民生委員活動費を全額天引き、「視察2時間」の研修旅行費・「強制参加」の懇親会費に

大阪府泉佐野市の民生委員が所属する市民生委員児童委員協議会(民児協)が、公金から委員に支給される活動費を全額天引きし、研修名目の旅行費用や懇親会費などに充てていたことがわかった。
天引きは10年以上前から行われ、年約900万円に上る。同市の民生委員には活動費が1円も支払われておらず、大阪府は「活動費は民生委員の活動に使われるべきだ」と問題視し、近く調査する。
民生委員は、無報酬のボランティアだが、交通費や電話代など活動に必要な実費弁償として、国が1人あたり年5万9000円を都道府県などに交付税として配り、都道府県などから委員に支給される。支給方法は都道府県によって異なり、大阪府では、府が各市町村の民児協に支給し、民児協が委員に支払うことになっている。
読売新聞が入手した泉佐野市民児協の昨年度の決算書によると、活動費はいったん委員約150人に支給した後、全額を「会費」として集めたように会計処理していたが、実際は1円も支払われず、全額が天引きされていた。
民児協には府から年約900万円が振り込まれ、地区ごとに三つある「地区民児会」に計約330万円、六つの「専門部会」に計約250万円分配され、それぞれが金をプールし、3年に1回研修旅行をしていた。
昨年は三つの地区民児会ごとに岐阜、兵庫、岡山各県に研修旅行を実施。今年は六つの専門部会がそれぞれ行った。
ある部会は6月、愛知、静岡両県に1泊2日で旅行し、約20人が参加した。障害者支援施設の視察が目的だったが、ビール工場や美術館の見学も日程に組み込まれ、宿泊先は温泉旅館。視察時間は2時間にも満たなかったという。
関係者によると、研修旅行は1泊2日で、旅費は1人あたり3万~3万5000円。その都度参加者から1万円ずつ費用を集めているが、残りはプール金から支出されている。参加しない民生委員もいるが、プール金から返金は行われないという。
プール金はこのほか、民生委員の啓発活動の費用や飲酒を伴う懇親会費などにも使われていた。昨年5月に開かれた懇親会では、参加者から1000円ずつ集め、1人あたり4000円をプール金から出していた。
同市の民生委員は、活動費が支給されないため、活動でかかる交通費や電話代を自費でまかなっている。民児協は「全員の了承を得て、徴収している」としているが、民生委員の一人は「よくわかっていない人もいる」と話した。
民児協の明松(かがり)俊昭会長は、読売新聞の取材に、天引きを認めた上で「委員から異論が出たことはない」とし、旅行についても「一生懸命活動している委員と心を開いて交流することは必要だ。会議だけでは難しい」と話した。
活動費の支給元の大阪府地域福祉課は「誤解を招きかねない行為」と問題視。民生委員法を所管する厚生労働省も「旅行や懇親会は趣旨と異なる可能性がある」としている。

「天引きが当たり前で、疑問に思ったこともなかった」。泉佐野市で4年前から民生委員を務める70歳代の女性はそう話す。
民生委員の活動費を巡っては、2008年、兵庫県伊丹市の民児協が一部を天引きし、旅行費用に充てていたことが発覚。これを受け、「全国民生委員児童委員連合会」(全民児連、東京)は、活動費は実費弁償費で本人支給が原則とし、視察研修についても、「誤解が生じることがないように」と申し合わせていた。
しかし、その後も各地で天引きや徴収が行われているとみられ、大阪府内の別の市でも活動費の一部が徴収され、懇親会費などに充てられているという。
この市で民生委員を務める男性は、「ほぼ強制的に飲み会に参加するように言われ、反対する雰囲気ではない。こんなことでは続けられない」と憤る。
民生委員は、負担の重さからなり手不足が深刻で、全民児連によると、平均年齢は1992年度の60・6歳から2016年度は66・1歳と高齢化が進んでいる。
◆民生委員=民生委員法に基づき、厚生労働相の委嘱を受けた特別職の地方公務員。児童福祉法が定める児童委員も兼ねる。生活保護世帯や高齢者世帯、母子家庭などを支援する。任期は3年。2017年3月末時点で全国に約23万人いる。