏内。そんな『小回りが利く』のも根岸のいいところですね」
実は都心へのアクセスもかなりいい。入谷から日比谷線に乗れば1本で銀座まで18分、鶯谷から有楽町は山手線で12分。こういった「地の利」の良さも人気の一つだ。
さらに根岸では古い建物を現代風に改装して、再利用する動きが広がっている。その象徴が昭和3年築の銭湯「快哉湯」だ(住所は下谷2丁目)。’16年に惜しまれつつ廃業したが、外観は残しつつ改装し、シェアオフィスとして生まれ変わった。
前出の昭二さんが語る。
「この辺は道路も狭いままで確かに不便なところもあるけれど、古い建物をうまく利用して、何かやってやろうという若者が増えてきた。そんな彼ら彼女らを応援したいと思っています。
下町といえば職人気質の人が多く、よそから来た人はとっつきにくいイメージがあるかもしれないけど、時代とともにだんだんと住民の気質も変わってきた。今のご時世、新しく入ってきた人と協力してやってかないと街が発展しないでしょう」
ノスタルジックな雰囲気を残しつつ、時代のニーズとともに臨機応変に対応していく。そんな懐の深さも根岸の魅力なのだろう。
池袋からおよそ5分の距離にあり、東京メトロ有楽町線、副都心線、西武有楽町線の3路線が通る小竹向原駅。その西側に広がる一帯が、小竹町2丁目だ。一部の人には、あまり馴染みのない街かもしれないが、この10年で地価は29・1%も伸びている(現在の坪単価は180万円)いったいどんな魅力があるのだろうか。
「理由として考えられるのは、やはりここ数年で抜群にアクセスがよくなったことでしょう。’08年に副都心線が開通したことで新宿、渋谷まで行きやすくなったことが大きいと思います」(不動産会社ランドアーク江古田支店の大澤健太氏)
副都心線を使えば乗り換えなしで、新宿三丁目まで11分、渋谷には18分で出ることができる。
加えて’13年には東急東横線の乗り入れが始まったことにより、横浜の中華街まで一本で行けるようになった。
武蔵野音楽大学の校舎(写真/google ストリートビュー)
実際に街を歩いてみる。駅を降りて、環状七号線方面(西側)へとつながる階段を上ると、両サイドに緑が植えられた遊歩道がある。そこから右手に曲がるとすぐに住宅街へとつながる。池袋からすぐとは思えないほど静かで、落ち着いた雰囲気のある街だ。
住宅街を進むと、手入れの行き届いた庭付きの一戸建てや、住み心地がよさそうな低層のマンションが散見される。近くにはソーラーパネルや地熱を利用し自ら発電する家「エコだハウス」として一時期話題になった小池百合子都知事の自宅もある。
住宅街をそのまま西へ進むと武蔵野音楽大学、南下すると日本大学芸術学部、武蔵大学のキャンパスがある。
「小竹町は完全な住宅地で、小竹向原駅周辺にも飲食店がほとんどない。ただ江古田まで徒歩10分ほどで行けるので、外食に困ることはありません。特に江古田は学生が多いので、安くておいしい店がたくさんあります。芸術系の大学が多いこともあってか、チェーン店ではなく昭和レトロな雰囲気の個人経営店も多く残っています」(大澤氏)
小竹町はパチンコ店などの遊戯施設もなく、駅のすぐそばにゴルフの打ちっぱなし練習場があるくらい。とはいえ、スーパーなどはちゃんとあるので生活には困らない。
「小竹向原駅前にはイオン系のアコレ、地元密着型のいさみ屋、環七沿いには安くて有名なオーケーストアがありますから日常の買い物には特に不自由しません。どうしても必要なものがあれば、池袋まで行けばいいだけですしね」(地元に住む50代の女性)
小竹町2丁目の特徴として、住民の多くが声をそろえるのは何より「治安の良さ」である。練馬区は23区中2番目に犯罪率が低く、特にこの辺は幼稚園や小学校が多いこともあり防犯面はかなりしっかりしている。地域ぐるみで子供を見守る習慣が残っているので、子を持つ親としても安心だ。
小竹向原の駅をはさんで北側には小茂根図書館、南側には小竹図書館がある。板橋方向に20分ほど歩けば、親子で楽しめる都立城北中央公園がある。園内にはテニスコートやドッグランもあり、休日には多くの地元の人たちが集まる。
