長崎県の国営諫早湾干拓事業を巡り、潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決の無効化を国が求めた請求異議訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は13日、無効化を認めて国勝訴とした2審・福岡高裁判決(2018年7月)を破棄し、審理を福岡高裁に差し戻した。裁判官4人全員一致の意見。
一連の訴訟での最高裁判決は初めて。小法廷は開門の可否には言及しなかった。ただ、開門に3年の猶予を設けた上に期間を5年に区切った確定判決は暫定的な性格があって特殊だと指摘し、確定判決から長期間が経過していることも踏まえ、事情の変化についてさらに審理を尽くすよう高裁に求めた。小法廷は今年6月、2件の関連訴訟で開門を認めない判断を固めており、こうした経緯から「非開門」での解決を示唆したとみられる。
諫早湾干拓を巡っては、開門を求める漁業者と反対する営農者がそれぞれ国を相手に訴訟を起こした。開門を命じた福岡高裁判決(10年12月)の確定後、開門しないとする判断も出て、司法判断が開門と非開門でねじれてきた。板挟みになった国は14年1月、確定判決の無効化を求めて提訴。1審・佐賀地裁判決(14年12月)は国敗訴としたが、2審判決は国の逆転勝訴とし、漁業者が上告した。
2審は、開門請求の根拠だった漁業者の「共同漁業権」が、確定判決後の13年8月末に更新期限を迎えて切れた点に着目。漁業権の消滅とともに、開門請求権も失われたとした。
これに対し小法廷は、確定判決が開門を「確定から3年以内の13年12月までに開門し、5年間継続」と将来にわたって命じた点を挙げ、「漁業権が切れた13年8月以降も開門が継続されることを命じていたのは明らか」と判断。確定判決後の諸事情の変化について、高裁でさらに審理を尽くす必要があると結論づけた。
菅野裁判長は補足意見で、確定判決の前提となっている漁獲量減少などの諸事情は流動的で、変動する事情を予測した判断は「相当の不確実性をはらんでいる」として「確定判決の判断内容は仮定的で、暫定的な性格が極めて強い」と述べた。請求異議が認められるのは例外的だとしつつ、確定判決から現在に至るまで長期間が経過しており、差し戻し審では最高裁で非開門の司法判断が確定していることなども考慮して判断すべきだと求めた。【服部陽】
江藤拓農相の話 判決を詳細に分析し、関係省庁と連携して適切に対応する。
漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長の話 良識ある判断でほっとした。国と和解しなさい、きちんと議論しなさいという意味だと思う。
国営諫早湾干拓事業
全長約7キロの潮受け堤防で有明海の諫早湾を閉め切り、大規模な農地を造成した事業。農地(約670ヘクタール)と農業用水を供給する調整池(約2600ヘクタール)を整備し、総事業費は約2530億円。閉め切り後、漁業者は漁業不振を理由として開門を求め、営農者は農地への塩害などを訴えて開門に反対している。