「何も分からないまま」捜査終結 笹子トンネル事故 遺族ら落胆と怒り

「どうして死ななければならなかったのか、問いかける場さえなくなってしまった」――。山梨県の中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故は9日、業務上過失致死傷容疑で再捜査していた甲府地検が点検担当者2人を改めて不起訴処分にしたことで、誰も刑事責任を問われないまま捜査を終結した。遺族からはやり場のない怒りや落胆の声が漏れた。【金子昇太】
点検担当者2人を不起訴不当とした検察審査会は議決書で天井板を支えるつり金具を固定していたアンカーボルトの点検について「脱落の有無は双眼鏡を使用せず、肉眼で行っていた可能性がある」などと指摘し、再捜査を求めていた。
地検は議決を受け、トンネルの点検を可能な範囲で再現したり、工学専門家に意見を聴いたりするなど捜査を続けてきたが、「捜査できるものについてはしたが、点検者が脱落を見落とした証明ができない」と不起訴の理由を説明した。
今回の不起訴処分について、長女の玲さん(当時28歳)を亡くした松本邦夫さん(69)=兵庫県芦屋市=は「事故の真相が明らかになることを願っていたが、裁判さえも開かれない。なぜ事故が起きたのか何も分からないまま終わってしまう。非常に遺憾で腹立たしささえ感じる」と語った。邦夫さんは重大事故を起こした企業や法人に刑事罰を科す「組織罰」の必要性を訴える活動を続けていくという。妻和代さん(69)も「何も社会に問いかけられずに終わってしまった」と落胆した。
次女友梨さん(当時28歳)を亡くした石川信一さん(70)=神奈川県横須賀市=は「なぜトンネルが崩落したか司法の場で解明するしかないと考えていたが、できなかった。遺族が最後の一人になるまで真相解明のために突き進んでいく覚悟でいる」と力を込めた。
一方、中日本高速道路は毎日新聞の取材に「あってはならない重大事故を起こしたことを深く反省し、二度とこのような事故を起こしてはならないという決意の下、安全性向上に取り組みたい」とコメントした。
笹子トンネル天井板崩落事故
2012年12月2日午前8時ごろ、大月市の中央自動車道上り線・笹子トンネル内で発生。コンクリート製の天井板約340枚が約140メートルにわたって落下し、車3台が下敷きになった。9人が死亡し、3人が負傷した。県警は17年、中日本高速道路の事故当時の社長ら8人を業務上過失致死傷容疑で書類送検し、甲府地検は18年、同容疑で刑事告発された2人を含む10人全員を不起訴処分とした。遺族は同年、処分を不服として甲府検察審査会に審査を申し立て、検察審査会は19年7月、当時の点検担当者2人を不起訴不当、残り8人を不起訴相当と議決した。甲府地検が点検担当者2人について再捜査していた。