さらに小さな子供をもつ母親たちの注目を集めているのが、’11年に開園した「まちの保育園」という認可保育園だ。ここは、大人が子供たちを管理するのではなく、子供たちの自主性を重んじる珍しい運営体制を取っている。
朝、保育園に行くと子供たちが集まって、今日一日、先生と一緒に何をしたいかを話し合う。あえて予定を立てず、子供たちで決めさせることで自主性を養うのが狙いだ。
さらに、保育園には地元で有名なカフェ「まちのパーラー」が併設されている。パン好きに人気がある江古田駅近くの「パーラー江古田」の姉妹店で、名物は自家製のくるみパンとローストポークサンド。グルメドラマ『孤独のグルメ』でも取り上げられた名店だ。夜は生ハムやワインも提供している。
小竹町を歩いてみると、都会の喧騒とはまったく違う、のどかな空気を感じることができた。アクセスの良さはもちろんだが、こういった雰囲気を求めて人はやってくるのだろう。
大田区の高級住宅街といえば田園調布が有名だが、ここ数年は、東急目黒線と東急大井町線が乗り入れる大岡山エリアのほうが勢いがある。
北千束2丁目の坪単価は190万円で、10年前と比べて12・5%上昇。最寄り駅は、東急大井町線の北千束駅だが、急行が止まる大岡山を利用する人も多い。
駅の前には東京工業大学のキャンパスがあり、若者の行き来が絶えない。一方、すぐわきにある東急ストアには高齢者や子供を連れた若い母親も目立つ。あらゆる世代がバランスよく暮らしているのがわかる。
自由が丘(目黒区)まで歩いて20分で行けることもあってか、街全体が落ち着いていて、小洒落たワインバーやパン屋には事欠かない。
毎日行列ができる人気パン屋「ベッカライ・ヒンメル」の向かいで、不動産業を営むマイマイハウスの今井善之氏に、周辺の住宅事情を尋ねた。
「最近、北千束はファミリー層からの人気が高まっています。新築の戸建ては12~15坪に3階建てで5000万~6000万円と安くないですが、それでもすぐ売れますね。その理由の一つに、北千束1丁目にある清水窪小学校の人気があります。
もともとは小規模な公立学校で、一時は生徒不足により廃校になりかけていたのですが、’11年に近所の東工大と連携し『おおたサイエンススクール』という取り組みを開始したんです。それが非常に評判がよくて、一躍人気校となった。
学区内の子供しか入学できない上に定員が65人と決まっているので、審査を通過することすら難しいのですが、それでも我が子を入学させるために、遠くから北千束に引っ越してくる人が後を絶ちません」(今井氏)
写真左手にあるビルは大岡山駅の「駅上」にある東急病院(写真/google ストリートビュー)
駅前から少し離れた住宅地は、大岡山と言うだけあって坂が多い。高台に位置する閑静な住宅街を抜け、坂道を南下していくと、緑に囲まれた洗足池公園が見えてくる。ここは江戸城無血開城の際に、勝海舟が休息した場所でもあり、池のほとりには勝夫妻の墓がある。
犬の散歩に来たというご夫婦に話を聞いた。
「夫が転勤族でいろんな場所に住みましたが、ここは緑もあって住みやすい。近くの洗足(目黒区)には皇后雅子さまの実家(小和田邸)がありますが、この辺の人はどこか品のある方が多いですね。近くに女優の高橋ひとみさんが住んでいて、一度会ったことがあるんですけど気さくな方でしたよ。岩下志摩さんのご自宅も確かこの辺ですよ」
地域医療も充実している。大岡山駅は、日本の私鉄で唯一、病院と直結している駅でもある。もともと近くにあった東急病院が12年前、駅の真上にリニューアルされ、さらに通院しやすくなった。内科や外科などすべての科が揃った総合病院で、入院や救急患者の受け入れも行っている。
教育、環境、医療。この3つが街の住みやすさをさらに高めているのだ。
約57万人(23区中6位)が暮らす杉並区。だが京王井の頭線沿線とJR中央線沿線では、まったく街の雰囲気が異なる。
