トヨタやソニーも過去に失敗 異業種の証券会社設立、成功のカギとは?

昨今、異業種からの証券事業参入が相次いでいる。丸井グループが2018年に開始した「tsumiki証券」を皮切りに、今年はYahoo!ジャパンとの経営統合を発表したLINEの「LINE証券」や、クレディセゾンのように、さまざまな業種からの証券事業参入が盛んだ。

新規の証券事業に希望を見出す事業者が多い反面、既存プレーヤーであるSBIホールディングス(SBIHD)は、証券会社という自社のイメージを払拭しようとしている。その様子は先月末に行われた20年3月期第2四半期決算説明資料からも読み取れる。同社は「SBIホールディングスはもはや証券会社の範疇(はんちゅう)で捉えられるべきではない」と説明する。

手数料無料化の流れの中、証券業界の決算は厳しい
そもそもSBIHDのような会社が、「もはや証券会社ではない」という趣旨の主張をする背景には、やはり証券業界の厳しい市場環境があるだろう。

今期の証券各社の決算をみても、大手ネット証券各社は軒並み減益となった。SBI証券の純利益は前年比17%減の278億円で、楽天証券は56%減の30億円。対面系大手証券についても、大和証券が8%減の333億円、SMBC日興証券も41%減の164億円となった。対面大手証券3社で唯一増益となった野村證券も、19年3月期に1004億円もの赤字を出したばかりだ。

海外における株式の取引委託手数料無料化の動きが、国内にも広がりつつあることもネガティブ要因だ。米証券のチャールズ・シュワブは10月1日、株取引にかかる取引委託手数料の撤廃を発表し、市場関係者に激震が走った。手数料無料化による収益の悪化を嫌気して同社の株価は約13%下落したほか、米国におけるネット証券業にも売りが飛び火した。SBI証券はその流れに呼応するかのごとく、10月30日に「3年以内の国内現物・信用手数料無料化」を発表した。

仮にオンライン証券トップのSBI証券が取引手数料を無料化すれば、国内証券各社も、これまでのように委託手数料で稼ぐビジネスモデルからの転換を余儀なくされるだろう。実際にSBIHDは他事業の展開にも積極的で、利益の中でSBI証券が占める割合は29.6%まで低下しており、19年も最低比率を更新する見込みだ。

証券事業への異業種参入、実は失敗例も多い
実は、異業種の証券事業参入は1990年代末から00年代半ばにかけて度々みられた現象で、当時の大半の新規事業者は撤退を余儀なくされた。

旧証券取引法(現、金融商品取引法)の98年改正で、証券会社が免許制から登録制で設立できるという規制緩和が実施された。これに伴い、それまで対面営業がメインであった証券業界にITなどを強みとする異業種からの参入が相次いだ。

例えば、「SBI証券」は元々ソフトバンク資本であるし、「楽天証券」もその名の通り楽天による買収によって今の形となった。このような、いわゆるネット証券は、対面営業を省いた固定費の削減と安価な手数料、当時は目新しかったオンライン取引を競争力として参入し、既存事業者との差別化を図った。その結果、証券業界には「対面証券」と「ネット証券」という2つのカテゴリが生まれることなった。

その陰で、証券業界の特殊性によって異業種の強みを発揮できず、失敗したネット証券が多かったこともまた事実だ。

例えばソニーもその1つだ。ソニーといえばエレクトロニクスのみならず、金融分野でも非常に高い業績を上げている企業として有名だ。しかし、そんなソニーであっても、証券ビジネスを軌道に乗せることは難しかったようだ。ソニーバンク証券は07年に営業を開始したものの、世界金融危機やその後の薄商い相場によって営業赤字を出し、わずか5年でマネックスグループに買収された。

そのほかにも、00年に営業を開始したトヨタファイナンシャルサービス証券株式会社も失敗している。同社もソニーバンク証券と同様に、世界金融危機のあおりを受けて営業開始から10年であえなく撤退し、東海東京ファイナンシャルグループに吸収合併されることとなった。伊藤忠の伊藤忠キャピタル証券も、12年に日本証券業協会から脱退するなど、例を挙げればきりがない状態だ。

このように、金融ビジネスの中でも特に証券会社については、市場環境による不確実性の高さや、業界の特殊なシステムおよび規制がネックとなって失敗する可能性が高い。SBI証券や楽天証券といった成功例の背後には、数多くの大企業が撤退したという事実がある。生存者バイアスにとらわれて安易に参入すると、痛い目を見る可能性が高い業界なのだ。

証券会社を作らずに証券サービスを提供する例も
では、tsumiki証券やLINE証券の勝算はどこにあるのだろうか。この論点になると、どうしてもクレジットカードで投資信託の積立投資ができることや、数百円から始められるといった機能・サービス面に目が行きがちである。

しかし、機能やサービスの枠組みは、それ自体によほど特殊性がない限り、模倣や追従が容易である。そのため、純粋なビジネス要件だけでは、既存の証券会社や将来参入し得る企業に対して優位性を確保するには不十分だ。これではオンライン取引に勝機を見出した異業種企業が、証券業へ相次いで参入した00年代と同じ様相となりかねない。

異業種からの証券サービス参入にあたっては、むしろ本業を十分に理解する必要がある。つまり、証券会社さえ作れば成功するという想定では足りず、証券事業を通じて本業の付加価値増加を伴うサービスであることまで求められるだろう。これは、SBIHDが証券事業一本から、他事業へ収益の柱を模索している流れと逆であると考えれば腑(ふ)に落ちるかもしれない。

tsumiki証券が、利用可能クレジットカードを丸井グループのEPOSカードに限っているのも、証券サービスの登録と合わせてクレジット発行枚数を増加させ、日常使いやローンビジネスの足がかりとする狙いがあるとみられる。LINE証券は、LINEが推進する決済や保険といった、金融関連サービスをワンストップでユーザーに使ってもらうことで、全体として利益を上げるという戦略に勝機を見出している。

また、新たな試みとしては、クレディセゾンのように、証券会社を設立せずに証券事業に参入するパターンもある。それが、クレディセゾンが11月12日にサービスを開始した「セゾンポケット」の例だ。この仕組みを用いると、クレディセゾンは証券会社ではなく、金融仲介事業者となる。実際に証券会社としてサービスを運営するのは、スマートプラスという証券会社だ。

同社の説明によれば、金融仲介事業者のスキームを用いることで、証券会社を設立する場合と比較して8~9割の費用削減が期待できるようだ。初期の開発費を抑えれば、比較的気軽に証券サービスを立ち上げ、撤退することが可能となり、巨額の資本を投じる前にリアルオプション的事業参入の検討が容易となるだろう。

※情報開示:株式会社スマートプラスは、筆者がディレクターとして参画しているFinatextのグループ会社です。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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