「美帆の名覚えていて」遺族が実名公表、匿名に違和感 相模原殺傷事件初公判

相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月、利用者ら45人が殺傷された事件で、娘を殺害された母親が8日、娘の名前を公表した。名前は美帆(みほ)さん。19歳だった。同日から始まる元同園職員、植松聖(さとし)被告(29)=殺人罪などで起訴=に対する裁判員裁判では横浜地裁が被害者の名前を法廷で明らかにせず「甲A」「乙B」といった記号で呼ぶことを決めている。母親はこの呼び方に違和感を覚え、納得がいかないと考えて名前の公表を決断したという。
「美帆は一生懸命生きていました。その証を残したい」
母親は毎日新聞の取材に対して公表に踏み切った理由を「ちゃんと美帆という名前がある」と語る。同日公表した手記では「自慢の娘でした」と振り返り、「美帆は一生懸命生きていました。その証を残したい。美帆の名を覚えていてほしい」と思いをつづっている。
事件後、神奈川県警は「遺族の強い要望」を理由に被害者の氏名を公表しない異例の措置をとっていた。施設の利用者19人が殺害され、26人が負傷したものの、被害者の名前が公表されたのは家族らが取材に公表を了承したケースなどごく数人に限られていた。
母親は取材に対して「突然娘を失ったショックや悲しみで、話ができない状態だった」と述べて実名を公表しなかった県警の対応に理解を示す。そのうえで「美帆はどこに出しても恥ずかしくない娘。障害があって恥ずかしいから出さないということではなかった」と語る。

実名が原則とされる刑事裁判でも、地裁は被害者を匿名にすることを決めた。性犯罪事件のほかに「被害者や遺族の名誉、社会生活の平穏が著しく害される恐れがある事件」でも法廷で名前を明らかにしないことを認める「被害者特定事項秘匿制度」に基づいて、対応を決めたとみられる。被害者参加制度を利用して出廷する関係者は仕切り板で区切られ、傍聴席から見えない状態になる予定だ。
8日から始まる公判では植松被告が起訴内容を認め、弁護側が責任能力がなかったとして無罪を主張するとみられる。被告は「障害者は不幸をつくる」などと差別的な動機を語っており、母親は手記の中で「障害者やその家族が不安なく落ち着いて生活できる国になってほしい。障害者が安心して暮らせる社会こそが健常者も幸せな社会だ」と訴えている。【木下翔太郎、堀和彦】