どこかセコいよJR新幹線…「特大荷物」持ち込み対策への違和感 座席の現状維持に固執しすぎでは?

8月29日、JR3社(東海、西日本、九州)は共同で「東海道・山陽・九州新幹線 特大荷物置場の設置と事前予約制の導入について」というリリースを発表。さっそく新聞、テレビなどで大々的に報道された。

それによると、近年の海外からの旅行者の増大により、大きな荷物をもって新幹線を利用する乗客が急増し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックではさらに増える見込みであるため、それへの対応策だという。
元来、日本の列車は巨大なスーツケースなどを持ちこむことを想定していなかった。例外的に「成田エクスプレス」、京成「スカイライナー」や「はるか」といった空港アクセス列車のみが車内に荷物置き場を設置して対応してきたに過ぎない。
「成田エクスプレス」の荷物置き場/筆者撮影
近年のインバウンド旅行者急増への対応としては、JR東日本が東北新幹線で「はやぶさ」などに使用しているE5系や「こまち」用E6系、JR西日本とともに北陸新幹線で使用しているE7系、W7系の偶数号車(「こまち」は奇数号車)の車端部2座席分を改造して荷物置き場としたのが注目を集めている。これは、なかなか好評のようで、常時複数のスーツケースが置かれているのが目に留まる。
一方で、一番訪日観光客の利用が多いと思われる東海道・山陽新幹線系統では、これまで何の対策も取られてこなかった。一部では苦情もあり、対応をどうするかが以前から気になっていた。このたび、やっとのことでその対応策が発表されたのである。
ところが筆者は、このJR東海らの対応策から、「何としても現行の定員を死守したい」という、ある種の「セコさ」を感じざるを得なかった。
あらためて今回の“新ルール”について、詳しく見よう。
リリースによると、縦横高さの3辺の合計が160cm以上の特大荷物を車内へ持ち込む場合には、事前に荷物置き場とセットになった座席を予約する「事前予約制」が導入される。この場合の座席は車両の最後部に当たる席で、その背後にはスペースがある。それを荷物置き場として利用しようというのだ。
「東海道・山陽・九州新幹線 特大荷物置場の設置と事前予約制の導入について」ニュースリリースより拡大画像表示
もっとも、従来からこのスペースに気づいている乗客はいて、そこに荷物をちゃっかり置いていたのだが、この制度導入後は、予約のない人はここには自分の荷物を置けなくなる。
確かに、離れた席の乗客がこのスペースに荷物を置くと、誰の荷物かが即座に分からない場合があり、状況によっては不審な荷物と思われ、テロ対策上も不安になることもあろう。また、席をリクライニングさせようと思ったら、他人の荷物が邪魔になって不快な気分になるし、窓側の座席以外では唯一のコンセント利用可能な席であるにもかかわらず、荷物が邪魔してコードをコンセントに差し込めない不満も出てくる。ゆえに、最後尾の座席と背後のスペースをセットにして予約販売することは、それなりの理があるだろう。
ただし、すべての最後尾席をセット販売するのではないようで、「のぞみ」42席、「ひかり」32席、「こだま」17席に限定される。この違いは、指定席車両の数が異なるためで、自由席車両の多い「こだま」は必然的に少なくなる。

「のぞみ」に関しては、これくらいの数の席があれば充分であろうとの見解は、おおむね賛同できる。というのは、海外からの旅行客が愛用しているジャパンレールパスでは「のぞみ」乗車が不可なので、車内で外国人を見かけることは、それほど多くないからである。
それに反して、「のぞみ」から締め出された外国人は「ひかり」に殺到する。「ひかり」は本数が1時間に2往復と少ない上、シニア向け割引サービスのジパング倶楽部もまた「のぞみ」利用不可のためその利用者が殺到する。その結果、「ひかり」は、年間を通じて満席状態が続いている。
こうした事情を考えると、はたして「ひかり」32席で大丈夫なのか、混乱するのではないだろうかと心配にもなってくる。「のぞみ」より少ないのは、自由席車両が「のぞみ」3両に対し「ひかり」5両なので指定席車両が少なくなるからだ。場合によっては、自由席車両を減らしてでも、セット販売できる席を増やすことを検討しなければならないかもしれない。あるいは、混乱回避のため、ジャパンレールパスでの「のぞみ」利用を、全面的とは言わないまでも、一部の列車に限ったり、若干の追加料金を払うのを条件としてでも認めてもいいのではないだろうか。
山陽新幹線と九州新幹線では、「さくら」の外国人利用者が目につく。とくに、新大阪と博多の間では、「のぞみ」「みずほ」はジャパンレールパスでは乗れないし、「こだま」は異常に停車時間が長いので、「さくら」は「ひかり」と似たような状況であり、今回の施策では抜本的な解決策にはならないと考えられる。

事前予約制は、当面、最後尾座席のセット販売のみで対応するが、一部のトイレなどをつぶして荷物置き場を設置予定なので、最後尾座席以外の座席と荷物置き場との予約セット販売も2023年度から計画しているという。そして、予約なしで特大荷物を持ちこんだ場合は持ち込み手数料1000円を徴収するとも発表した。
以上の話は「特大荷物」に限っている。3辺の合計が160cmに満たないスーツケースなどは座席上方にある荷棚に収納可能のため、問題ないような言い方をしている。しかし、本当に問題ないのだろうか。
確かに、特大荷物の基準に該当しないスーツケースは、荷棚に置けることは事実だ。しかし、たとえば3人連れの客が1人1個スーツケースを持ちこんだ場合、3つを並べて置けるスペースはない。やむを得ず、前後の座席の棚にはみ出して置くこともある。その場合、後から乗ってきた人が自分の座席上方の荷棚を利用できないこともある。
また、3人席の通路席の利用者が荷棚を利用しようとすれば、B席、A席の人を煩わせて荷物を上げなくてはならない。それが面倒で、重いスーツケースを持っている女性など(外国人だけではなく日本人も)棚に上げるのをためらって通路などに置いている状況もよく見かける。これは、本人だけではなく、通路を歩く人や車内販売の妨げにもなる。
JR日光線「いろは」の荷物置き場
荷物を持ちあげなくても気軽に利用できる荷物置き場を設置することは、乗客に対する優しさなのではないだろうか。
それなのに、東北新幹線や北陸新幹線の様に、座席を減らしてでも荷物置き場を新設しようとする考えをJR東海らはまったく持っていないようにも思われる。座席を少なくすれば減収となるので、席数は現状維持でいきたい。そんな意図を筆者は感じざるをえない。
従来の座席配置は、乗客のほとんどが日本人で、荷物が多くないビジネスパーソンを念頭に置いていたのであろうが、時代は確実に変わりつつある。まもなくデビューする新型車両N700Sも、座席の配置は従来のままだ。8年後にはリニアも開業予定で、東海道新幹線の利用状況も大きく変わるであろう。

在来線ではあるが、訪日外国人の利用が多いJR日光線の電車には、観光列車的要素を組み入れるとともに荷物置き場を充実させた「いろは」という改造車両も登場している。東海道新幹線も、そろそろ荷物置き場を充実させるなど抜本的な改革をする時期なのではないだろうか。