井の頭線沿線は自然環境が良く、永福3丁目や善福寺3丁目、浜田山1~4丁目には100坪を超えるお屋敷が立ち並ぶ。いわゆる高級住宅街だ。対して中央線は、高円寺、阿佐ケ谷、荻窪など駅前の商店街を中心に賑やかな雰囲気。映画やロック好きが多い、カルチャーの街でもある。飲み屋の数も多い。
「きれいに区画整理された善福寺や浜田山も悪くはありませんが、私は、やっぱり高円寺のような雑多な感じが好きですね」(40代の地元女性)
どちらのエリアも地価は上昇しているが、街の勢いや活気でいえば、やはり中央線に軍配が上がる。中でも今回本誌が注目したのは高円寺南3丁目。場所は中央線の高円寺駅から南にある丸ノ内線の新高円寺駅へとつながる一帯だ。坪180万円、10年間の上昇率は杉並区トップの12・3%。
人気の理由を地元の不動産会社(有)ウエブンの加藤和弘氏に聞いた。
「高円寺南は中央線と丸ノ内線の2路線を使えることが大きいですね。朝の通勤時間帯に中央線が止まっても、新高円寺から丸ノ内線に乗ることができる。だから南は便利なんです」
高円寺の人気を語る上で外せないのが駅前の商店街だ。北口は純情商店街、南口にはパル商店街を筆頭に大小合わせて10以上もの商店街がある。
高円寺北口の「純情商店街」入口(写真/google ストリートビュー)
いつも行列ができる天ぷら屋の「天すけ」、店頭焼き鳥を販売する精肉店の「豊島屋」などとにかく飲食店が豊富にある。
「何年か前からシャッター商店街が問題となっていますが、高円寺には、そんな言葉はまったく当てはまりません。どんどんお客さんが増えている。これは商店街の方々の努力によるものです。8月末に行われる高円寺阿波おどりは有名ですが、それ以外にも大道芸や音楽フェスなど様々なイベントを催している。皆さん『商店街が元気じゃないと、高円寺に人は呼べない』を合い言葉に頑張っているんです。だから若い人も住みたくなる。そういういい循環があります」(加藤氏)
買い物をしていた70代の地元女性に話を聞いた。
「やっぱり商店街って、売っている人の顔が見えるのがいいですよね。馴染みの店で世間話していたら、おまけでサービスしてくれることも。人の温もりを感じられる街です」
若い人もお年寄りも笑顔にしてしまう。不思議な魅力が高円寺には詰まっている。
「足立区といえば治安が悪い、学力が低いなど何かとマイナスイメージが強かったですが、近年は物価の安さや都心へのアクセスの良さにより、若い世代からも注目されています。特に北千住周辺はもはや『穴場』ではなく『本命』になりつつあります」(東京23区研究所所長の池田利道氏)
足立区の南に位置する北千住駅は、JR常磐線、東武伊勢崎線、日比谷線、千代田線、つくばエクスプレスの5路線が乗り入れる巨大ターミナル駅だ。乗降客数は1日あたり約150万人。これはなんと新宿、渋谷などにつぐ「世界6位」で、東京駅(8位)よりも多い。
駅ビルには、大型ショッピングモールの「ルミネ」が隣接し、西口にはマルイがある。店内はお年寄りから若者まで、多くの買い物客でにぎわっていた。2000年以降、駅周辺の再開発が進み、ビルや高層マンションも増えてきた。来年には高さ110m、30階建てのマンション「千住ザ・タワー」が完成する予定だ(価格は3LDKで7000万~8000万円)。
千住旭町がある東口に出てみると、目の前には「学園通り」と呼ばれる道がまっすぐに伸びている。右手には、’12年に神田から千住に移転してきた「東京電機大学」の真新しい校舎が燦然と輝いている。
学園通りを1分も歩けば「千住旭町商店街」に差し掛かる。道沿いには、昔ながらの居酒屋やラーメン屋、日用雑貨店などが立ち並ぶ。商店街を抜けた細い道には一軒家が立ち並んでいる。
千住旭町に30年以上住んでいる男性が語る。
「ここの魅力的なところは、やっぱり交通の便でしょう。北千住駅に近く、電車にさえ乗ればどこに出るのも楽。東京や大手町まで15分とかからない」
近くには北千住に4店舗を構え、60年以上地元民から親しまれる「スーパーTANAKA」がある。どの食材も安いのはもちろん、約30種類の出来たてのおかずから3品を選び、その場でご飯を盛ってくれるお弁当が特に人気だという。値段はみそ汁付きで500円。
