「健康」をキーワードに、たばこに対する風当たりは日増しに強くなっている。また、消費増税やたばこ税増税による価格の上昇もたばこ業界への“向かい風”となっており、日本たばこ産業(JT)の発表によると、2011年~18年にかけての7年で、喫煙者率は4%ほど低下している。
こうした厳しい状況を国内たばこ産業のリーディングカンパニーであるJTはどう考えているのか。マーケティング戦略、たばこの「買い方」の変化、加熱式たばこの現状――。荒木隆史マーケティンググループ商品企画部長に直接聞いてみた。
「誰かが吸っていた銘柄」を吸う
まず気になるのが、たばこの「買い方」だ。たばこの種類は数多い。ただ、周りを見ると意外に喫煙者が吸っているたばこの銘柄にはばらつきが少ないように感じる。
荒木氏は、「たばこの入り口は“もらいたばこ”や親御さんが吸っていたものを吸ってみる、というのが多い」と話す。選択の幅が非常に広いからこそ、自分で能動的に選ぶ、というよりも誰かが吸っている銘柄を選ぶ傾向にあるようだ。
「高価格帯たばこ」が意外な人気
たばこの入り口については、「誰かが吸っていたたばこ」を選ぶ以外に、若い世代を中心に“意外”な変化も起きているようだ。それは「高価格帯」に位置する銘柄の人気だ。
たばこの価格上昇は「たばこ離れ」を加速する要因として挙がることも多く、「安いたばこに人気が集中するのではないか」と考えがちだ。しかし、意外にもピースやアメリカンスピリットといった1箱500円以上する銘柄が人気を博しているという。
荒木氏は次のように分析している。「最近は新たに2つの傾向がみられる。それは『健康志向』を受けて、やはり吸うにしても低タールのものがいい、という考え方。もう1つが『どうせ吸うのならいいものを吸いたい』という考え方。後者の方々に、ピースやアメリカンスピリットが受けている」
だからといって、価格と「たばこ離れ」が関係ない、というわけではない。「お小遣いへのインパクトを考えて卒煙する、という人も多い」とも荒木氏は話す。そのため、JTでは「リトルシガー」製品として新商品を展開している。リトルシガーは税法上、葉巻たばこに属する。1本に含まれるたばこ葉を1グラム未満に抑えれば、紙巻きたばこよりも税金を安くできる。紙巻きたばこは1000本単位で課税するのに対し、葉巻たばこは1000グラムを本単位に換算して課税するからだ。
このことから、低価格であることが他商品との差別化要素になりがちな旧3級品に分類される「わかば」ブランドや「キャメル」ブランドでリトルシガーを展開している。
ブランド戦略の始まりは「マイルドセブン」
過去から現在にかけて、たばこの消費方法はどのように変わってきているのか。荒木氏は、日本独自の傾向として「低タール化」を挙げた。「もともと、タール量の多いたばこが人気だった。そこから徐々に低タール化の方向へ進んできており、それも一服した今はフレーバーで広がりを見せている」
荒木氏によると、JTで商品ブランディングを意識した最初の商品は30年ほど前に登場した「マイルドセブン」(現在は「メビウス」に改称)だという。マイルドセブンは「セブンスター」の“子ども”に当たる銘柄だ。低タール化の流れをつかみ、セブンスターの低タール商品として企画した。するとヒットを収め、今でも紙巻きたばこシェアのうち、30%超を占める“売れっ子”だ。マイルドセブンの登場後、1つの銘柄でタールの量を変える商品ラインアップを展開する手法が主流となっていく。
ちなみに、一度吸い始めると喫煙者が他の銘柄に変えることは少なく、同じものを吸い続ける人が多いという。なおかつ喫煙者は年齢を重ねるごとに低タールのものを好むようになるといい、高齢社会におけるリピーター確保にも一役買っている。
「非喫煙者」との接点づくり
単にたばこを吸わない人ではなく、最近ではたばこや喫煙者に対して敵意を向けるような“嫌煙”ともいうべき人も増えてきている。こうした状況を、JTはどのように考えているのか。
荒木氏は「選択肢を増やすことが重要だと考えている」と話す。「『たばこを吸っている人に幸せになってほしい』という思いはあるが、吸う人を増やすような活動はしていない」という。マナーや受動喫煙に関する広告を通し、「たばこを吸ってください」というのではなく、「たばこを吸っている人がいてもいい」という価値観を提示しているのがJTの基本方針だ。
そのため「分煙」にも注力している。04年に「分煙コンサルティングチーム」を立ち上げ、公共施設や商業施設の分煙を後押ししている。喫煙所からのにおい漏れ対策や新しいビルを建てるときに喫煙室を設けるケースなどを含め、18年末までで2万件ほどを手掛けている。
加熱式たばこへの考えは?
加熱式たばこに対してはどのように考えているのだろうか。「まだまだ『味』の面で選ばれている、という認識は薄い。周りへの配慮や圧力によって紙巻きたばこからくら替えする人が多い」と荒木氏は分析する。
加熱式たばこには大まかに2種類があり、「高温式」と「低温式」に分けられる。高温式では、フィリップモリスジャパンの販売している「IQOS」が高いシェアを誇り、JTは後塵を拝する状況となっている。
JTは低温式、高温式の両方を展開しており、高温式デバイスは19年8月に全国発売した「Ploom S(プルーム・エス)」だ。12月1日には7980円(税込、以下同)だったメーカー希望小売価格を半額未満の3480円にまで値下げし、シェア拡大に努める。高温式デバイスはフィリップモリスジャパンだけでなくブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンもデバイスも参入するなど、プレーヤーが増え始めている。
荒木氏は「(競合各社は)勝ちたい相手でもあるし、市場を盛り上げていきたい“仲間”としても考えている」と話す。「高温式デバイスは進化の途上にあると思っている。充電面やサイズ面でもまだまだ進化する余地がある。携帯電話が機能向上を追求し、一時期“異常”ともいえるような面白い進化を見せたように、加熱式たばこももしかすると想像がつかないような進化をするかもしれない」
低温式たばこに目を移せば、展開している「Ploom TECH(プルーム・テック)」「Ploom TECH+(プルーム・テック・プラス)」が高いシェアを誇っているという。今後は低温式のシェアを堅持しつつ、高温式でも存在感を示していきたい考えだ。
【お詫びと訂正:2019年12月6日7時00分の初出で、「アメリカンスピリッツ」となっておりましたが、誤りでした。正しくは「アメリカンスピリット」です。また、マイルドセブンについて「売り上げ世界一を記録したこともある」と記載いたしましたが、同銘柄が世界一になったことはございません。12月6日17時、該当箇所を消除、訂正いたしました。お詫びして訂正いたします。】