「あと何年我慢すればいいのか」――。夫婦同姓を定めた民法の規定を「合憲」と判断し、原告の損害賠償請求を退けた14日の東京地裁立川支部判決。別姓を選ぶことで受ける社会的差別の解消を訴えた当事者や支援者は、またも司法の壁に阻まれ、失望を隠さなかった。原告側は控訴する意向だ。【安達恒太郞】
判決後、立川市で記者会見した原告代理人の榊原富士子弁護士は「大変がっかりした」と肩を落とした。同じ争点だった10月の東京地裁も合憲の判決だったが、結婚後も仕事を続ける女性が増えた社会情勢の変化に言及し「国会の立法政策として考慮されるべきだ」とした。
一方、立川支部判決は結婚した女性による旧姓の通称使用の拡大で「不利益の緩和が進んだと評価することも可能」とした。野口敏彦弁護士は「東京地裁判決よりも後退している印象だ」と批判した。
「これから結婚する全ての人に関わる問題だ」
原告の一人で調布市に住む山崎精一さん(70)は「これから結婚する全ての人に関わる問題だ」と判決を待ち望んでいた。
山崎さんは約35年前、同じく原告に加わっている「妻」(60代)と同居を始めた。「お互いの名前を大切にしよう」と婚姻届を提出しない事実婚を選んだ。「自然な形」だったが、妻の父に「みっともないことするな」と反対され、結婚式に出てもらえなかった。
長男が生まれ、区役所に出生届を出しに行った時のこと。父親の欄に記載した山崎さんの氏名に職員がバツ印を書いた。父親と母親の姓が異なると不受理となるためで、2人は「これが現実なのか」と思い知ったという。別の原告の女性(40代)=国分寺市=も「法的な夫婦として認められないのは悲しい」と語る。
原告らは経験した「不利益」を法廷で陳述した。判決後「実際の不平等に目を向けていない」「法廷で私たちが訴えたことは何だったのか。むなしさが残る」と語った。
山崎さんは「2人のどちらかが入院・手術が必要な場合や相続の問題など、心配なことが多い」と不安を感じている。今年7月に別姓を選択した友人が亡くなった。「自分が生きているうちに(選択的夫婦別姓を)勝ち取るために頑張らないと」と力を込めた。