広瀬すず主演のNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』(月~土 前8:00 総合ほか)。物語は佳境に入り、山田天陽(吉沢亮)も第23週で亡くなり“天陽ロス”の声がSNSに溢れています。
一方、その前週まで描かれていた主人公・なつが仕事と育児の両立に苦悩し奮闘する様子には、ネット上で賛否が渦を巻いていました。なぜこんなに批判の声があがっているのでしょうか?
◆育児・仕事を両立させる開拓者なつ
『なつぞら』の主人公のモデルと言われている奥山玲子さんは、日本における女性アニメーターの先駆者の一人です。
「夫は仕事、妻は専業主婦」という考えが根強く、共働きの家庭が珍しかった時代に奥山さんは結婚出産を経ても仕事を続け、数多くの名作アニメに携わりました。しかし、その歩みは決して簡単ではなかったそうです。
奥山さんの人生をなぞるように、なつも坂場(中川大志)と結婚後、出産・育児でその都度、仕事との両立に悩み、現在も娘を抱えながら壁に向き合っています。
なつより前に妊娠した同僚・茜(渡辺麻友)は、「産後は契約で働いてもらいたい」と社長から言い渡され辞めていきました。その茜の姿を見ていたなつが、「出産後も同じように働きたい」と同僚たちを巻き込んで権利を勝ち取るくだりは、当時の働く女性に対する風当たりの強さと出産後も働くことの難しさがはっきりと描かれ、反響を呼びました。
◆マタハラ、保育園問題…今と同じ問題が描かれる
その後も、役所の職員に「子供を犠牲にしても仕事を続けるのか」と嫌味を言われたり、預ける保育所がなかったり、子供が熱を出して職場から呼び出されたり、仕事で重要で激務のポジションに任命されたり……と、多くの問題が立ちはだかります。
これらの問題は多くの働くママが現在でも直面する困難であり、「あるある」と共感の声も多数聞こえました。
たしかに、今までの朝ドラのヒロインは多くの働くママがいましたが、時代が古いものが多いせいか、すんなりと親族や近しい人が子供を預かることで、主人公の目標達成を手助けする流れになっていました。
預け先に困ったり、保育園に落ちたり、仕事が中途半端になるなど、これほど細かく仕事と育児の両立に悩むヒロインはほとんど見たことがありません。
◆「育児はそんなに甘くない」……ママたちからツッコミも
その一方で、問題に直面しても簡単に他人から手を差し伸べられて解決していくなつの姿に、批判の声も。SNSでは放映後、なつの育児に対し多くの疑問の声が寄せられました。
「すぐに職場復帰するって、生まれた子供に何かあったらどうするんだろ」
「なぜなつ一人のために全員が直談判するの? 茜さんの時にやってほしかった」
「仕事仕事で育児が他人事に見える」
「これじゃイッキュウ(なつの夫・坂場)のワンオペ育児じゃん」
「茜さんに頼りまくって、ずうずうしい」※
…など、我が子よりも自分のやりたいこと=仕事を優先し、簡単に解決方法が寄ってきてクリアする姿に、イラッとする視聴者もいる模様です。
※保育園を落ちたとき、茜さんが「なつの子を預かる」と申し出るのですが、妊娠で辞めざるを得なかった茜さんに預けて自分は活躍するなんて…という声が多くあがったわけです。
◆なぜ昭和の姑のような批判が?
しまいには、赤ちゃんをおんぶする時の髪型や、抱っこの仕方、夫・坂場との家事分担の割合などに対しても批判が出てくる始末……。まるで、『なつぞら』の前にNHKBSプレミアムで放映されている『おしん』で、おしんが何をしても悪く受け取る恐るべき姑・清の小言のようです。
果たしてなつは、そこまでいけないことをしているのでしょうか? 現代では夫の育児参加や育休取得が奨励され、専業主夫をする男性も出てきました。また、シッターや便利な育児サービスの利用などが各所で勧められ、育児をラクするのが悪ではなく、推奨されるような時代の流れになっています。
そんな令和の時代に、なぜ昭和に逆行したような批判が出るのでしょうか?
◆仕事を諦めた茜さん、活躍するなつ
働くママが多くなってきたことは、それだけ夫婦共働きが一般的になって来た証拠です。しかし、いまだに昔の感覚が根強いのも事実で、会社や地域によっては「女性が働くこと」に壁があり、待機児童が問題になるなど、苦労しながら働いているママさんは多いです。
当時の働く女性に対する理不尽さに直面し脱落した茜さん。一方で、なつは周囲の理解ある人々を巻き込んですんなり問題解決しました。
茜さんが脱落した件は、主人公が悩むきっかけになった重要なエピソードですが、「なつばっかりズルい」という感想が数多く出ています。また、夫である坂場は自ら進んで積極的になつに協力し、育児に励みますが、それさえも「ワンオペ育児」「才能ある夫を専業主夫にさせる神経が図太い」と評されています。
◆悩むワーママだからこそ共感できないのかも
批判があるのは、なつが当時の風潮に逆らってまでも働き続けるほどの価値があるアニメーターであることや、働く女性の道を拓く揺るぎない精神が深く描かれていないからという、描き方の問題でもあるでしょう。
それと共に、なつが話の中で戦っていたマタハラや待機児童問題などが“現在でも解決されていない重要な課題”だという点もあるのではないでしょうか。
様々なハラスメントと戦いながら、日々仕事に向き合い、闘っている働く女性たち……問題が現在進行形であるからこそ、働くママの壁を簡単に解決する主人公と自らを重ね合わせることができず、「エコひいきされている」「ご都合展開」などという批判が多くなってしまうのだと思います。
坂場のように男性がちゃんと育児をし、なつが作画監督に抜擢されたように会社も正当に女性の能力を認め、困っていた時に茜が現れたように子供の預け先も簡単に見つかる……今の日本がそんな『なつぞら』のような世界ならば、もしかしたら批判は少なかったのかもしれませんね。
<文/小政りょう>