中国電力(広島市)は山口県上関町で計画する上関原発建設で16日、予定地海域での海上ボーリング調査を一時中断すると発表し、県に海域の占用許可廃止を届け出た。中国電は、海上ボーリング調査について、新規制基準での原子炉設置審査に向けて活断層の有無を調べるため、予定地海域の埋め立て工事に先立って実施する必要があるとして、来年4月以降には再開する構えだ。しかし、政府が「現時点で原発の新増設は想定していない」とする中、海上ボーリング調査が完了しても、埋め立て工事を再開できる見通しはなく、宙に浮いたままさまよう原発新設計画の実態が改めて浮き彫りになった。【松本昌樹】
調査地点は、建設予定地の田ノ浦海岸から約200メートル沖だ。中国電が11月8日に準備作業を始めようとして以降、対岸約4キロの祝島から反対派住民が漁船を出して警戒し中国電社員数人が乗った船が近付き移動を求める――。この光景が約1カ月、連日のように繰り返された。中国電は調査中断の理由を「安全が確保できなかった」と説明するが、かつてのような激しい衝突はなかった。
上関原発建設計画が表面化した1982年以降、中国電と反対派住民は鋭く対峙(たいじ)してきた。94年からの環境影響調査、2005年からの原子炉設置申請に向けた詳細調査などの度に反対派住民は抗議活動を展開した。
対立は、中国電が県から予定地海域の埋め立て免許を得た08年10月以降、厳しさを増した。特に09年10月の埋め立て工事着手後、抗議活動や荒天で工事が進まず、着工から3年以内とされた免許期間での完成が危ぶまれると、中国電は09年10月~11年3月に「工事を妨害された」と反対派住民らを相手取って妨害禁止を求める仮処分や約4800万円の損害賠償を求める訴訟、妨害行為に1日当たり936万円の支払いを求める間接強制などを次々に起こした。10年10月には当時の社長が「不退転の決意で取り組む」と述べるほど状況は切迫し、中国電は11年2月に民間の警備員も動員して工事を強行しようとして、反対派住民に負傷者も出た。
しかし、今回は様相が違う。11年3月の東京電力福島第1原発事故で工事中断を余儀なくされ、12年10月の免許切れ後、県の判断先送りの末に16年8月に免許延長を得た際にも、今年7月の再延長許可の際も、県からの「発電所本体の着工時期の見通しがつくまでは埋立工事を施行しない」との要請を受け入れているからだ。海上ボーリング調査に当たっても、県に「現場で漁業者とトラブルが起きないように」と注文を付けられている。
今回の免許再延長期間は23年1月までの3年6カ月。6カ月で終了するとした海上ボーリング調査の中断で、埋め立て工事再開への影響は必至とみられるが、中国電は「期間内に埋め立て工事をできるよう鋭意取り組んでいく」との説明を繰り返すだけだ。
行政手続きなどに詳しい広島大の横山信二名誉教授(行政法)は「埋め立て免許の許否は判断時を基準とするのが原則だ。埋め立て地に設置される原発の設置基準や申請手続きが変わった時点で、免許は失効しているとみるべきだ」と指摘し、免許再延長を許可した県の判断に疑問を呈する。
中国電は09年12月、当時の原子力安全・保安院に原子炉設置許可申請し、12年9月の原子力規制委発足に当たり、申請継続の意思を規制委に届けている。しかし、既存原発の再稼働手続きが優先される中、新規制基準に沿った書類などは「まだ何も出していない」という。中国電自身が島根原発2号機の再稼働などの経営課題を抱える。
政府は21年をめどに次期エネルギー基本計画を策定する。国の方針が定まる2年後まで、一度立ち止まることを考えるべき時ではないか。