安倍晋三首相がようやく、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「緊急事態宣言」を発令した。だが、あまりにも遅すぎた。もともと宣言には大した強制力がなく、最大のメリットは「国民へのショック療法」のようなものだった。
3月下旬か、せめて4月1日に出していれば、多少の効果も期待できたが、完全に「出し遅れの古証文」になってしまった。これでは、政府への期待値を下げただけだ。街には「いまさら何をやってんの」という声があふれている。実に残念である。
なぜ、これほど遅れたのか、といえば、政権が官僚の思惑に乗せられたからだろう。
「政府が宣言すれば、打撃を受ける業者への補償を手厚くせざるを得ない」「財政負担も増える」。そこで、「経済対策の発表と宣言発令をセットにして圧力を押し返そう」ともくろんでいるうちに、ズルズルと後ズレしてしまったのだ。まさに官僚が考えそうなことだ。
だが、いまさら悔やんでも仕方がない。こうなったからには、政府もやれることを全力でやるだけだ。
東京都は先行してホテルの借り上げとか、臨時病院を立ち上げる土地の確保などに動いている。これを政府が側面支援するのはもちろんだが、例えば、ワクチンや治療薬の開発促進、マスクや防護服、人工呼吸器の調達強化、医療機関への直接支援など、政府ならではの仕事に一層、力を入れるべきだ。
とりわけ、決定的に立ち遅れているのは自衛隊の活用ではないか。自衛隊には医務官はもちろん、生物・化学戦に対応する部隊も機材も、機動力もある。横浜でのクルーズ船対応でも、自衛隊を最初から「司令部の設置場所」など重要な意思決定に関わらせておけば、船内感染はもっと防げたはずだ。
自衛隊出身の佐藤正久参院議員(自民党)は、私のユーチューブ番組で、「自衛隊が決めていれば、司令部は絶対に船内に置かない。当然、船の外に置く」と語っていた。ところが、実際は厚労省が現場を仕切って、自衛隊は「単なる下請け仕事」を任されただけだった。
その結果、厚労省職員などは何人も感染したが、自衛隊員には1人も感染者が出ていない。自衛隊の作戦遂行が完璧だった証拠である。
緊急事態宣言の発令を受けて、改めて患者の輸送支援などに自衛隊を活用する案が検討されている。だが、下請け仕事ではなく、感染防止にかけてはプロの自衛隊員をもっと意思決定段階から参画させるべきだ。
米国は軍の病院船を派遣している。自衛隊員が臨時病院の設営や医療の現場で走り回る姿を見れば、国民は「国も本気だ」と感じるだろう。宣言発令の遅れで失敗した「ショック療法」にもなる。
感染拡大で先行した欧米の例を見れば、これからのフェーズ(段階)は「ウイルスとの戦争」である。政府は戦争にふさわしい態勢を整える必要がある。安倍首相も、もっと国民の前に登場すべきだ。「もっとも足りないのは政府の危機感」などと言われれてはならない。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。