昔ながらの銭湯文化も残っている。
「北千住といえば、寿町の『大黒湯』が有名だけど、旭町にも『梅の湯』や『美登里湯』などがある。夕方になれば、みんなが集まる憩いの場だよ」(地元に住む60代男性)
旭町の銭湯「梅の湯」(写真/google ストリートビュー)
さらに千住旭町を南に進む。夏の日差しの中、汗だくになって歩いていると昭和にタイムスリップしたような八百屋を発見した。一軒家の間口を広々と使った売り場に、スイカや野菜が並べられている。店主(70歳)に声をかけると笑顔で迎えてくれた。自身は3代目で、店は今年で100年になるという。
話している最中、子供連れの若い奥さんが通ると「お帰り。今日も暑いねえ」と店主が声をかける。
「ここは川と踏切に囲まれた街だから、住んでいる人はみんな家族みたいなものなんだよ」
そう言いながら、奥から取り出してくれたのは、お手製の梅漬けゼリー。「暑いから食べていきな」と記者に差し出してくれた。巨大なターミナルでありながら住民同士のつながりが残っている点こそ、千住旭町の人気上昇の理由であると感じた。
新宿区の西落合3丁目は、かつて「陸の孤島」「新宿のお荷物」とまで呼ばれた住宅地だった。
「最寄り駅の西武池袋線の東長崎まで1km以上も歩かないといけなくて、都心に出るのも一苦労でした。それが約20年前に都営大江戸線の落合南長崎駅ができて以来、一気に人気が上がったんです」(地元の不動産会社)
歩いてみると、低層マンションや瀟洒な造りの一軒家が散見される。’12年には駅近くにスーパーのライフなどが入った商業施設「アイテラス落合南長崎」ができたことでますます便利になった。
世田谷区で上昇率が高かったのが玉川4丁目だ。渋谷から東急田園都市線で15分。’11年に二子玉川駅に大型ショッピングモールの『二子玉川ライズ』ができて以来、若いファミリー層が増え、雰囲気もだいぶ変わった。しかし、この地域に昔からある「二子玉川商店街」は、再開発の波にも負けず生き残っている。昭和42年創業の西河製菓店の豆大福は、いまも地元民から愛されている。
江戸川区の中葛西8丁目、5丁目も、子育て世代が増えている。
「東京メトロ東西線葛西駅の南側にある『新左近川親水公園』では、親子でカヌー体験ができると人気です」(地元の不動産会社)
葛西近辺を歩いていると、インド料理店の多さに気付く。「リトル・インディア」と呼ばれるほど、葛西には多数のインド人が暮らしている。
「彼らはいわゆる不良外国人とは違います。富裕層のエリートで、金融関係の仕事についている人が多く、非常に真面目でマナーもいい。葛西を好むのも、大手町や日本橋へのアクセスがいいからです」(不動産会社)
新しい人が入ってくれば街は活性化する。それは外国人も同様だ。
過去10年の地価上昇率の上位を見てみよう。上位は勝どき3丁目、月島3丁目、明石町5丁目と中央区の湾岸部に集中。やはり再開発の影響が大きいようだ。千代田、港など投資マネーの影響を受けやすい都心部の上昇も目立った。
他では西品川1丁目、大崎4丁目など、品川区大崎駅周辺も人気が上がっている。品川駅へのアクセスがいいのにもかかわらず、比較的地価が安かったことが理由だろう。
地価が上がっている町のうち、金持ちが好むエリアはどこか。都心3区を除けば、文京区小日向2丁目、同本駒込5丁目、目黒区中目黒3丁目、駒場4丁目、渋谷区南平台町など、文京、目黒、渋谷の準都心部が人気だ。
一方で、練馬区、荒川区、江戸川区、板橋区など、必ずしも世帯年収は高くないが、地価上昇率が目立つ区も多かった。
いい住宅地とは自然にできあがるものではなく、そこに住む人が作り上げるもの。2020年以降、次に人気が出そうな街はどこだろうか。自分の足で探してみるのも面白いかもしれない。
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(表・図/週刊現代編集部)
『週刊現代』2019年8月24・31日号より