メルカリのCIOを退任し、プロフェッショナルCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)の道を切りひらくと宣言した長谷川秀樹氏が、改革者と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。
今回のゲストは、北部九州・山口を中心にホームセンター65店舗を運営する「グッデイ」の三代目社長 柳瀬隆志氏。独学で統計分析ツールのRや、プログラミング言語のPythonを習得し、社員とともにデータドリブンな経営を目指しています。
小売におけるデータ分析の面白さ、難しさを聞いた前編に続き、後編では「社内からヒーローを輩出していきたい」という柳瀬氏の人材育成、マネジメント手法と、データだけでは分からない「売れる店と売れない店を分かつポイント」について掘り下げます。
社内からヒーローを輩出していきたい
長谷川: 前編では、柳瀬さんとともにTableau(データの分析/ビジュアル化ツール)を習得して業務に生かそうと取り組む社員の皆さんにも光るものを感じました。柳瀬さんは、人材育成やマネジメントにおいても何か特別な取り組みをしているんですか?
柳瀬: 「得意を伸ばせ」――これに尽きると思います。新入社員の女性が、「海外に行って仕事がしたい」と自己紹介したのですが、そんなふうにうちの社員には、どんなことでも良いから「これをやりたい」「これが得意」というものを見せてほしいですね。そうすれば、こちらもいろいろなリソースを使って、その人の得意を伸ばそうと働きかけられますから。
園芸でも、『みんなの趣味の園芸』(NHK出版)が開催する「寄せ植えコンテスト」で優秀賞、最優秀賞をとる社員がいるんです。会社を飛び出してハウステンボスで庭を作ってコンテストで最優秀賞を受賞したんですよ。僕は、自分が“中の上のジェネラリスト”だと感じている分、特定の分野で高い能力を発揮する人に憧れていて、そういう人をプロデュースして世に出すことに興味があるんです。できる限り、社内からヒーローを輩出していきたいと思っています。同僚にヒーローがいると、その人をお手本に周囲も育つんです。
「人が変わる瞬間」を、どう作るか
柳瀬: 毎月の店長会議では、社外からゲスト講師を呼んでいます。僕が感銘を受けた方をお招きして話してもらうことで、活躍している人の考え方やマインドを、社員に知ってもらいたいんです。活躍している人は、決してネガティブなことを言わないんですよね。独特な感覚で困難を乗り越え、楽しそうにやっている。
店長会議に出席しているメンバーの中には「できなくても仕方ないよね」というものもあったのですが、そこで終わってほしくないんです。
長谷川: 講義を受けた社員が変わってきたという実感はありますか?
柳瀬: 毎回、Googleフォームで感想を書いてもらうんですけど、最初は当たり障りのないコメントが多かったんです。でも、半年もすると感想の量と質が変わってきたんですよね。どんどん長く具体的になって、僕も全部読み切るのが大変なほど。今では言語解析でどんなワードが多いのか調べて把握しているくらいです。
長谷川: 社内研修って、斜に構えてあまり感想を書かない社員もいますよね。それなのに、こんなにたくさん書いてる。
柳瀬: そうなんですよ。僕がすごい人から聞いた話を伝えたり、自分の言葉として話すというやり方もあると思いますが、やっぱり突破した本人が生き生きと話してくれたほうが伝わるんですよね。人を変えるのは説得ではない。あるべき姿を見せると、そちらに寄っていくんですよ。
「自走する部下」を育てるコミュニケーション術
柳瀬: コーチングのフレームワークに、「自分の言葉で考える」というのがあるんです。人間の意識や思考を変えようと思ったら、質問をすると良い。「こうしましょう」というより、「こうするにはどうすればいいと思う?」と聞いたほうが、聞かれた方の意識の中で関与する度合いが上がるらしいんです。
質問されると、どうしても考えちゃうんですよね。先日も長谷川さんに「柳瀬さんって不思議ちゃんだよね」と言わたんですけど、僕はどうして不思議ちゃんなのか、それをどう説明すれば伝わるのか、ずっと考えちゃうんですよね。
長谷川: 何げなく発した言葉で悩ませてしまったようで、ごめんなさい(笑)。
柳瀬: 何か答えた後も、ずっと考えちゃうんですよね。「あのとき、あんな風に答えたけれど、あれで本当に良かったのかな」って余韻がずっと残るんです。「こうしましょう」「はい」だと、意識が断ち切れてスパッと忘れちゃうんですけど。
長谷川: 確かに、「こうしましょう」だと命令されたみたいだけど、「こうするにはどうしたらよいと思いますか?」という問いかけだと、聞かれた方にオーナーシップが生まれそうですね。
柳瀬: 質問するようになってから、社員とのコミュニケーションが取りやすくなったんですよね。それまで「こうしましょう」と言うと、「はい、分かりました」という返事しか返ってこなくて、やりづらさを感じていたのですが、「こうするにはどうしたら良いと思いますか?」「何かアイデアはありますか?」だと僕も話しやすい。強制じゃないし、社長としてのポジショントークで終わらないから。
それに質問すると、すごくいいアイデアが出てきたりするんですよ。僕が思い付きもしないような発想が出てきたりする。ちょっと違うな、と思っても、「それは違うんじゃないの」と言うのではなく、「なぜそう思うの?」「他にもアイデアはないですか?」と、あえてスルーして議論を深めてみるとかね。
思考の枠を広げるコミュニケーション法
長谷川: 一方的にしゃべって終わりっていう上司もいますよね。部下もそれを「はいはい」と聞いているだけ、みたいな。
柳瀬: それだとコミュニケーションがとれていない感じがするじゃないですか。長谷川さんは、例えば1on1(上司が部下を育成するために行う個人面談)のとき、部下とどんな話をしているんですか?
