敵対組織を苛烈に攻め上げる分裂抗争下にある山口組。11月27日には、山口組傘下の元組員が対立する神戸山口組の幹部を自動小銃で銃殺した。同月10日の神戸山口組中核組織・山健組組員射殺に続くものだ。
この間、神戸山口組幹部を狙ったほかの襲撃事件も発生している。山口組再統一を悲願とするナンバー2・高山清司若頭の出所を機に、一気に攻勢に出たとみられている。
その一方、山口組内では目まぐるしい人事刷新が行われているという。暴力団捜査に長年携わる捜査関係者が語る。
「和平路線に傾きつつあった山口組では孤立気味とみられていた高山が、実は主導権を握り、強硬策に出ている。
まずは、六代目体制下にある山口組の中核組織たる弘道会の人事。若頭の四代目山本組の中野(寿城)組長を降格し、武闘派を誇る野内組の野内(正博)組長を新たに若頭に就けた。それから、経済力のある小澤組の小澤(達夫)組長を若頭補佐に昇格させた。
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次に、二次団体の処分。一時期、神戸山口組に移籍する姿勢をみせた極真連合会の橋本(弘文)組長に引退を勧告。引退しない場合は、解散するよう厳命した。
解散後、組員はかつて極真連合会から離脱したのち高山のはからいで直参(二次団体)に昇格した極粋会などに移籍させ、さらに神戸山口組から極真連合会に移籍してきた兼一会については、時機を見て直参に上げるという構想も示していた。また、二代目伊豆組の青山(千尋)組長にも引退を迫っている」
橋本、青山両組長は、高山氏が出所後に名古屋入りした際には新幹線ホームまで出迎えに出るほど気を使っていた。それだけに、反発は大きい。山口組幹部内でも異論が出ていたという。
だが、橋本組長はこの要求をのみ、引退の道を選んだ。それに先立ち、兼一会は直参に昇格している。
警察幹部は、状況をこう分析する。
「今回の強引な人事のポイントは、力とカネだ。力がある者、率先して抗争に参加しようとする者、それからカネを出す者を幹部に登用し、組織力を高め再統一を果たそうということだろう。弘道会の人事がまさにその象徴で、野内と小澤を『力』と『カネ』の両輪としたわけだ。
二次団体については、力の要求が強い。高山は出所直後、獄中から出した指示通りに事が運んでいないとして主要な二次団体組長らを叱責し、檄を飛ばしたが、これはすぐに行動に結びついたとみられる」
11月27日の事件は、その最たるものだという。実行犯は、高山氏に気合を入れられたうちの一人とされる、二代目竹中組の安東美樹組長の元付人。武力に長けたボディガードであったと言われている。
また同月18日には、やはり神戸山口組の幹部が熊本で襲撃されているが、実行犯は高山氏に引退を迫られていた二代目伊豆組傘下の幹部らだった。
こうして高山氏は、苛烈な戦闘指揮に加え、人事刷新にも大鉈を振るっているというのだ。それにしても、これほどのことをなしうる原動力はいったいどこにあるのか。
「当然、カネだ。弘道会が(山口組の)六代目を取った背景にも、莫大な資金力があった。さる巨大プロジェクトの建設利権を握り、財源を肥やした。今後進められる国家レベルの事業にも、高山はがっちりと食い込んでいる」
捜査関係者は、そう語った。
一方、警察幹部は高山の資金源について、最近判明した意外な事実を明かした。
「弘道会の資金源のなかには、ある世界的な有名企業も含まれている。かねてフルマークしていた高山の関係者が、当該企業の系列会社に入り込んだりしている」
話を総合すると、高山氏は関係者を代理人として資金源の網をこの国のあちこちに張り巡らしているということだ。同幹部はさらに続けた。
「高山の代理人はひとりふたりではなく、結構な数がいるし、資金源の網はきわめて大きい。巨大な資金源は多大な力を生み出す。発言力も増せば、思うがままに戦争もできる。
こうなると次期組長の座をめぐって、もはや王手をかけたようなものだ。これだけ資金があれば、七代目は取れる」
12月4日、神戸山口組の中枢幹部たる若頭代行の任にあった中田浩司・山健組組長が逮捕された。今年8月、弘道会の神戸事務所前で同会系組員を銃撃したとする容疑だ。
「この事件は当初、練達のヒットマンによるものとみられていたが、実は大幹部自らが実行したものであることが判明した。神戸側は資金面、人材面で窮しているとみられる。高山率いる山口組とは雲泥の差だ」
警察幹部はそう語り、高山氏の七代目就任説を補強した。しかし、そうそう簡単に運ぶものなのか。
「続発する襲撃事件や橋本の一件を見てもそうだが、もはや高山を止められる者はない。その意味では、すでに実質的に七代目と言える。巨額の軍資金を元手に徹底的な粛清を行ったうえで組長に就任するか、あるいは7代目になってそれを実行するか……。いずれにせよ、今後も死傷者が出かねない」
前出の捜査関係者は、そんな不穏な分析をした。山口組再統一の御旗のもと、流血の惨事はなお続くのか。