イスラムの怒りが渦巻く中東へ…海自「たかなみ」の行く末

【トランプ騒乱の時代と中東、日本】

海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が2月2日、横須賀基地から出航した。乗員約200人で、哨戒ヘリコプター2機を搭載し、今度の中東派遣では、小型船舶からの攻撃に備えて防弾ガラスや機関銃、また大音量で警告を発する「エルラド」という音響装置も追加装備された。「たかなみ」には54口径127mm単装速射砲 × 1門、Mk.15 Mod12 高性能20mm機関砲(CIWS) × 2基、90式艦対艦誘導弾 (SSM-1B)4連装発射筒 × 2基、Mk.41 VLS(ミサイル発射システム) × 32セル、HOS-302 3連装短魚雷発射管 × 2基も通常装備されているから、海賊とか、過激派対策以上に通常戦争用の「軍艦」の機能を備えている。

昨年10月に日本のNSC(国家安全保障会議)は、「中東情勢の悪化」が日本船舶の航行の安全を脅かすとして、海上自衛隊の部隊を「調査・情報収集」目的で中東海域への派遣を検討するようになったが、「中東情勢の悪化」によって、日本船舶の航行に危険が及ぶとは考えにくい。「悪化」とはイランと米国の対立を意識してのものだろうが、米国は日本の同盟国で、またイランは友好国であり、両国の対立で日本の船舶が攻撃されるとは考えにくい。今回の派遣先はオマーン湾、アラビア海北部、バブルマンデブ海峡東側のアデン湾の3海域の公海で、ペルシア湾やホルムズ海峡は対象とならなかった。米国・イランの衝突の舞台の可能性として考えられるのは、ペルシア湾やホルムズ海峡だ。

■日本船を襲う可能性があるとしたら海賊か過激派だが…

日本の船舶を襲う可能性があるとすれば、海賊と過激派だが、海賊は2019年には1月から9月までの期間海賊等事案の発生件数は0件だった(外務省)による。昨年11月12日に、防衛省は、海賊行為の根本的原因であるソマリアの貧困は解決していないので、海賊対処行動を今年11月19日まで1年間延長することを閣議決定したと発表した。その理由として、海賊行為を生み出すソマリア国内の貧困問題が改善されていないことが挙げられた。ソマリアでは、内戦やテロなどによって、10人のうち7人が貧困の下におかれていて(世界銀行、昨年12月9日の記事)、その改善は容易ではない。ジブチを活動拠点とする海賊対処行動は半永久化しそうな様相だが、貧困の改善こそが海賊対処行動より本来は優先されるべきであることはいうまでもない。海賊対処行動の延長も国会での議論にはならなかった。

■アデン湾に接するイエメンでは「アラビアのアルカイダ」が活動

イスラムに訴える過激派は、自衛隊が派遣されるアデン湾に接するイエメンでは「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が活動している。AQAPは、2009年にサウジアラビアのアルカイダのメンバーたちが弾圧を逃れてイエメンに移動して設立したが、サウジアラビアやイエメンを含むアラビア半島からユダヤ人や十字軍、またその支援者を排除することを訴えてきた。アルカイダの活動の動機としてパレスチナ問題は重要で、アルカイダの創設者オサマ・ビン・ラディンは2004年10月にアルジャジーラに寄せられた声明の中で次のように語り、イスラム世界を侵食する米国・イスラエルを激しく糾弾した。

〈神がご存知の通りに我々はそれまでニューヨークのワールド・トレーナー・センタービルを攻撃することなど頭によぎることもありませんでした。しかし、米国・イスラエルの同盟が、パレスチナや、レバノンのムスリム同胞を抑圧し、虐待したことで、私は米国を攻撃することを考えつくようになりました〉

〈1982年に米国がイスラエル軍によるレバノン侵攻を許し、米海軍第6艦隊がイスラエルの侵攻を支援しました。爆撃・砲撃が始まり、多くの人々を犠牲にし、負傷させました。死傷した人々以外にも、恐怖におののき、難民と化したのです〉

AQAPは、反米、反欧テロを行うような組織で、2009年12月に米国デトロイト上空で爆破未遂事件を起こしたことがあるし、2015年1月にはフランス・パリでシャルリー・エブド社を襲撃したこともあるが、イエメンのアデンでは2000年10月に駆逐艦コールがアルカイダの自爆攻撃を受け、17人の米兵が犠牲となった。

■「新和平提案」で過激派を刺激したトランプ大統領

トランプ大統領が1月28日に明らかにしたパレスチナ問題に関する「新和平提案」は、まさにビンラディンが激しく反発した米国・イスラエル同盟を際立って強調する内容だった。この提案は、イスラエルのネタニヤフ首相の構想をそのまま認めたもので、イスラエルの排外的ナショナリストの考えを顕著に表わすもので、パレスチナ人たちの権利を著しく奪う内容になっている。

パレスチナ人たちは、彼らの宗教、政治、経済の中心として機能したエルサレムを喪失し、水など自らの資源のコントロールも奪われる。イスラエルがパレスチナ人たちを軍事的に支配する構図に変化がなく、パレスチナ人たちは自衛の権利も奪われる。トランプ大統領は、パレスチナ人のイスラエルの抑圧に対する抵抗を「テロリズム」と形容するが、ガザを空爆したり、パレスチナ人の住宅を破壊したりするイスラエルの国家テロには目をつぶったままだ。また、イスラエルをユダヤ人国家と認定するトランプ案は、イスラエル国内に住むアラブ人など2割から3割に及ぶ少数民族のアイデンティティーを無視し、彼らを2級市民とするものだ。

トランプ大統領は、2月4日に行われた一般教書演説の中で、2000年10月にイエメン・アデン港に停泊し、自爆攻撃を受け、犠牲となった駆逐艦コールの乗組員の父親を紹介しながら、今年1月に自爆攻撃の首謀者の一人を米軍が殺害したことを誇り、自らの対テロ戦争が成功していることを強調してみせた。過激派の指導者一人を殺害したところで、テロの背景となる米国の介入政策や、貧困、失業などの問題が改善されなければ、反米テロは止むことはない。トランプ政権が続く限り、米国の中東政策は常軌からの逸脱を続けるだろう。日本がそれに追随する姿勢をあまりに見せすぎると、イラク・サマワの自衛隊宿営地に迫撃砲弾が撃ち込まれたように、今回も危険が及ぶ可能性は大いにある。自衛隊はユダヤ人や十字軍へのイスラム世界の怒りが沸騰している中でイスラム世界に向かい、その支援者と見られることも否定できない。

(宮田律/現代イスラム研究センター理事長)