学校再開に「待った!」ネットで署名活動した高校生らの危機管理

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、臨時休校が続く学校。公立校は、その期間や再開のタイミングは行政が判断する。兵庫県では4月初旬、新学期からの学校再開が一時決まったが、これに当事者である県立高の生徒たちが「時期尚早」と待ったをかけた。ネット上で反対の署名活動を展開すると、神戸出身の三木谷浩史・楽天会長が後押しのツイートをするなど、大きなインパクトに。高校生らの見事な“危機管理”とは-。(藤木祥平)
知事会見の「衝撃」
発端は4月3日の井戸敏三知事の記者会見だった。「感染対策を徹底した学校のほうが、かえって感染リスクが少ない」との分析から、知事は新学期の8日から県立学校を再開すると表明したのだ。
この日の県内の感染判明は6人。翌4日には15人になるなど、楽観できない情勢だった。県教委の方針決定にかかわらず、神戸市の久元喜造市長のように「状況を注視する」と再開判断を留保した自治体もあった。
署名活動の発起人となった県立高校生7人のうちの1人で、2年の男子生徒(16)は、知事会見の内容に「衝撃を受けた」と話す。生徒や教員らの感染リスクは決して低くないと感じていたのだ。
7人は中学校時代の友人関係などからつながったグループ。ツイッターのメッセージ機能を使って、知事に翻意を促し、休校期間を延長するための案を出し合った。すぐに浮上したのがネットで反対署名を集めること。発案した別の男子生徒(16)は「最初は冗談半分の気持ちだった」と、実効性を意識せずにした“出たとこ勝負”だったと明かす。
三木谷氏ツイートで全国区に
利用したのは署名サイトとして有名な「Change.org」(チェンジ・ドット・オーグ)。当初の目標は千人だったが、SNSなどで拡散されるとたちまち話題となり、あっという間に目標人数を突破した。
思わぬ反響に7人の間では「実感ないなあ」と驚きの声が上がりつつも、目標人数を思い切って10倍の1万人に切り替えた。
そんな高校生の活動を、一躍全国区に押し上げたのが楽天・三木谷会長のツイッター上でのつぶやきだった。自身がオーナーを務めるサッカーJ1のヴィッセル神戸の選手にも感染者が出ていたことから、3日には強い口調で県の方針を非難していた。
《井戸敏三知事、認識が甘過ぎます兵庫県学校再開、狂気の沙汰としか思えない》
さらに翌4日には《休校延長要請の署名を集めているそうです。良ければ広めていただきたいです》とツイート。これにより、署名サイトへの注目が急速に高まった。
《これは心強い!》
《うれしい!》
グループ内のメッセージのやり取りでは、三木谷氏の側面支援に歓喜の声が飛び交った。発起人の男子生徒は「大きな励ましになった」とし、もう一人の男子生徒も「衝撃的だったし、うれしかった」と語った。
若者らの切実な思い
以降、瞬く間に賛同者が増加。6日には約1万6千人分の署名を教育長に提出することができた。
生徒らが同時に出した陳情書は、「換気の徹底でウイルスが防がれるのであれば、より感染力の低いインフルエンザによる学級閉鎖は、すでに防がれているはずなのです」と指摘し、県教委の再開判断を批判。さらに「自分の気づかぬうちに家族や身の回りの人を感染させてしまう、最悪の場合には、自分のせいで大切な人を死に追いやってしまう」と強い危機感を記し、行政側に再考を迫った。
男子生徒は「県庁に行ったのは初めてで緊張したが、県関係者から『高校生でこのような活動ができるのはすごい』と声をかけてもらえた」と振り返る。その後も賛同者は増え、最終的には2万人を超えた。
県はこの署名提出の直前、学校再開の方針を撤回し、休校を延長すると発表した。6日の会見で、高校生らの活動の影響を問われた井戸知事は「ネット上でいろんなことが言われているのは承知している」と言及した上で、「そのことが影響したわけではない」と述べた。
休校中のこの間、親の買い物を手伝うとき以外は自宅にこもっているという男子生徒。「本当は学校が大好き。早く友人にも会いたい」と話していた。