長谷川: その人それぞれだね。あまりこれを話そうとか気負って考えてないかな。沈黙も良しとするみたいな。試験じゃないんだから、偽りの自分が出てきて話すよりも、素のままでよくない? と思うわけです。
柳瀬: コーチングの先生に質問のコツを教えてもらったんですけど、サッカーで言うと、逆サイドにパスするようなものなんですって。意識がこの話に向いてるなと思ったら、そこを掘り下げるのではなく、わざと別の話をするんです。そうすることで思考の枠が広がって、視野が広がっていく。それを常に意識しながら質問を投げかけるんですって。
長谷川: メンタリストみたいやね。例えば仕事の話を聞こうと思ったら、家庭の話から入ってみるとか?
柳瀬: そうそう。全然関係ないスポーツの話をしてみたりとか。違う話をしても、根っこにある価値観は同じなのでつじつまが合って、元の議論を深めることになるんです。
売れる店と売れない店を分かつもの
柳瀬: 小売って他の店でうまくいったことを、ただ単にまねしてもうまくいかないですよね。それってお客さまに、「スタッフの気持ちが入っているか否か」が伝わっちゃうからじゃないかって思うんですよ。オカルトっぽいですけど、気持ちが入っている仕事と入っていない仕事では、明らかにパフォーマンスや結果に差が出てしまうんですよね。
長谷川: そういえば僕、大学時代に3年半程ブラッセリーでアルバイトをしていたんだけど、3年半もやっていると気持ちに浮き沈みがあるわけ。店長からしたら同じに見えたと思うけど、ノッているときはお客さんの方がそれに気づいてチップをバンバンくれるの。
柳瀬: 店舗回りをしていても、自動ドアが開いて足を踏み入れた瞬間、良いか悪いかって分かるんですよね。空気が違うんです。よどんでいたり、さわやかだったり、明るかったり。そういうデータには現れない感覚値みたいなものが人間にはありますよね。
長谷川: 売れてる店舗と売れていない店舗は、何が一番違うと思いますか?
柳瀬: 地元の人に知られていて立地も良く、何が悪いのか分からないのに短期間で何度もテナントが変わって「必ず潰れる店」ってあるじゃないですか。だから本当にさまざまな角度で分析してみないと見えてこないですよね。ITの進歩によって物事の解像度が上がって詳細が見やすくなり、ほんのささいな原因でも突き止められるケースが増えてきました。「何か気になるけど、何なのか」というのが定量化され、ノウハウになって次につながる。
「消費者の好みが多様化している」と、さらっとニュースで言われたりするんですけど、消費者の好みはもともと多様だったんじゃないかって思うんですよね。解像度が上がったから多様なニーズに対応できるようになっただけ。
長谷川: 牛乳1つとっても、低脂肪乳とか無脂肪乳とかいろいろ出てきているもんね。選択肢が格段に増えている。
柳瀬: とても良いことですよね。小売はより良いサービスを追求するのが使命。お客さまの感覚に沿うのが正しい、難しいことはテクノロジーで解決する。低脂肪乳と無脂肪乳が何対何で売れるのか把握し、在庫管理をきちんとして、毎日新鮮な牛乳を届けるというのが小売業としての正しい姿。そこにデータの使い道がある。無脂肪乳のほうが断然売れるから無脂肪乳だけ置いておこうというのは、何か違う気がしますね。