【ニュースの核心】大型連休明け、永田町はどう動く? 土壇場の「一律10万円給付」転換は、安倍首相一流の“危機管理”

大型連休明けの永田町は、どう動くのか。新型コロナウイルスの終息が見えないなかで、「ポスト安倍」をめぐる自民党内の暗闘は、水面下で激しく続きそうだ。
節目は4月16日だった。安倍晋三首相が、自民党の二階俊博幹事長と公明党の強い要請を受け入れて、国会に提出寸前だった2020年度補正予算案の修正に応じたのだ。まったく異例の展開である。
補正予算案には、事業費108兆円に上る経済対策の目玉だった、「減収世帯向け30万円給付」が盛り込まれていた。それを外して、二階氏や公明党が求めた、国民1人当たり「一律10万円給付」に代わった。
30万円給付は、自民党の岸田文雄政調会長肝いりの政策だった。岸田氏は官邸で「安倍首相に提言し、受け入れてもらった」と自慢気に語っていたものだ。岸田氏を後継候補として売り出したい安倍首相と財務省の振り付けはミエミエだったが、二階氏の一言でひっくり返されてしまったのだから、岸田氏とすれば、腸(はらわた)が煮えくり返る思いだったに違いない。
安倍首相が批判覚悟で予算案の修正に応じたのは、二階氏と公明党を敵に回せば「政権の屋台骨が危うくなる」と察知したためだろう。30万円案は所得制限を厳しくしたので、受け取れる世帯が全体の2割にとどまり、世間の批判が強かった。
経済対策と同時に発令した緊急事態宣言も「遅すぎる」と指弾され、布マスク2枚配布や、歌手とのコラボ動画も評判が悪かった。そのうえ、30万円案で強行突破を図れば、内閣支持率の下落が止まらなくなる懸念があったのだ。
岸田氏や盟友である麻生太郎副総理兼財務相のメンツを潰す結果になっても、土壇場で方針転換したのは、安倍首相一流の危機管理のなせる技だったに違いない。さすがは長期政権を担う首相である。
これで一挙に不透明感が増したのは、岸田氏の行く末だ。
目玉政策をまとめた手腕が評価されるはずだったのに、逆に「世間の風向きが読めない政治家」になってしまった。これを覆すのは、並大抵ではない。
もともと、与党内では現金給付だけでなく、「消費税を引き下げるべきだ」といった声も強かった。それを無視して押し込んだ案が吹き飛ばされてしまったのだから、完全に裏目に出た形である。安倍首相も麻生氏も、しばらく見守るしかないのではないか。
岸田氏と並んで、「ポスト安倍」候補の1人である菅義偉官房長官は、この逆転ドラマを無傷でしのいだ。というより、同じたたき上げの政治家として、心を通わせる二階氏が求心力を高めたのは、間違いなくプラスだろう。ただ、だからといって、先の展望が開けたわけではない。菅氏も耐え忍ぶ日々が続く。
安倍首相が後継候補に名を挙げた茂木敏充外相や加藤勝信厚労相らも新型コロナウイルス問題に集中せざるを得ず、権力闘争にかまけている場合ではない。
かくて、自民党内の暗闘は役者たちが互いににらみ合ったまま動けない状態である。だが、国民には不都合でもなんでもない。まずは、新型コロナウイルスを退治する。政権を担う人々は、それに全力を集中してほしい。 (ジャーナリスト・長谷川幸洋)